5. 夜会 前編
「あら、ケヴィン。似合ってるじゃない」
少々上から目線の主に、従者ケヴィンはそっと苦笑した。
「そうですか、どうもありがとうございます。殿下もお美しいです。流石、言い伝えの巫女様でいらっしゃる」
「言い伝えの巫女だから何? わたくしには関係ないわ」
「ですが、巫女は代々美しいと評判ですよ」
ケヴィンのとりなしに、アリシアが美しい顔をそっとしかめた。そのフレーズが気に入らなかったらしい、と従者はすぐさま察した。
「評判だなんて。評判っていうのはね、人からの評価なのよ? それよりもっと、自分の評価を大切にしたほうが良いわ。ケヴィン、わたくしは常日頃言っているでしょう」
「誰かに惑わされては駄目よ、と」
続きを言おうとしたアリシアを遮り、先読みして言う。
アリシアが言おうとした言葉と全く正しかったからか、彼女は満足げに頷いた。
「そうよ。もっと自分で自分を正しく評価してあげて。周りの人たちはあくまで色眼鏡をかけてしか見られないんだから」
「はい。ですが、殿下のお言葉は、何があっても信じると僕は決めていますよ?」
真面目くさった顔をして真摯な声でケヴィンは報告した。
アリシアは信じられないとばかりに目を見開き、そっと頰を染める。柔らかな弾力を持った頬が色づいてゆくのを、ケヴィンは意外な思いで見つめた。
(殿下は意外にこう言う、忠誠を誓っていると言うような言葉に弱いのか? それならば、今後も忠誠を誓っていることをこれからもどんどん示していかなければ)
ちょっぴり、いやだいぶ? ずれたケヴィンだった。
さて、話は戻り、赤みが差した頬のままのアリシアが明後日の方向を向く。
「ま、わたくしは貴方に対して真実しか言わないから、信頼してくれても良いわよ。・・・多分」
「多分と付け加えないでください、不安になります!」
「うふ、まぁまぁ」
柔らかい笑みを浮かべたアリシアと、口ではああ言ったものの嬉しそうな表情のケヴィン。
どっちもどっちで、なんだかんだ言ってお似合いなのだろう。
♢♢♢
色々と話していた二人だが、今日は夜会だ。色々と準備して、何だかんだでもう一時間後に二人の入場時間は迫っていた。
言い伝えの巫女と呼ばれるアリシアはその美しさを十分に活かしたドレスを纏っていた。
ケヴィンの色である、グレーを基調としたドレス。グレーと聞くと、少しくすんだ色味を想像するかもしれないが、東方で生産されている「シルク」と呼ばれる美しい艶がある、さらりとした生地を用いているために程よい艶が出ていた。
さらに、ドレスの裾や模様を描く糸には、輝く銀糸が使われており、決して地味ではなく、派手でもない上品なものとなっていた。
輝く金髪の髪の毛はグレーのリボンで纏められている。少し出てしまったらしい後れ毛すら、彼女を引き立てていた。
アクセントに金色のピアスは主張するものではなく、むしろ柔らかな彼女の雰囲気を表しているかのように柔らかなものだった。
ケヴィンは、翡翠色を基調とした衣装。クラバットは楚々とした白色が使われている。
翡翠色と白色で作り上げられた雰囲気は洗練された人特有の清潔感が漂っていた。
二人は並んでアリシアの部屋を出た。
そこから、ケヴィンがアリシアをエスコートしながら、会場まで行くのだ。
周りに固められているのは彼女たち、主に皇女であり言い伝えの巫女とされているアリシアを守るための護衛だ。かなりの数がおり、警戒態勢が万全であることを悟らせる。
「本当に、こんなに護衛っているの?」
コッソリとパートナーに尋ねるアリシア。
正直、同じ思いだったものの、ケヴィンは立場的に言えることではない。彼らを統括し、護衛案はこれで構わないか、という騎士団長に許可を出したのは、自分であるのだから。
「いるんですよ。貴女さまは特別なお方ですから。お守りするのは当然です。・・・面倒とか言わないでくださいね!?」
「特別特別って・・・。みんなそれを言うけれど、わたくしの外見を見ているだけじゃない、結局」
唇をとんがらせるアリシア。
はっきり言って、とてつもなく可愛らしい仕草であり、ケヴィンの胸を打ち、理性を少し崩すほどの威力があったのだが、本人はそれに気づいていない。
隣で胸の悶えに苦しんでいる(ただし、表情は真顔)様子に気づかないアリシアは、そう思わない? とケヴィンを見上げた。
そう、見上げたのだ。
つまり、アレである。女性(男性の場合もある)がぐっと可愛らしい表情で相手を視線だけで、胸キュンさせ、ぐはっという血が吹き出そうなほどの致命傷を負わせることができる、アレだ。
(嘘だろ、可愛い。可愛い。可愛い。可愛い)
はい、ケヴィンの脳内です。ご覧ください、可愛いしか映っていませんね。アリシア大好き成分が分泌されていますねぇ。
・・・というふざけた実況はともかく、ケヴィンの心は完全に、アリシアの上目遣いに悩殺されていた。
そのことに気づかないアリシアは、単に返事がないケヴィンが気になり、すっと足を止めた。それから、くるっと真顔で固まっているケヴィンの額に、何を思ったか手を当てた。
「っ!?」
「うーん、熱はないようね。どうかしたの、ケヴィン? いつもなら、すぐに返事をくれるのに」
アリシアの声音に、ほんの少しの拗ねた色合いが込められていることに気づいたケヴィン。
「っ、申し訳ありません。殿下、確かに見た目だけで判断する愚か者もおりましょう。だからこそ、殿下をそんな奴ら・・・こほん、失礼しました、そのような者からお守りせねばならぬのですよ」
脳内は、アリシア可愛い一色だったが、彼がアリシアの言葉を聞き逃すはずもなかった。
そっなく答えたケヴィンに、アリシアがあら! と嬉しそうに微笑む。
「もちろんでございます。殿下」
「そう? 早とちりしてしまってごめんなさい」
「いえ、お気になさらず」
二人はそっと微笑みあうと、また進み始めたのだった。
(やはり、殿下はただお美しいだけじゃない。殿下だからこその魅力がおありだし、殿下は中身も美しくていらっしゃる)
(ケヴィンはやはり、優しいわ。わたくしを慰めてくれる彼の優しさには本当に救われてきた。これまでも、そして多分、これからも)
二人は笑みの下でそんなことを考えつつ、会場までの道のりをゆっくりと進んでいた。
ありしあ と けゔぃん は りょーかたおもい




