6. 夜会 中編
煌びやかな会場。華やかな光が差し込み、彩られたそこはまるで異世界のように美しい世界だった。
その中を堂々と闊歩するのは、アリシア第一皇女。
美しいその美貌は輝かんばかり。
しかし、表情はほとんど動くことなく、乏しかった。その様を見て、人々はコソコソと囁き合う。
「ああ、来たわ。アリシア第一皇女殿下よ」
「まあ、本当ね。お人形さんの様に美しいけれど、お優しいお言葉一つないのですってね」
「なんてお冷たい方なのでしょう」
ひそひそ。
今日も夜会は賑やかで何よりだ。
アリシアはそんなことを思いながら、エスコートしてくれているケヴィンに話しかけた。
「ねえ、ケヴィン? あのお話をしている人たちの所へ行ってきてもいいかしら。ちょっと、一言言ってやりたいの」
「駄目に決まっているでしょ! 僕の心臓が止まりますからやめてください」
「あら残念」
ちっとも残念そうではなく、むしろニッコリと笑って見せるアリシアにケヴィンはめまいを感じる。
ケヴィンはアリシアに懇願した。
「殿下、お願いですから今日は大人しくしておいてくださいね? 貴女さまにはご注目が集まっていますから・・・。何かしなくても、常に陰口を囁かれている貴女なんですからね」
ケヴィンのたしなめに、アリシアはそっと笑みを消した。内心では、口の端を下げている。
「全く、お前、それが主に対する態度? わたくしが陰口を叩かれているのを知っているなら、すぐさま止めてきなさい。それが優秀な従者ってものではなくて?」
アリシア自身は、美しく微笑んでいるだけだ。しかし、それが紳士や令息の心を奪ってしまうようで、夫人や令嬢たちからは嫌われていた。
もちろん、味方となってくれる令嬢もいる。だが、世間は心優しい人たちばかりではないのだ。
そのために、嫉妬した夫人達や令嬢達の間では、アリシアはとてつもなく我儘で暴君なのだ、という噂がまことしやかに囁かれていた。
(ま、わたくしが暴君なのは正しいかもしれないけれど)
ふっと自嘲気味に微笑むと、たまたま近くを通りがかっていた子爵が目を見開く。
アリシアはそのさまに気づかず、上機嫌な様子で使用人からワインの入ったグラスを受け取った。
ケヴィンはすぐに子爵の様子に気づいていた。そして、彼に気づいていないアリシアにも。
ケヴィンは咄嗟にアリシアを自身の身体で覆い、そっと子爵を睨みつける。
子爵はビクッと肩を揺らすと、そそくさと目を逸らしてどこかへ消えていった。
「ケヴィン」
それまでワインを楽しんでいたアリシアは右斜め前の方向へ鋭い視線を向けている。
反射でケヴィンもそちらを向いた。
「・・・なんですか、あれ」
「おそらく、アレね」
ケヴィンの「あれ」とアリシアの「アレ」。
同じ発音をするはずの二つは、違う意味を持っていた。アリシアのものは明確な意味を理解して発せられたものだ。
「まさか・・・」
「ええ」
ケヴィンの青ざめさせた顔に反し、アリシアの顔はにんまりと笑みを描いていく。
美しい美貌に浮かんでいた先ほどまでの胡散臭い作り上げられた笑みはとうに消え、輝かしく心の底から楽しんでいる笑み。
それを見て、彼女の従者がそっと顔をひきつらせたのは言うまでもないだろう。
ぬふふ、嫌な予感。←




