18. 婚約者選定 ー ep 4 ー
「初めまして。ツィラン国から参りました、レオンハルト・ツィランと申します」
アリシアは玉座から三番目に近い席に腰掛けながら、引きつりそうになる笑顔を必死に浮かべていた。
それもそうだ、ツィラン国から来るのは大使のみだと聞いていた。しかし、実際に来たのは大使とツィラン国の王太子だった。
金髪碧眼、これぞ王子というような見た目だ。まあ、兄のウィルソンも同じ色を持っているけれど、とアリシアはふと思う。隣に座っている兄をちらりと見ると、彼も唖然としている様子が見て取れる。まあ、皇太子という身分だけあって、そう他人にばれるほどではないが。
「———ようこそ、フィクタール帝国へ。いや、しかし。先触れからは王太子殿下も来るとはきいてないが・・・レオンハルト殿、一体どういうことだろうか?」
外交用の笑顔を貼付けながらも、非難はしっかりとする。いくらツィラン国の兵器が脅威であろうと、フィクタール帝国が力を持っているということはしっかりと知らしめなければいけないからだ。
「それについては謝罪を。先触れのものが少し取り違えてしまったようでして。私も同行することを伝えられていなかったようですね」
「・・・」
呆れ果てた皇帝は、そっと黙り込んでしまったため、皇后が扇で口元を隠しながら発言をした。
「わたくしはフィクタール帝国の皇后、マリーナですわ。レオンハルト殿、長旅でお疲れだと存じますので、お部屋をご用意致しましょう」
「お心遣い、誠にありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
レオンハルトはあくまでも、にこやかにそう対応した。そして、謁見室を去ろうとした際、ふとアリシアは目が合った気がした。同時に、ふっと微笑まれたようにも。
(何だったのかしら。だいぶ不思議な方だわ)
♢♢♢
「殿下、こちらの書類はいかがなさいますか?」
執務室に聞き慣れない声が響く。アリシアは書類に向けていた視線を上げて、見慣れない緑色の瞳を見た。
「ーーーああ、それはわたくしにくれれば良いわ」
かしこまりました、と恭しく礼をした、青い髪の男はロイド・スティンル伯爵令息だ。いうまでもなく、ケヴィンの代打である。
『この者は殿下に心酔しておりますから、心配ないと思いますよ。ああ、ご安心ください、彼には婚約者がおりますから』
というのは、只今里帰りしているケヴィンの談だ。
(一体何のお話で呼ばれているのかしら)
気になるけれど、アリシアが何か質問する暇もなく慌ただしく休暇をとって行ってしまったのだ。本人がいないというのにどうやって聞けと?
なんて、誰かも分からない人に八つ当たり気味にぼやく。まあ、今までケヴィンに休暇がほとんど無かったことが異例なのだけれど。
正論で結局自分を封じ込めたアリシアは、はぁと小さなため息をついた。
ロイドは、アリシアの執務室の隣の部屋、つまり補佐官室で通常働いていた補佐官の一人である。
だから一応顔は知っているものの、今まで全く関わりの無かった相手に、素を曝け出すほどにアリシアはざっくばらんにはなれていなかった。
はぁ、とまたため息をついて、ロイドをチラリと見る。その視線に気づいた彼は、ん? というような顔でアリシアを見返した。
「どうかなさいました?」
「・・・いいえ、何でもないわ」
微笑みを浮かべると、ぺこりと一礼してロイドは執務に戻っていった。
ケヴィン以外にはすぐにこうやって取り繕ってしまうのが、アリシアの内弁慶たる所以なのだろうと自分でも自覚してしまうのが辛いところだった。
♢♢♢
「え? 明日、王都の案内、ですか?」
皇帝と皇后に呼び出され、皇族しか入れないスペースに向かったアリシアは、素っ頓狂な声を上げた。
アリシアの問いかけに、いつも優雅で余裕のある笑みを浮かべている皇后が、困ったような表情で頷いた。
「ええ、そうなのよ。先方が見学してみたい、とのことで……。わたくしたちも、お疲れでしょうからとお断りしたのだけれど、やんわりと押されてしまったの。でも、ウィルソンは今忙しいし、アリシアに頼もうかしらと思ってね」
「……わたくしでよろしければ、引き受けます」
「アリシア、ありがとう。よろしく頼んだわよ」
「……はい」
あの王太子を相手にすると思うと、あまり自信は無いが、やるしかない。
アリシアは笑顔を浮かべつつ、腹をくくった。




