14. んなななっ!?
「は?」
言い伝えの巫女にそっくりの容姿。聡明かつ頭脳明晰を体現したかのように賢い天才。
そんな完璧な第一皇女アリシアは今、謁見室で間抜けな顔をして、間抜けな声をもらしていた。
「は?ではない、アリシア。お前の婚約者選定を行う」
「ち、ちょっと待ってください。お父様、どういうおつもりですか? わたくしは今は婚約者はいらないと今までに何度も・・・!」
「ああ、そう言い続けて何年だ? お前は今何歳だ、アリシアよ」
ぐっ、とアリシアは唇を強く噛み締め、俯いた。今、アリシアは十七歳だ。貴族ならば、いや女性皇族ならばもう、婚約していない方がおかしいほどだった。
しかし、今までにアリシアの婚約者候補であったものは一人としておらず、夜会などの行事の際にはケヴィンをパートナーとして伴っていた。
それはひとえに、アリシアが婚約者を選ぶのを断り続けていたからだ。アリシアが皇帝の座を継ぐと決まったわけでもないし、と父は許してくれていたが、それももう限界なのだろう。
「・・・」
何も返事をする気になれず、沈黙が訪れる。
「今日のところは良いが、候補者のリストを送っておくから、見ておきなさい」
アリシアは俯いたまま、一礼すると、部屋を退出した。
♢♢♢
アリシアが婚約者を拒み続けた理由。それは分かりきったことだ。
(わたくしの婚約者が決まっていないのと同様に、ケヴィンの婚約者も決まっていない)
せめて、ケヴィンの婚約者が決まってから・・・と自分に言い訳をし、皇帝たちにも適当な言い訳をしていたけれど、もうそろそろ引っ張るのも限界だ。
執務室に着くと、こっそり扉を開けて、中にいるはずの人影を探す。ここには、アリシアとケヴィンの共同の執務室のようなものだった。
他の補佐官たちは隣の補佐官室にて、執務の補佐をしてくれている。
だからいるはず・・・と覗き込むが、誰もいなかった。あら? と首を傾げていると、ふっと後ろに人の気配を感じた。
「何をなさっているんですか?」
咄嗟に口元を手で押さえて、悲鳴をこらえる。ばっと勢いよく振り返ると、そこには呆れたような表情のケヴィンがいた。
「な、ななな、なんでここに?」
「なんでも何も。僕の執務室、ここでしょ」
「そ、そそそ、そうじゃなくて! 中に何故いないの!?」
「え? いや、隣に必要な書類を届けていたんですよ」
補佐官室に行っていただけらしい。
そういうことか、と頷いても、意味はない。こっそりと扉を開けて、覗き込んでいたところをガッツリ見られてしまったからだ。
アリシアは曖昧に再度頷くと、執務室に入った。今の季節柄、外にいると暑い。
「それより、何で呼び出されていたんですか? まさかまた、夜会とか?」
「そうじゃないわよ。わたくしも観念する時が来たようね。婚約者候補を募ると言われてしまったわ」
アリシアのため息とともに吐き出された言葉に、えっ・・・と小さく声をあげるケヴィン。彼は心底驚いたような表情になっており、アリシアはそっと口元をほころばせる。
「変な表情よ、ケヴィン。どうかしたの?」
「い、いえ・・・」
どこか歯切れ悪く返事をするケヴィン。何故か目線もあわなくなっていた。そらされている。
(どうしたのかしら。わたくし、何か変なことを言ったかしら)
まあ良いかと思考を放棄し、アリシアは机の上に積まれている書類を確認し始めた。公務は基本的に皇帝と皇后、兄の皇太子、ダリア、そしてアリシアの五人で担うものだ。
皇帝の妹である、元皇女はもう公爵家に嫁いでいるし、五人だけで公務を回すのはなかなかにきついものがある。兄やダリアが婚約者を決定すれば、その者も関わるようになってくれるだろうが、まだ期待できない。
(そもそも、その仮定をつける時点で、わたくし自身のことは含めてないのよね)
アリシアは苦笑した。
「どうかなさいましたか?」
「何でもないわ。それより、どうかしたの?」
いつの間にか書類を手に持って、自分の前に来ていたケヴィンに首を振って見せると、柔らかく微笑み書類を二人で覗き込んだ。
しばらくは、彼との平穏で一番大好きな時間を過ごされるだろうと、そう思いながら。




