第86話 可愛い柄頭
外出権を獲得したエリカ。 これで2時間は家の外に出ていられる。 後ろから2名の監視役が後を付けて来ているが、監視役はエリカに「命令」できない。
(どこに行こうかな)
束縛から開放されるのが目的だったから行きたい場所は特にない。 エリカはふらふらと北の商店街のほうへ歩いて行った。
まずは女の子らしくウインドウ・ショッピングだ。
「あっ、この短剣の柄頭かわいー」
「こっちの斧も肉厚で重厚な刃ぶりが魅力的ね」
「ミスリル製のブレスト・プレートか。 ちょっと試着してみよう。 おお、驚きの軽さ! いいなー、コレ。 お値段は... と。 うげっ、5千万ゴールドもするの?」
久しぶりに一人で過ごす自由時間にエリカは大はしゃぎ。 こんなことなら、もっと早くシバー少尉を脅迫しとくんだった。 でも過ぎたことを悔やんでも仕方がない。 次は本屋さんで立ち読みよ!
小一時間ほどをそうして過ごしていると小腹が空いてきた。 そういえば、北の商店街にはイートイン・オンリーのケーキ屋さんがある。 買ったケーキを店内でしか食べられない高級店だ。 職人気質の頑固店主が、買ったケーキの持ち帰りを断固として認めない。
(ケーキはシバー少尉がときどき買ってきてくれるけど、あの名店のケーキは長いこと食べてないのよね)
あの店のケーキの味を思い出すだけでエリカの心は甘く切なくうずく。 胸キュンというやつだ。 居ても立ってもいられなくなり、エリカは名店のケーキ屋へ向かって凄まじい速さで歩き出した。 常人の2倍の速度であるが、監視役2名は難なくその後についていく。 彼らも並の人間ではない。
◇❖◇
ケーキ屋に近づくと、大勢の人が集まっていて何やら騒がしい。
(何かあったのかしら?)
人混みをかきわけて名店ケーキ屋に近づくと、入り口のドアが大破していて軍服を来た者が何人も出入りしている。
「何があったの?」
エリカは姿が見えないのを活用して店内に入った。 すると、中にはメカジキ少尉とガブリュー大佐がいた。
(こいつらが関係してんの? ホントいったい何があったのかしら?)
エリカに続いて店内に入ってきた監視役2名にメカジキ少尉が気づいて「おや?」という顔をする。 少尉と監視役2名は当然顔見知りだ。
メカジキ少尉とガブリュー大佐はエリカに「命令」ができるから、ここにエリカが居ることを知られると自由時間が即座に終了してしまいかねない。 さっき獲得したばかりの外出権を没収される恐れすらある。 ガブリューはエリカの福利厚生に無頓着だし、メカジキに至っては人を人とも思わないところがある。 エリカは一目散にケーキ屋から逃げ出した。




