16. 婚約者選定 ーep 2 ー
皇女の婚約者選定は、まず候補者を募る。
それは国内のみならず、外国からもだ。そして、その候補者の中から色々な観点からみて、優良な者のみを選び出す。最終的にアリシアとお茶会をし、本人からの選定を受けられるのは、歴史をみても最大で五人だった。
今回は次に多い四人の候補者が様々な選考で残ったようだった。
(それにしても・・・自分が候補者とは知らない人もいるとカイルが言っていたわね・・・。なぜなのかしら)
最終段階へと進むまでに行われる選別は全て、書類選考というわけではない。だがしかし、特別な場合のみ書類選考のみで通れるという規則もあった。
(特別な場合というのは色々な場面が存在するけれど・・・今回のその人はどのようなタイプなのかしら)
ふと疑問に思うが、アリシアは公務のための書類を捌く手をとめなかった。今日は忙しいのだ。
「それにしても、ツィラン国の大使どのが急にいらっしゃるなんて・・・何ででしょうね?」
「さあ、知らないわ。正直に言ってわたくしたち王族がもてなすなど・・・面倒くさいのだけれど」
「殿下、そのようなことをいうのはやめてください。まじで僕たちも大変なんですからね」
「そうよね、ありがとう」
二人の会話にも、若干いつものような余裕は無かった。
一昨日、突然ツィラン国という国から、大使がそちらへ向かうという書簡が届いたのだ。本来ならば、フィクタール帝国は権力も強く、周辺国に比べてかなり影響力もある国だ、そのような急な訪問はやめるようにと取り下げるのだがツィラン国に対してはそうはいかない事情があった。
そのため、二人は大使を迎えるための準備をしていた。
ツィラン国は、フィクタール帝国より以北にある国だ。面積はそう大きくないが、工業が豊かなことで有名である。しかし、それよりももっと他に有名な点があった。それは———。
「我が国を侵攻してくるつもりかしらね」
「滅多なことを言わないでください」
ツィラン国は元々、その場所にあった国ではなかった。その土地で交易を盛んとしていた国へ侵攻し、滅ぼした後、ツィラン国を新たに建国したのだった。つまり、かなりの軍事国ということになる。
フィクタール帝国は当初、そのような交易地を潰されては敵わないと国軍の一部を派遣したのだが、それでも負けてしまった。その所以は、圧倒的な強さを誇る兵器だ。
ツィラン国は工業国だ。そのため、様々な技術が発展している。それらを利用した戦い方で、フィクタール帝国の国軍をしのぐ強さを見せつけてしまった。そのため、フィクタール帝国はツィラン国は丁重に扱うべきという考えに至っているのだった。
「でも・・・もしそうなりでもしたら、我が国も負けないでしょう。数ヶ月は圧倒的にこちらの方が有利ですよ。兵力が違いますから。更に、技術力も上がりました。ツィラン国に追いつくまではいかないレベルですが・・・」
「そこが問題なのよ、きっと。ツィラン国はどれだけの威力を発するか分からないほどのものを作り出す。けれど、我が国はどうかしら?」
「———微妙かも知れません」
「近年、慌てて工業に力を入れたとはいえ、今までは力業で押し進めていた部分があるし、貿易を盛んにすることに力を入れていたもの。今、工業産業の基盤がまだ出来ていない時期に、ツィラン国と戦いでもしたら、どうなるか分からないわ」
周辺国も、ツィラン国に対してどのような距離をとるべきか、はかりかねているようだった。どの国も、未知の国は怖いものだから。
「出来るだけ、穏便に済ませたいのだけれど・・・」
加えて、今は皇女の婚約者選定中だ。国内はそちらに力を注いでいると言うのに、そんな中何を持ち込んでくるつもりだろうか。
カイルとお茶会をしてから今日は三日だ。昨日は、二人目の婚約者候補とお茶会をしたが、気が弱そうであまりピンと来なかった。
ケヴィンのことが好きな時点で、もはや誰が一番良いかなど、アリシアには判別できないのだが、それでも最低限度の選別はしなければならないだろう。
(そういえば結局、陛下から候補者のリスト、送ってもらってないのよね)
ケヴィンにも、ハンナにも確認したが、二人ともにそんなものは知らないと首を振られてしまった。どうしてだろうか、と思いつつも、皇帝は今は例のアジリメッタ辺境伯領へと赴いてしまっている。早馬でツィラン国のことは知らせたものの、それが届いているかどうか・・・とウィルソンがぼやいていた。
「そうですね。・・・三日後には到着なさるとか。あまりにも急なことですが、あちらには常識というものが無いんでしょうか」
「ケヴィン、今のは問題発言よ。———と言いたいところだけれど、わたくしもその気持ちはよく分かるから何も言えないわね・・・」
二人して顔を見合わせ、うんざりと呟く。ふと、窓の外を眺めると、青色の晴天にふんわりと綿あめのような雲が浮いていた。




