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22. 婚約者選定 ーep 8 ー

「それにしても、驚きましたよ。私がやってきたタイミングでまさか———殿下の婚約者選定を行っているなんて」


 レオンハルトの言葉に、アリシアはあっ、と小さく声を上げた。


 何か、嫌な予感がした。


 レオンハルトがいやらしいほど美しく愛想の良い笑みを浮かべて、アリシアを見つめる。


「それにしても、我が国が今回こうして帝国にやってきたのは、少しでも帝国と繋がりを持ちたいがため」


 その前置きに、アリシアは笑みを浮かべつつ、無意識のうちに後ずさった。


「……ええ。我が国もそれを存じておりますわ」


 我が国、と国を引き出すことで、これは個人の間の問題ではないとアリシアは牽制したつもりだった。

 しかし、それが裏目に出た。

 レオンハルトはいっそう、上品に笑みを深めると、口を開いた。


「ええ、国同士の繋がりを求めているんですよ、我が国は。となれば、その国の皇女と一方の国の王子が婚約するのは不思議ではありませんね?」


 そうじゃありませんか? とレオンハルトは歌うように言った。そこでアリシアはようやく自身の失敗を悟る。

 国同士の関係を深めたいのならば、この婚約は断れないだろうとレオンハルトは言いたいに違いない。

 アリシアは笑顔を引っ込めると、神妙な表情を浮かべた。それは一見、とても悲しそうに見えるように。


「なるほど。確かに不思議ではありません、ですが、我が国の場合、皇女の婚約者選定はいくつか段階を設けて行なっています。現在の候補者の方々は、最終審査を受けるべく選定に選定を重ねられた人たちなのです」


 だからは貴方は参加できない、と言外に滲ませると、レオンハルトは悲しそうに表情を歪めた。

 器用なことに、先ほどのやや踏み込みすぎた発言をしたとは思えないほど、完璧な表情管理ができている。さらには、その表情のかわり具合は誰がみても自然なものだと感じるようなものだった。

 アリシアは笑顔をもう一度はりつけつつ、やんわりと断りの文句をいった。


「申し訳ありませんが、そういうことですので」


 レオンハルトは、微笑むとそうですかと言った。


「それは残念ですが、そういうことなら仕方ありませんね。別の手段を持ち出すことにしましょう。ですが、振られた男としては少しつまらない。ですから、別のお願いを聞いていただけませんか?」

「……何でしょうか? 内容によってはお聞きできないかも知れませんが……」

「私たちが帰る前日に、夜会を開いていただきますよね。その際、私をパートナーにしていただく名誉が欲しいのです」


 アリシアは思わず絶句した。

 大変失礼ながら、レオンハルトは先ほど話題に出た公爵令嬢を慕っていると勝手に思い込んでいたアリシアは、なぜそのような提案をするのか分からなかったからだ。


(あれはわたくしの勘違いだったのかしら。でも、……)


 非常に悩ましいところなので、アリシアが口籠っていると、レオンハルトは優しげな笑みを浮かべた。アリシアを悩ませる提案ばかりをしてくる人とは思えないほどに。


「そう悩まれるのでしたら、返事は後日でも構いません。それでは、そろそろ帰りましょうか。時間も迫ってきていることですし」

「……はい」



♢♢♢



 王城にレオンハルトとともに帰ったアリシアは、彼に別れを告げ、自室に戻ってきた。もちろん、レオンハルトが婚約者選定の話に興味を示していたということは、ロイドを通じて皇帝には報告している。

 執務室へ寄って、ロイドに伝言を頼んだアリシアは疲れきった身体を休めるため、自室に戻りお行儀悪くベッドに寝転んでいた。


(はあ……最後の婚約者候補の人が誰かにしろ、お父様はレオンハルト殿下を婚約者候補に入れたがるでしょうね。相手は国交を結びたい国の王太子なんだもの、当然のことだわ)


 それでも、アリシアはまだ国外の人と結婚するくらいならば、ケヴィンもいるこの国に残っていたいと思ってしまうのだ。それとも、ケヴィンのことなど忘れられるように国外に嫁いでしまった方が良いのだろうか。

 どちらにせよ、ケヴィンとの関係が終わってしまうことを前提に自分の中で思考を進めていることが、アリシアにとてつもなく苛立ちを感じさせた。


「でも……わたくしは皇族だから」


 明かりもつけず一人きりの部屋に、アリシアの小さな声は思いのほか響いた。今は使用人たちにも出て行ってもらっている。レオンハルトと出かけて、疲れてしまった身体を休めたいからと言えば、メイドも侍女も快く下がってくれた。

 執務室では今頃、ロイドが頑張ってくれている。それを思うと、公務に取り組まなければと考えるのだが、身体が鉛のように重く、上手く起き上がれなかった。

 しばらく、このままでいよう。


(ケヴィン……好きよ)

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