151.ウイスキーを賭けて
「ぷっはー!ああ!うめえええ!ウイスキーうめえ!!」
届けられていたウイスキーは樽で3つあった。俺の予想より1つ多かったが、カルガーが気を利かせて追加してくれたそうだ。人攫いの手柄の礼だってよ。これでまーたカルガーに借りが出来ちまったよ。今度また度肝抜くようなもん送ってやらねえとな。
まあ、今はそんな事より、久しぶりの酒だ。ウイスキー飲んで気分がいいぜ。そして周りからの妬みの視線もな!ワハハハハ!
「チッ!わざとらしくでけえ声で飲みやがって」
「あいつ居ても居なくても、俺達をムカつかせるな」
「人の神経逆なでする為に、生まれてきたんじゃねえか?」
「流石に一杯一万はぼったくり過ぎだろ」
「でもコーバスじゃベイルしかウイスキー持ってねえ。それがまた悔しい」
ハハハハハ、周りの連中からの恨めしい声が、更に俺の心を癒してくれるぜ。別に俺は飲ませねえとは言ってねえんだ。ジョッキ半分で一万で売るって言ってんのに、誰も買わねえだけだ。ウイスキーってのは、貧乏人には飲めねえ酒なんだよ!
周りの連中の視線や言葉に気分よく飲んでいると、ジョッキを大きく叩きつける音が組合に響いた。
「俺はもう我慢できねえ!ベイル!ウイスキーで賭けだ!お前ら止めるなよ!」
まあ最初はてめえだろうな。アウグ。
「止めねえよ。アウグ、俺も混ぜろ」
その次はペコーか。ハハハハハ、いいぜどんどん来い。
「他にいねえのか?」
「俺も行くぞ!」、「俺もだ!」「ちょっと僕達も流石にね」、「やりましょう」
へえー。ヒビット、ハイーシャは来ると思ったが、ショータン達もか。おもしれえ。
その他続々と組合員が席を立つ。
「ハハハハハ、てめえらがどれだけ来ようと返り討ちにしてやんよ!」
「ベイル!今日の俺達は気合の入り方が一味違うぜ。いつも通りいくと思うな!」
「おもしれえ!いいぜ!いつも通りまとめて相手してやんよ!俺に勝ったらウイスキーだな?その代わり俺が勝ったら財布の中身だぞ、いいのか?」
俺が念を押すと、連中が受付の前にどんどん財布を置いていく。今回は喧嘩じゃなくて賭けだ。
喧嘩に負けたら財布盗られるけど、財布以外は過去に色々あって、コーバス組合のローカルルールで禁止となっている。他所の街の連中にはこのローカルルールは適用されないから、遠慮はしねえけどな。
そしてこの賭け、受ける受けないは自由だが、俺は当然逃げねえ。
財布なんて喧嘩に勝てばいい?こいつらはローカルルールの穴を突いて喧嘩前に財布を仲間に預けるから、ここ最近勝っても財布盗れてないんだ。毎回勝ってもただの殴られ損になる。
だが今日は賭けだから、その手は使えねえ、有り金全部貰う。それで悔しそうな連中の顔見ながら飲むウイスキーは更に美味いぜはずだ。ハハハハハ!
「はあー。やっぱりベイルさんがいると大騒ぎになるなあー」
受付の向こうでカナが何かぼやいているが、気にしねえ。
「よーし。俺も参加だ」
「私もです」
あっれー。ゲレロもなの?お前あんまりこういうの参加しねえじゃん。・・・・まあ、いいや、今日こそ、このハゲとどっちが強いかシロクロはっきりさせよう。
そして珍しい事にシリトラまで参加してきやがった。何かずっと俺を睨んできているから、何か恨みを買ったみたいだ。多分、少し前に『オークはシリトラに反応するのか?』で熱い議論したのを誰かがチクったんだろう。
「モレリアはどうします?」
「僕はいいよ。終わった後のベイルを介抱しないといけないからね」
「おいおい、モレリアさんよお。俺が負けるみたいな言い方じゃねえか!俺は今まで組合のオーガ以外に負けた事がねえんだぜ。それに日々俺も成長してんだ。ゲレロとシリトラが加わった所で負けねえよ」
「言ってろ!」
「口だけじゃない所を見せてください」
「ハハハハハ、それじゃあ行くぜ!俺を楽しませろ!」
「おらああ!かかれえええ!」
そうして始まる大乱闘。普段なら適当に来た奴ぶん殴っていれば終わるんだけど、今回はゲレロがいるからそうも言ってられねえ。こいつがいる時は、壁を背にしてこいつだけに集中する。それだけで、周りが巻き込まれて勝手に数を減らしていくからな。
そしてゲレロ攻略の第一。こいつは背が高いから頭を下げさせる必要がある。まずはボディやローキックでダメージを積み重ねていく。
俺とゲレロが殴る蹴るで一歩も引かない中、俺に殴りかかってくる連中は巻き込まれて、勝手に気を失っていく。いつもなら、こいつらを人間こん棒に使うんだが、ゲレロが相手の場合は、受け止められて握っている俺ごと投げ飛ばすから、ゲレロ相手に人間こん棒は使えねえんだ。
そうして粗方数が減ってきた頃にそれは起こった。
「ふん!!」
「おらああ!」
もう何発入れたか分からないボディを打ち込もうと踏み込む俺。そこにカウンターで顔面を狙ってくるゲレロ。何度も繰り返した光景だ。けど今回は違った。俺が踏み込んだ足が何かに押されてずるりと前に滑った。当然体勢を崩した俺のボディーは空振り。けど、ゲレロは、軌道を修正して俺の顔面を殴りつける。
「ぐあ!!!」
咄嗟に腕をあげてガードしたが、踏ん張りがきかず、ガードの上から吹っ飛ばされる。だが、ダメージはねえ。吹っ飛ばされた先で跳ね起きて、ゲレロの位置を確認・・・影?
