17. 婚約者選定 ー ep 3 ー
なぜ来るのか分からない大使のおもてなしも大事だが、皇女の婚約者選定も同じくらい大事だ。いや、むしろ選定の方が大事なくらいだった。
そして今日は、三人目の候補者とのお茶会だった。
「お久しぶりです、殿下。アレクシス・ジーナルド、第一皇女殿下にご挨拶申し上げます」
すっと礼を執り、顔をあげてにこっと笑う様は、清涼感漂う青年と言った風だ。アリシアは今、十七歳。そしてアレクシス・ジーナルド伯爵令息も十七歳だった。
二人は元々面識があった。なぜならば———。
「まあ、久しぶりね。ジーナルド。どうかしら、学院のみんなは」
アリシアは今は休学という形をとって公務を最優先しているが、皇帝の妹———つまりアリシアの叔母が嫁いでからは公務を担う人手が足りなくなってしまい、しばらくはそのままでまわしていたものの、やがてアリシアが大きくなると休学し公務を担うということで解決したのだった。
フィクタール帝国では———通う場合は———十三から学院などへ通う。しかし、アリシアが通えたのは二年だけだった。元々、家庭教師がいたために、学院の勉強は全て履修したも同然だったため、ほとんど友達や知人をつくったり見聞を広めるために通っていたものだった。
だからこそ、学院を休学するという判断を自分で下したときは、流石に悲しかった。せっかくできた友達と離ればなれになってしまうなんて。
しかし、今でも時折お茶会と称してあっているし、会うのが難しい友達とは文通をしていた。
アレクシス・ジーナルドは友人の中でも特殊な立場にいた。彼は元々、隣国の公爵家の生まれだった。しかし、その家がとある事情でアレクシスを手放さなければならない状況に陥り、彼はフィクタール帝国の北川に位置するディファ伯爵家に養子として入ることになったのだ。
そのため、アリシアは出来る限り、他の異性の友人よりも仲良く接してみせた。彼は第一皇女と仲がいいんだと見せつけることで、彼を守っているつもりだった。
しかし、学院を休学することを決めてからというもの、彼とは会えていなかったので、近況を知らなかった。今日、こうして会ってみると、前と何も変わらない様子でほっとする。
「ええ、皆元気ですよ。殿下もお元気そうで何よりです。皆も、殿下のことを心配なさっていましたよ」
「え? わたくしのことを、皆が?」
「ええ。公務を優先することになって休学すると発表なさったでしょう? それから、公務を優先しすぎて体調を崩していないかとか色々心配がありましたよ」
友人たちがそんな心配をしてくれていたとは知らなかった。しかし、優しい子たちだから、きっとアリシアのことも心配してくれたのだろう。
「そう・・・また皆に会えるのを楽しみにしているわ、と伝えてほしいのだけれど・・・頼めるかしら?」
窺うようなアリシアの視線に気づいたジーナルドは柔らかい笑みを浮かべた。
「もちろんです、お姫様」
冗談めかした言葉に、ふふっと吹き出す。ジーナルドも同じように笑いだし、二人はお茶会で学院の話をして盛り上がったのだった。
♢♢♢
「ケヴィン・・・」
「何でしょうか。殿下」
真面目くさった返事をして、あえてアリシアの方を見ないケヴィン。
その視線は、窓の外で自由に飛ぶ鳥に向けられており、どこか憧れているようにも見えた。
そのケヴィンの視界に無理矢理入るように、ぐいっと身を乗り出して、さらには翡翠のような瞳の上目遣いで見つめるアリシア。
「ツィラン国からの方々のおもてなしの夜会・・・絶対に出なきゃだ———」
「駄目です!」
前回の夜会の際も、同じようなシチュエーションで同じようなやり取りをしている二人は今日も、平和で幸せなのだろう。
「ツィラン国との友好関係を築いて、この国の平和を守ってください」
「分かってはいるけれど、わたくしはそんなに重要じゃないわよ?」
「貴女さまは言い伝えの巫女にそっくりなんですよ!? 言い伝えの巫女再来とまでいわれているんですから」
「言い伝えの巫女なんて・・・たまたま、金髪に翡翠の瞳を持った女性皇族がいて、その人の時代が豊かだっただけなんじゃないのかしらね」
今までに、言い伝えの巫女といわれる初代の金髪に翡翠の瞳を持った女性皇族より後に、同じ容姿の特長を持って生まれたのは、アリシアと数人しかいなかった。そのために貴重化されているのだろうが、アリシアが生まれてから、国に何か大きな変化があったわけではないことを、誰か分かっているのだろうか。
「まあ、それより陛下からご連絡ですよ。四人目の候補者とのお茶会の時間はとれなさそうなので、夜会のパートナーに適用するように、だそうです」
「え・・・えええええっ!? 嘘でしょう!?」
「嘘じゃありません」
アリシアの渾身の叫びに、ケヴィンが無表情で告げた。
「それと、僕も実家から呼ばれておりまして。しばらく、休暇をいただきます。その間は、別のものが補佐にはいりますので」
アリシアの二回目の悲鳴が執務室内に響き渡るまで、あと数秒。
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