19. 婚約者選定 ーep 5 ー
「ええ!? ツィラン国の王太子殿下に王都をご案内するんですか!?」
ロイドが緑色の瞳を大きく見開いた。それを見て、アリシアは疲れたように頷く。
「ええ。そう言うことになってしまったの。明日、ご案内する予定だから、急いで今のうちに準備をしておきたいわ」
「はい、分かりました。それにしても、急ですね。陛下たちが取り計らわれたのですか?」
「先方が望んできたそうよ」
アリシアの言葉に、そりゃひどい、と顔をしかめるロイド。
「ひとまず、どういったルートにするかを決めなければなりませんよね。今はまだ緊張関係にある国の王太子殿下ですから、機密などがありそうなところは絶対に避けないといけませんよね……」
そうね、とアリシアは深く頷いた。流石にケヴィンが推薦した男、頭はよく回るわね、とアリシアは内心で呟く。
「歴史にまつわる建造物なども避けた方がよさそうね……。無難に、街を案内するだけで良いのかしら」
「それは……どうでしょう。申し上げにくいのですが、先方がこちらを舐めているのかと思う可能性もありそうですが……」
「そうよね。あんまりにも、ありきたりなところを紹介していくのは良くないわよね。かといって、今まで迎えてきた来賓は緊張関係にある国でももう少し、国力の差があったから……」
「逆に見せつけた方が良いのでしょうか? ここら辺は陛下のご意向を伺わないと何とも言えませんが」
それではこれから、陛下に伺ってみるわ、とアリシアは言い、すぐに謁見の申し込みを行った。
♢♢♢
「本日はよろしくお願いします、アリシア第一皇女殿下」
ニッコリスマイル。
引きつりそうになる笑みを何とかいつもの笑みに直し、アリシアは優雅にカーテシーをした。
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。改めてご挨拶を。わたくしは、アリシア・フィクタール。既にご存知のようですが、第一皇女ですわ」
あくまで、立場的に上なのはフィクタール帝国の方だ。しかし、単なる皇女という身分と、次期国王という言い換えも出来る王太子の身分はあまり対等ではない。
しかし、アリシアとレオンハルトの場合、国力はアリシア側が上、身分はレオンハルトの方が上と言うことになるため、ほとんど対等な関係とみなされる。
中々ややこしいが、皇族や王族の付き合いはこのような国力、身分などで考えることが多い。
レオンハルトもそれを理解しているのか、割と簡単な挨拶をしたアリシアに対しても、彼は丁寧に挨拶を返してくる。
「これは、挨拶が遅れまして申し訳ありません。私はレオンハルト・ツィランと申します。ツィラン国の王太子という身分を授かっています。本日は王都をご案内してくださると言うことで。無理を申し上げてしまい、申し訳ありません」
「いえ、お気になさらずに。わたくしでよろしければ、喜んでご案内致しますわ。本日は、長旅のご移動をされてきたので、お疲れかと思いますから、馬車をご用意致しました。と、申しましても、かなり簡素な馬車ですけれど」
アリシアの言葉に、レオンハルトは優美な笑みを浮かべた。王子然とした彼にとても良く似合う笑みだわとアリシアは思う。
「わざわざご配慮もしていただいて……ありがとうございます。今日は、どこへ?」
「この国の中心街の一つをご案内しようかと思っておりますが……。平民たちと交じって街を歩くのは、お嫌でしょうか?」
「とんでもない。私はむしろ、そう言った庶民的な空間が好きなんですよ」
レオンハルトが微笑んだのと同時に、アリシアもにっこりと微笑む。
「それは良かったです。では早速、参りましょう。どうぞ、馬車にお乗りくださいませ」
今日は途中まで馬車にのるつもりだ。そして、中心街に着いたら、歩いて街を見てもらおうと思っている。
皇帝に謁見したところ、国力を示す方が良いという答えを貰ったので、繁栄している街を歩き、どの程度発展しているのかを見せる方針を固めた。ロイドや補佐官たちがピッタリなところを知っていたので、それらをもとに今回はルートを決めた。
(これで文句を言われても、こちらに非はないわ。……それにしても、ロイドもよく頭の回る補佐官だけれど、ケヴィンがいないのは寂しいわね)
アリシアも馬車に乗り込みながら、ふとそんなことを思う。
レオンハルトと他愛も無いが、気の抜けない話を再開したアリシアは、ケヴィンのことは一旦頭から追い出した。
読者様:婚約者選定とか全く関係ないじゃん!
作者:本当にそう。まじでそれなんですよ。申し訳ない……。




