152.取り調べ
「それで?ベイルは何でいきなり王都から逃げ出したんだ?俺はカルガーから聞いたけど、意味が分からなかったぞ」
何で分かんねえんだよ。カルガーはゲレロにしっかり説明しなかったのか?
「『ベイルさん、貴族がイヤだって言って帰ったっす』としかカルガーから聞いてねえ」
十分じゃねえか。それ以上の説明いらねえだろ。
「そもそも何でまっすぐコーバスに帰らなかったんだ?どこほっつき歩いてやがった?」
「どこ行こうが俺の勝手だろ!お前は俺の母ちゃんか!」
「ああ、それ私も気になりますね」
「そうだね。僕も気になるよ」
何でシリトラとモレリアまで?俺の行動知ってどうするんだ?俺の母ちゃんになりたいの?
「コーバスってだけで、意味分からない因縁つけられるのも面倒ですから、せめて理由だけは知っておきたいんです」
「その理由が何で俺なんだよ。他の連中かもしれないだろ?」
決めつけは良くないぞ、シリトラ。
「ベイルは色んな街の組合で喧嘩しすぎだよ。他所の街行って絡まれる時って大抵ベイルの名前出てくるもん」
「俺は喧嘩ばっかりしてねえよ。他所の街じゃ大人しくしてる。人聞きの悪い事言うな」
モレリアは俺を喧嘩狂いとでも思ってんのか?そもそも俺そんなにコーバスから出ねえし。
「大人しくの意味から教えないと駄目そうですね」
お?シリトラ、それはどういう意味だ?
「教えてもこいつに出来る訳がねえ」
よーし、ゲレロ、俺に喧嘩売ってんな。今度は負けねえぞ。
そう思って、ゲレロを殴ろうとしたら、組合に怒鳴り声が響いた。
「おい!ここに『4落ち』はいるか!」
「出て来い!ベイル!!」
・・・・
あー。見た事無い元気なのが5人ばかし、殺気立って俺を呼んでる。ゲレロ達からは冷たい視線を感じる。
「おい!ベイル!お前に客だぞ!4日前にお前に殴られて財布盗られたんだとよ」
頼んでもねえのに、ペコー達が面白がって話を聞きにいって教えてくれた。あいつら余計な事しかしねえな。
「『喧嘩ばっかりしてない』ねえ」
「大人しくの意味間違って覚えてます?」
「やっぱり出来てねえじゃねえか」
呆れた顔の3人から逃げるように5人組の前に向かう。いや、別に逃げたわけじゃねえ、ちょっと気まずくなっただけだ。それにこの5人組は多分盛大な勘違いしているに違いない。4日前なんて俺・・・・俺・・・・何してたっけ?コーバスに向かってたのは確かだ。けど道中の事なんて、特に覚えてねえ。大したイベントは無かったはずだ。
「お前ら俺を誰かと勘違いしてないか?俺はお前らと楽しく飲んだ記憶がねえんだ」
「てめえ!ふざけんなよ!人の組合滅茶苦茶にしやがって!」
「楽しく飲んだあ?コーバスじゃ、あれだけ巻き込んだ喧嘩を飲んだとか言うのか!」
そう言うと同時に殴りかかってきやがった。5対1とかこいつら卑怯者だ。
・・・・・・
「悪い、悪い。それで何だっけ?俺がイケメン過ぎて困るって話だったか?」
「全然そんな話してませんでしたよね?」
「ベイル、前から言おうと思ってたけど、一度医者で頭診てもらった方が良くないか?」
「あの5人、別に全裸にして捨てなくても良かったんじゃない?兵士さんから苦情がくるよ」
絡んで来た5人は身ぐるみ剥いで外に捨てた後、話の続きをしようと戻ってきたら、呆れた3人からこの言葉だ。
「何だ?違うなら俺はもう別の奴らと飲んでくるぞ」
「まあ、待て、待て。落ち着けって、話聞かせろ」
「そ、そうですよ。ウイスキー持ってきてあげますから」
「よーし。何でも聞いていいぞ。あーでも3サイズは秘密な」
「聞かねえよ」
「全く興味ありません」
何だよ。つまんねえ連中だ。
