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9. 正義の味方

 ケヴィンに話しかけられ、流石に噂をしていたアリシアの筆頭従者に話すわけにはいかない令嬢たちは焦りまくっていた。


(そうでなくても、ケヴィンはモテるもの。顔もよし、頭もよし、家柄もよし、性格も・・・まあ表向きにはよしよね。少々腹黒いところがあるかも知れないけれど・・・貴族ってそういうものを求めがちだものね)


 自身の気持ちはさておき、冷静にケヴィンの良い点を挙げていくアリシア。


 その間にも、ケヴィンの快進撃は進んでいた。


「私の聞き間違いかも知れませんが、アリシア殿下のお名前が聞こえましてね。私も殿下とよくお話をさせていただく立場におりますから、ぜひ会話にまじわらせていただければと思ったんですよ」


 く、ケヴィンったら・・・! とアリシアが笑いを堪えていると、令嬢のリーダー格らしき人物が震える声で相槌を打った。


「ま、まあ。そうでしたわね、ケヴィン様はアリシア皇女殿下の側近でいらっしゃいましたものね・・・」

「ええ、そうなんですよ。それで? なんのお話をなさっていたのです?」

「い、いえ。特に実りのあるお話では・・・」

「ははは、令嬢も冗談がお上手ですね。夜会の会話など実りのない話がほとんどでしょうに」

「っ・・・!」


 結構鋭い返しね、とアリシアも頷く。

 令嬢はもう頭が回らないらしく、しばし沈黙が続いた。


 やがて、助け舟を出すように他の令嬢が声を上げ始める。


「殿方にはわからないお話ですわ、令嬢の話に入る方が無礼というものでしてよ」

「そうでしょうか、そちらの令嬢がいきなり『ケヴィン様』と呼ぶのは不問に付されると?」


 確かに、ケヴィンは一度も下の名前で呼ぶことを許可していない。

 けれど、流石にそろそろ可哀想だろうと思ったアリシアは、一歩を踏み出し、集団の前に姿を現していた。


 全員、目を丸くしている。


 ケヴィンですら。


 そんな全員を惹きつけるような美しい笑みを浮かべてみせると、はっとしたケヴィンが礼をした。


「あら、皆さまお揃いなのね。ケヴィン、ここは夜会会場とはいえ、普段の態度で構わないわよ?」

「は、かしこまりました」

「それより、皆さまなんのお話をなさっていましたの? わたくしも、聞きたいわ」


 あくまで無邪気を装ってアリシアは尋ねた。

 盗み聞きしていたことに気づいたらしいケヴィンにじとっ、と睨まれたが、華麗な笑顔でスルーしてみせる。


 一方で令嬢たちはまさか噂の本人が聞きたがるとは思っていなかったらしく、顔色を悪くしている。


「・・・あ、あの。殿下はとても優秀でいらっしゃる話ですとか、・・・っ」


 それからリーダー令嬢は続けようとしたらしいが、アリシアの笑みを見て、そっと俯いた。

 もうバレているのだと分かっている顔。


「あら? どうしたの?」


 ふふ、と笑ってみせれば彼女たちの顔色はだんだんと悪くなるばかり。


「殿下、彼女たちは殿下のお噂話を共有していたようです」

「まあ、どんな?」


 ケヴィンの振りに全力で乗っかることに決める。


「僕も途中から話に加わりましたので、詳細はなんとも・・・」


 ちら、とケヴィンが令嬢たちに視線を送った。彼女たちはえっ、と表情を固くしていた。


「あらそうなのね。・・・その様子だと、教えてもらえるようなことではなさそうね? もう茶番は飽きたからハッキリ言わせてもらうわね」


 ニッコリ、と笑みを浮かべ直すと、アリシアは言い放った。


「そう言った噂話は不愉快よ。わたくしについて話していたからと言うわけではないわ。他の誰についての話でも同じことよ、分かるわね?」


「殿下はご自分のことは気になさっていないように仰っているが、本来ならば不敬罪の余地もありうる話でした。この機会にちゃんと自分たちの話していたことについて、反省してください」


 アリシアの言葉にケヴィンが厳しい表情で付け足した。

 令嬢たちの表情は青ざめ、完全にやってしまったという顔だ。


 これ以上言っても意味がないだろうと思い、アリシアはケヴィンを促し、その場を離れた。


♢♢♢


「殿下、不愉快なお噂をお耳に入れてしまい、申し訳ありません」


 彼のエスコートで軽食が置いてあるコーナーに向かい、どれにしようかと物色していると、振り絞ったようなケヴィンの声が耳に届いた。


 え、と振り返るときつく唇をかみしめて、軽く俯いている。


(あー、ケヴィンってば責任感強いのよね)


「気にしないで、というより、噂なんてどこにでも転がってるわよ。それに、わたくしは皇女という身分だし。むしろわたくしに関する噂が無かったらびっくりするわよ」


「ですが・・・」


 まだ気にしている様子のケヴィン。


 アリシアは軽くため息をつくと、わざと高慢そうな笑みを浮かべて見せた。ケヴィン、と名を呼ぶと彼は目を見開いて、こちらを見つめた。


「わたくしを誰だと思っているの? そんな噂でこたえるはずがないでしょう? わたくしを見くびらないでちょうだい」


 アリシアの言葉に、ケヴィンがはっと息をのむ。


 アリシアの美しさと、彼女のいつもの自信に満ち溢れた態度、笑み、仕草に圧倒されたのだ。


 それほどまでにアリシアは美しかった。きめ細やかな白い肌や整いすぎている顔立ち、雰囲気などの全てが。


「・・・っ失礼しました。ですが、僕の失態ということは変わりありません。今後はこのような不快なゴミが殿下のお目に触れないよう、気をつけます」


 先ほどよりも意思があるケヴィンに、アリシアは苦笑とともに頷いて見せた。


♢♢♢


 化粧室にて。


 それにしても、カッコよかったわ、ケヴィン。そろそろわたくしの目、潰れるのではないかしら。まるで正義の味方のような彼のスマートな介入の仕方。あれで惚れるなという方が無理よね。でも高望みしては駄目よ、アリシア。他の令嬢たちよりも少し近い場所にいて、自分を少し甘やかしてくれるからと言って、彼がアリシアを好きであるなんてことはイコールではないわ。自惚には気をつけなくては。


 これは何か。いうまでもなく、アリシアの心の中の声である。


 一方、会場の隅にて。


 お綺麗すぎるだろう! 先ほどの笑みは反則だ、流石に誰もが惚れてしまう! まるで自分のことが好きなのではないかと錯覚していまいそうになるあの微笑。おそらく、女神様よりも彼女の方が美しいに違いない。ああ、先ほどの殿下の笑顔は他の男の目に映ってしまっただろうか!? それならばそいつの目は潰してやらねばならない。だがしかし、そんな事をしては殿下に叱られてしまうし嫌われてしまう。そんなことになったら、もうダメだ僕は。そもそも、殿下が僕を好きなんていうことは無いんだ。自惚れには気をつけなくては。


 こちらは・・・もうお分かりだろう。ケヴィンの心の中の声である。


 さて、天の声である()()()としては、早くくっつけ! と二人の背中を蹴り飛ばしてやりたいくらいだが、流石にそんなことをするわけにもいくまい。


 おそらくもう少し二人の物語にお付き合いいただくことになるだろう。

久々の天の声登場 笑笑

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