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21. 婚約者選定 ーep 7 ー

 ガラスのショーケースの内側で、誇らしげに光り輝くジュエリーたち。それらを眺めて、レオンハルトは嘆息していた。


「はあ……これは素晴らしいものですね」

「お褒めいただき、ありがとうございます。これは我が国に伝わる伝統的なカットの仕方をしておりまして。それゆえ、独自の光り輝くジュエリーをご覧いただけるのです」


 ニッコリと営業スマイルを浮かべて、レオンハルトに丁寧に説明するアクセサリーショップの女性店員。アリシアはその様子を少し離れた場所から観察していた。


(恐らく、好きな女性の方なのに、他の女性と買い物をしたものを贈られても、嬉しくないはずよ)


 まあ、そのお相手がレオンハルトをどう思っているかは全く知らないけれど。


 アリシアは自分の思考に肩をすくめ、自身もアクセサリーを新たに購えと言われていたことを思い出し、ショーケースに歩み寄った。

 自身の翡翠色の瞳にあわせるならば、まずはエメラルドだ。


「う〜ん、こちらのエメラルドよりもこちらの方が綺麗ね」

「はい、そうですね。ですが、こちらの方が少し粒の大きさが大きくなっています」

「大きさも重要よね」


 この店の店主がアメリアに接客を始めたとき、


「アリシア様」


 レオンハルトに声をかけられ、ふっと振り返る。自分の金髪がふんわりと広がったのを感じながら、アリシアは首を傾げた。


「はい?」

「これとこれで迷ってしまったのですが……どちらの方がおすすめですか?」

「え?」


 レオンハルトの方へ近寄ると、とても綺麗な青色の宝石がたくさん並べられていた。対応していた店員は、何故か少し困ったような笑みを浮かべていた。


 彼が悩んでいるのはどうやら、同じ石で作られたものだが、モチーフが違ったピアスの二つだった。


「ええと……。まず、お聞きしたいのですが、その公爵令嬢のお色は何色ですか?」

「豊かな銀色の髪と、優しげな紫色の瞳を持っている」


 アリシアは脱力しそうになったが、なんとかぐっと堪える。そして、大きく笑みを浮かべると、子犬のように返答を待っているレオンハルトに駄目出しをした。


「こちら二つとも贈り物には相応しくないと存じます」

「ええっ!? な、なぜでしょう!?」

「公爵令嬢は、レオンハルト殿下の婚約者なのでしょうか?」

「いいえ。違いますが……」


 彼の返答は、さらにアリシアの疲労を促した気がする。


「では、なぜご自身の色をお贈りになろうと?」

「え……私からの贈り物ですし、それが分かるようにしたいと思いまして」

「それははっきり申し上げると、駄目です。本来、ご自身の色をお贈りになるのは婚約者しか許されません。レオンハルト殿下は、そのような立場にあらせられない。となると、そのご令嬢ご本人の色をお贈りになるのが一番良いかと存じます」


 えっ……とショックを受けているらしいレオンハルトに、アリシアは眉を下げて妥協案を出した。


「……それでも、と仰るのであれば、せめてタンザナイトなどを贈られるのがよろしいかと。あれは紫色にも青色にも見えますし……そうよね?」

「はい。それでしたら、一番よろしいかと存じます」


 振られた店員も、あわてて頷く。


 どうやら、先ほど困った笑みを浮かべていたのはそういう事情かららしい。アリシアに向けてこっそり目礼してきた。


 アリシアはにっこりと皇女らしい気品を伴った笑みを意識して作り上げると、レオンハルトに向けた。


「わたくしでよろしければ、お手伝い致しましょうか?」


 店員では他国の王太子相手に強く出ることは出来ない。その点、ほとんど対等な立ち位置にいるアリシアがそう申し出るのが一番良いはずだ。

 レオンハルトの表情を見ると、アリシアは少し驚いた。もちろん、表には出さないが。


 彼の表情は、先ほどまでの何故指摘されているのか分からない、と言った戸惑いの類いのものから変化していた。先ほどまでは見られなかった理知的な光が青色の瞳には宿り、心底不思議ですという表情は穏やかで上品、そして賢いと相手に悟らせる表情に塗り替えられていた。


(まさか……わたくしのことを試すためにそういったとかはないわよね?)


「アリシア殿下」

「はい。何でしょうか」

「先ほどは変なことを申し上げてしまい、申し訳ありませんでした。どうにも戸惑わせてしまったらしい」

「……わざとなのですか?」


 アリシアが笑顔をふんわりと消して、怒りではなく戸惑いを込めた声で尋ねた。レオンハルトは食えなさそうな笑みを浮かべ、しゃあしゃあと頷いている。


「ええ。貴女がどんな方なのか、知りたかったのです。……まあ、それにしては稚拙だったし、何が知れたんだという感じですが」

「……そうでしょうね。わたくしは、お眼鏡にかないましたかしら?」


 少し皮肉げに言ってやると、彼は苦笑した。


「そうお怒りにならないでください。……それは私の台詞ですよ、アリシア殿下。私は貴女さまのお眼鏡にかないましたでしょうか? 何しろ、一応緊張関係という状態にある国同士ですからね、国からは探ってこいという命令を受けているわけですよ。それはそちらも同じでしょう?」


 今までの腹の探り合いのような雰囲気とは違い、やけにざっくばらんに話し始めるレオンハルトに、アリシアは全力で戸惑いを感じていた。笑みは浮かべつつも、どう返答すべきか困って口を閉ざす。


 そんなアリシアに、レオンハルトはまあ良い、と呟くと話を続けた。


「それにしても、驚きましたよ。私がやってきたタイミングでまさか———殿下の婚約者選定を行っているなんて」

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