「シリトラよりベイルの方が体にメリハリあるかもね・・・・イタイ!イタイよ!シリトラ!耳千切れるって!!」
モレリアはシリトラをなんでこう何度も怒らせるんだろうな。身長ネタはまだ許されるけど、体型揶揄うとシリトラがキレるってコーバスの常識だぞ。それにお前ら幼馴染なんだろ?何でモレリアは地雷を何度も踏むんだ?こいつバカなんじゃねえ。
「それじゃあ、王都から逃げてどこを彷徨っていたか教えてもらいましょうか」
彷徨うって俺はゾンビじゃねえぞ!って言いたいけど、未だにモレリアの耳を握り締めているシリトラが怖いからね。言える所は素直に話をしておこう。
・・・・・・・
「ふーん。貴族の追手ねえ。俺が帰ってくる時はそんな奴いなかったぞ」
「ゲレロは関係ねえからな。多分どの街にも俺の追手がウヨウヨいたはずだ」
「いやあ、そんな事ねえと思うけどなあ・・・ヒビット!俺らがいない間に貴族の使いがベイルを探しにこなかったか?」
「いや、知らねえな。ベイル、また何かしたのか?しかも貴族って・・・俺を巻き込むんじゃねえぞ」
「ほら、来てねえって。お前貴族に怯え過ぎだって」
「いーや、ヒビットが鈍いだけだ。あいつは鈍感で有名だからな」
「リリー!俺らが王都に行ってる時に、誰かベイルを探しにこなかったか?」
「・・・・・」
首だけ振ってゲレロに答えると、また書類に目を落とすリリー。今日は忙しいのかな?
「ほら見ろ。ベイルの勘違いじゃねえか」
「あれー。おかしいな。こういう時はいるはずだけどなあ。いなきゃおかしい、絶対いるべきだ」
「お前も頑なだなあ。まあ、これでお前が真っ直ぐ帰ってこなかった理由は分かったぜ」
「それでは今度は私からの質問です」
うーん。何か取り調べを受けているみたいだ。別に悪い事してねえんだけど・・・。
「何故ハルツールの桜の湖に行ったんですか?」
「ハルツール?」
「隣の国の名前ですよ!何で知らないんですか?」
「興味ねえから。何ならこの国の名前も知らねえ」
コーバスは、スライムみたいな名前の貴族の領地だってのは、カルガーに教えて貰ったから知っているぜ。
「この国の名前はメーバです。何で知らないんですか・・・はあ。それで何で桜の湖に行ったんですか?」
「それはあれだ。俺は貴族に追われてただろ。だから一月ぐらいウロウロしてほとぼり冷まそうと考えたんだ。で、その辺で会った奴に聞いたら、今はその『桜の湖』が見頃だって教えてもらったから見に行った」
「あの湖は水竜が住み着いて危険だと聞きましたが?」
うん?シリトラの雰囲気がちょっと変わった?本当に取り調べ受けてる気がする。カツ丼食いてえ。
「ああ、それ近くに住んでいるババアから注意されたな。湖に近づきすぎると、攻撃してくるって。逆に言えば近づき過ぎなきゃ攻撃してこないって話だ。それなら折角来たんだしって事で、湖に近づきすぎないように桜を見に行ったんだ。静かなもんだったぜ。心が癒されたぜ」
「そ、そうですか。それでも出る時は出ると聞きますので運が良かったですね」
「多分、水竜は俺にビビってたんだな!ハハハハハ」
「・・・・」
うん?呆れた顔してどうした?
「で、桜を満喫した後、こうやって帰ってきたって訳だ」
何でゲレロもシリトラと同じで頭を抱えてるんだ?お前ら風邪でも引いたか?俺にうつすなよ。
■
何で?何でベイルはハルツールに行った事、話すんですか?普通誤魔化しますよね?もしかして一連の出来事に全く関係ないんですか?
いえ、タイミング的には、ハルツールで起こったとんでもない出来事と時機が一致していますし、水竜を従える女は桜の湖の話です。関係ないとは思えません。
でも、普通に話したのは何故?
