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8. ダンス

 二人が騎士によって連れていかれたのち。


 二人の家族である子爵と男爵はリーマナ侯爵令嬢に、謝罪を残すと夜会会場を申し訳なさそうに出て行った。

 恐らく二人には、今後貴族たちからの厳しい視線が降り注ぐだろう。


 子供たちの教育に関する責任のせいで。


 それだけ、二人の起こしたことは大きかった。



「・・・お疲れ様でした、殿下。少しお休みになられては如何ですか。お疲れでしょう」



 そう言って柔らかな微笑みをたたえながら、近づいてきたのはアリシアの専属侍女、ハンナだ。



「ハンナ。・・・良いわ、それより何か飲み物を取ってきてくれないかしら」

「かしこまりました」



 ハンナが離れていくのと入れ替わりに、ケヴィンが近づいてくる。



「ケヴィン、陛下はなんて仰っているのかしら」

「上手く収めることが出来たと思うぞ、とのことですよ。後は、夜会を楽しめとも」



 どうにか、及第点をもらえたようで安堵した。やはり、身分が高貴である分、責任は重くなる。アリシアの背負うものは割と大きい。



(ケヴィンも大変なはずなのに、疲れているはずなのに、いつもわたくしのことを支えてくれる)



 アリシアがじっと見つめていると、ケヴィンが気づいて首を傾げた。



「どうかなさいましたか、殿下」



 アリシアがありがとう、と伝えようとすると、ハンナが飲み物を持ってやってきた。



「殿下、お待たせ致しました」

「・・・ありがとう」

「いいえ! あら、ケヴィン様もお戻りでしたのね。何か飲み物をお持ちしましょうか」

「いや、良い。殿下、毒味致します」



 ケヴィンがそっとアリシアからグラスを取り上げる。



「わたくしが持ってきた物でも信用ならないとか・・・どんだけ・・・」



 ハンナがぶつぶつと何か呟いているが、ケヴィンはそれを無視して毒味を淡々と行い、アリシアにグラスを返した。



「お待たせいたしました、これは安全です」

「ありがとう、ケヴィン」

「殿下も殿下ですわ、お礼を言うから・・・」

「え? ハンナ、何か言ったかしら?」



 聞き取れなくて、ハンナに聞き返すと、彼女はなぜか不貞腐れた顔をして、



「何でもないですぅ!」


♢♢♢


 しばらく三人で話していると、楽団が音楽を流し始めた。

 三拍子だが、流れるような美しい音。



「ダンスね。ケヴィン、もちろん踊れるわね?」

「はい、もちろんでございます」



 ケヴィンは自信に満ちた様子で頷くと、手を差し出してきた。



「貴女さまをエスコートする権利をどうか与えていただけますか? 美しい方」

「っ! ・・・ええ、よろしくてよ」



 アリシアは一瞬、こんなにしっかりと申し込まれるなんて、と驚いたが、つんと煽るように顎を上げた。

 行ってらっしゃいませ〜と緩やかに送り出してくれるハンナに小さく手を振りながら、ケヴィンとともにダンスホールの中央に進み出る。


 ケヴィンが滅多に見ない満面の笑みでアリシアの腰に、手を添えた。



(格好良すぎるわ。こんなにカッコよかったら、ここにいる全ての女性が惚れてしまうじゃない)



 アリシアは嫉妬してしまいそうな自分を押し留め、ゆっくりと口の端を吊り上げる。



「・・・ケヴィンと踊るのは久しぶりね」

「そうでしたっけ。でも、貴女と踊れて嬉しいですよ」

「っ、え? そ、そう」



 どうにもケヴィンがいつもと違う気がして、焦る。アリシアは華麗にステップを踏み始めるも、ケヴィンが気になってしまい、いつものように調子を取り戻せない。

 気づけば、ケヴィンを窺うように彼を見つめている自分がいた。


 それに気づいたケヴィンが、こちらを見ずに微笑みを浮かべる。



「どうかなさいましたか、殿下。やけにこちらを気になさっていますが?」

「・・・何でも無いわ」

「そうですか。ーーーー隠し事はなさらないでくださいね」



 懇願するかのようにさえ、聞こえた最後の言葉。別に隠し事をしているわけでは無いはずなのに、何故だかその言葉が気になってしまった。


♢♢♢


 ケヴィンと踊った後、何人かの国の重鎮たちと踊り、アリシアは疲れてしまったので壁際で休憩していた。

 ハンナはもう下がったらしく、姿は見えない。まあ元々、とてつもなく広いダンスホールを兼ね備えたパーティー会場であるだけに、特定の人を探すのは大変なのだけれど。


 何か軽食でもつまもうかと考えていると、アリシアから死角になっている角の向こう側で、ひそひそ声が聞こえてきた。



(全くもう、なぜこうも人は噂話が好きなのかしらね)



 軽食をつまみにいくには、曲がり角の奥にある通路を越えなければならない。まあ別に良いかと思い、通り過ぎようとして、ぴたりと足が止まった。



「それにしても、アリシア皇女殿下、酷いわね。どちらかは知らないけれど、片方だけに味方したらしいわよ」

「わたくしも聞きましたわ。色々と噂がおありのかたですものね」

「わたくしは現場を直接見ていないですけれど、理不尽だったと聞きましたわ」

「確か、男性に味方をなさったのではなくて?」



 こそこそ、とアリシアに気づかないまま、噂話を繰り広げる令嬢たち。

 さすがのアリシアもそこに飛び込みにいくのは、得策ではないと思い、息をひそめて別の話題に移るのを待つことにした。



「いやあね、男性にばかり味方をなさるなんて」

「いくら、巫女だと言われているからって許されないことですわね」

「本当に」



(まだ話すつもりなのかしら。そんなことを話している暇があったら、何か国に有益な政策でも考えて欲しいものだわ)


 呆れ返ってもはや、怒りなど感じないアリシア。さあ、どうしようかしらと思案していると、男性の声が急に鼓膜を打った。



「ご令嬢方、何を話されているのです? 私も混ぜていただいても?」



 えっ、と思わず声を出してしまいそうになったアリシア。

 なぜなら、まさかの声の主はケヴィンだったのだから。

途中、ハンナの

『わたくしが持ってきた物でも信用ならないとか・・・どんだけ・・・』

の続き、何でしょうかね...ふふふ。

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