第85話 外出権
無性に散歩に行きたくなったエリカは、シバー少尉に外出の許可を要求することにした。
チン!(シバー少尉!)
「はいっ、ご用でしょうかエリカさん?」
ちん(お外に行きたいんだけど)
「外に何か用事でも?」
チン(特に無いわ。 けれど用事がないと私は外にも出られないのかしら?)
エリカはシバー少尉が相手であれば、かなり込み入った内容を「チン」の音1つで伝えられるようになっていた。 エリカのベル技術の向上はもとより、シバー少尉の側にベル音に対する感受性が育くまれたためである。
「うーん」
シバー少尉は頬に右手を添えて考え込んだ。
チン(ザルス共和国は人権の概念も無いような後進国なのかしら?)
「うーん、それは......」
チン(人を家に閉じ込めておいて、利用したいときだけ利用するのかしら?)
エリカの指摘はシバー少尉の良心を刺激したが、エリカに直ちに外出の許可を与えるには至らなかった。
「うーん、ちょっと大佐に問い合わせてみますね」
そう言ってシバー少尉はケータイをどこかから取り出そうとする。
大佐に連絡されると面倒だ。 エリカはベル音の雨あられを少尉に浴びせかけた。 チンチンチンチンチン!
あまりのうるささに、ケータイを操作しようとするシバー少尉の手が止まる。
「エリカさん、うるさ... 音を止めてください」
チン!(シバー少尉! ちょっとお聞きなさい)
「はい。 なんでしょう」
チン?(あなた、私が《支配》から解放された後のことも考えておいたほうがいいんじゃない?)
「エリカさんが... 《支配》から解放?」
そんな事態をシバー少尉は考えてもみなかったらしい。 エリカ本人も《支配》を解く方法を見出だせていないから当然かもしれないが。
チン?(あんた、ひょっとしてファントムさんである私がいつまでも《支配》に甘んじると思ってる?)
「そ、それは... そんなことは」
シバー少尉はガブリュー大佐と違って、ファントムさんが神秘的な存在だと信じている。 だから、エリカのはったりも効果てきめんである。
チーン(私はやがて《支配》から解放される。 そのとき、大佐は当然ブチ殺すとして、あなたはどんな目に遇わせてあげようかしら)
「非道いことは堪忍してください」
ちん(よろしい。 ではシバー少尉、あなたの上官として命令します。 私を散歩に行かせなさい)
「わかりました。 じゃあ、1時間だけなら。 あと寄り道は」
チンチンチンチンチン!(バカ言ってんじゃないわよ!)
「え...?」
チン!(散歩なんて、それ自体が寄り道みたいなもんじゃないの!)
「そう言えばそうですね。 では、1時間の散歩を」
チンチンチン(ノンノンノン)
「えと、何かご不満でも?」
チン(どこの世界に散歩を1時間で済ます人がいるのよ)
「散歩なんて30分ぐらいじゃないですか?」
チン(私は違うの。 最低でも2時間は散歩するの)
シバー少尉は難色を示す。
「2時間ですかー?」
チン(そう、2時間よ)
「ちょっと長くないですか? 他のスケジュールのこともありますし」
チン(だいじょうぶ)
「わかりました... 指輪はちゃんと持っていってくださいね」
こうしてエリカは毎日2時間を自由に外出できるようになった。