ベイルの行動を思い返せば・・・明らかに怪しい動きを見せたのはエフィルとの手紙。それからすぐに王都のクラン4つ・・・まあ一つは私達ですが・・・が消えて、侯爵家は爵位没収、その派閥に属する家は様々な罰を受け、派閥は消滅。貴族の件は繋がりが見えませんが、タイミング的に無関係と決めつける事は出来ない。
そして今度はハルツール。あそこには水竜を従える女の話があるから、その関係者なら訪れた事を普通は誤魔化す。それなのに教えてくれた。という事は既に準備が終わっている?今度は何を・・・。
まさか!!今度はハルツールが標的!!きっとそうです!それならハルツールに出現した空飛ぶ水竜や空飛ぶ男女の話も関係ありそうです。これはすぐにボスに報告しなくては!
「すみません。少し用事を思い出したので、帰りますね。モレリアはまだ飲んでいてもいいですよ」
「うん、分かったー」
「ウイスキーまだ残ってんぞ?明日にはバカどもに飲まれて無くなってるけどいいのかよ?」
う!それはちょっと勿体ない・・・でも報告優先です。これも報告を遅らせるベイルの策略・・・いえ、流石にそれは考え過ぎですね。とにかく、これで、国も事前に警戒するので、動きがあれば何らかの証拠を見つけてくれるでしょう。そしたらその証拠をベイルに叩きつけて色々話をさせてもらいます。フフフ、その時のベイルの顔が見ものですね。
「おい、今シリトラに鼻で笑われたぞ。ウイスキー馬鹿にしてんのか?」
「違えだろ。お前の顔だよ。いつまで4色に塗られているんだよ」
「ゲレロも塗られているじゃねえか。お前の方がよっぽど面白いぞ」
「どっちもどっちだよ。それよりもベイル、君が行った桜の湖に水竜を従えた女の人の噂があるんだけど見なかった?」
ちょおおおおお!モレリア!何で直接聞くんですか!怪しまれますよ!
「何だそりゃあ?都市伝説みたいなもんか?」
あれ?ベイルのこの反応・・・心当たり無い?いえ、そんなはずは。
「うん、多分そんな感じ」
違うでしょおおお!モレリア、ちゃんと報告聞いてなかったんですか!一連の出来事から『ドルーフおじさん』の関係者の可能性って話だったでしょう!
「悪いが、見てねえな。けど水竜従える女か。強そうだな。まあ、俺の方が強いけどよ!ハハハハハ!」
うーん、ベイルのこの反応、本当に知らない?けどこれが演技の可能性も捨てきれません。やはり急ぎボスに報告しないと。
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「動きは無いそうだ」
ボスの言葉に少し安心する。ボスの話ではあれから国中に散っていた私達の部隊員を、ハルツールの首都に集めて警戒に当たっているそうです。それなら動きがあればすぐに分かるはずなので安心です。
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「いまだ動きは無いそうだ。どうするリーダー?」
な、何で動かないんですか?警戒しているのがバレている?それなら警戒を解除して誘ってみますか・・・いえ、メーバ国の騒ぎを見れば、相手は作戦を同時進行で短期間で終わらせる。そんな相手に隙を見せれば、一瞬で作戦を遂行されてしまう。けど、このままでは動かない。どうすればいい?分からない、わからない・・・ワカラナイ・・・
「ああー!シリトラまた壊れた!ボスが無茶苦茶言うからー」
「ま、待て、別に無茶苦茶は言ってないだろう。そ、それに壊れたとは何だ?シリトラはどうしたんだ?」
ボスの質問には答えず、モレリアはよっこいしょとシリトラを担ぐ。
「ちょっと、組合行ってシリトラ修理してくるね」
「何でえええ???」
「みんな馬鹿だからー」
「いや、会話になってない。そもそも意味が分からんぞ」
ボスの質問を無視して部屋から出て行くモレリア。そして一人ポツンと残されるボス。
「ミルシーはリーダーと組みたがっていたが、やっぱりモレリアはリーダーに任せておこう。そうだな、やっぱりそれが一番だ、うん」
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水竜従えた女?姉ちゃんと若造だと思ったけど、若造は手下じゃねえって言っていたから違うだろ。まあ、水竜程度従えて良い気になっている小物なんて、大人な俺は相手しねえよ。水竜の姉ちゃんを倒したとかなら相手してやってもいいけどよ。ハハハハハ。