床によく分かんねえ影が見えた!・・・上か!!
見上げると、丁度シリトラが天井を蹴って俺の頭に、かかと落としをしてくるのが見えた。慌てて両手を上でクロスさせてガードする。天井蹴った勢いを利用しているからか、蹴りが異様に重い。けどガード出来ねえわけじゃねえ。
そこから床に叩きつけようとシリトラの足を掴んだ所で、腹に物凄い衝撃が。
いつの間にか近づいてきたゲレロから、がら空きの腹に強烈な一発を貰っちまった。シリトラの足を掴んでいた手を放して、思わず腹を抑える。それぐらいのダメージだ。手が離れた隙にシリトラが俺の顔を蹴って距離をとる。クソが!モレリアと同じで足癖が悪いチビだな。
「ガハハハッ。流石のベイルでも今のは効いただろ?」
「結構効いたぞ!クソハゲ!」
けど、まだ大丈夫だ。そこから再びゲレロと殴り合い・・・のつもりだったけど、最初の一発を踏みこんだ所で、また足がずるりと滑る。下に目を向けると、シリトラが足元から離れていくのが見えた。
くそ!さっきから何なんだ?・・・シリトラの仕業か!あのチビさっきからチョロチョロと!
「おいおい!余所見して大丈夫か?」
ゲレロの声に視線をあげると、思いっきりぶん殴られて吹っ飛ばされる。シリトラに気をとられて、今度はガードが間に合わなかった。モロに喰らって、意識が飛びそうになる。
が、何とか踏ん張って、倒れるのを拒否して顔をあげた所で俺は意識を失った。
後で聞いたら、壁を蹴って勢いの乗ったシリトラのドロップキックが、キレイに決まったそうだ。
■
「・・・・うーん。痛え。体中が痛え」
体の痛みで目が覚めると、やたら低い位置にある天井が目に入った。
知らない・・・いや、見覚えがあるぞこの天井!
「もう目を覚ました。回復早いねえ、ベイル」
天井の向こうからモレリアの呆れる声が聞こえる。何だ?今どういう状況だ?・・・いや、ちょっと待て、この状況俺は知っているぞ!
ゴロゴロと横に転がり跳ね起きてスチャッ!と構えを取る。
やっぱり俺はモレリアに膝枕されていたみたいだ。って事は俺気を失ってたのか?
「だから、何で毎回、転がってから起きるのさ」
モレリアが何か文句言っているが、周りの状況が目に入った俺にはその声は届かねえ。
「う、嘘だろ」
状況を見て呆然と立ち尽くす俺に陽気なバカどもが楽しそうに笑う。
「おお!みんな!ベイルが目を覚ましたぞ」
「ハハハハハ、流石にてめえも無敵じゃねえんだな」
「貰ってますよ」
「ガハハハッ、いやああ、運動した後のウイスキーはうめえな」
「ああああああああ!俺のウイスキーいいいいい!くううううううう!」
賭けに負けた俺のウイスキーは、樽の上が雑に破壊され、そこからジョッキで掬う形で連中に飲まれている。3樽全てだ。その悲しい光景に俺は天を見上げて男泣きだ。
「泣くぐらいなら受けなきゃよかったのに。受けるにしても何でまとめて相手するのさ。一人づつならゲレロとシリトラ以外には余裕で勝てたでしょ」
うるせえ!一人づつ相手すんのは面倒くせえんだよ。それに今更文句言っても仕方ねえ。負けた俺が悪いんだ。
■
「はあーあ。やってらんねえ」
「フフフ、ベイルは相変わらずだねえ」
負けた俺が悪いが、それでも気分が乗らねえのは確かだ。エールを飲みながら、連中のバカ騒ぎを遠くから眺め、やさぐれる俺。そしてそんな俺を見て何が楽しいのか、さっきからニコニコ笑って俺のジョッキに自分のジョッキをぶつけて、乾杯して盛り上がっているモレリア。
そこにゲレロとシリトラがやってくる。
「よお、楽しんでいるか?」
「嫌味か!楽しい訳ねえだろ!」
「まあ、まあ、ほら、ベイル。これで機嫌直してください」
そう言って、シリトラが差し出してきたのはウイスキーが入ったジョッキ。
「マジで?いいの?もう、アレ、お前らのもんだぞ?」
「だからだよ。別にベイルにあげても文句言われねえよ」
「マジか。・・・ぷっはー!美味えええ!やっぱりこれからの時代はウイスキーだな」
「単純だなあ」
モレリアが呆れているが、俺はいつまでもグチグチ言わねえの!負けは素直に受け入れるんだよ!
「いいの!俺は過去を振り返らねえ男だからな!」
「だから同じ間違い何度もするんですね」
「おう、何だシリトラ。俺がいつ、同じ間違いを繰り返した?言ってみろ!」
「組合長に懲りずに何度も怒られているじゃないですか」
「くううううううう、それ言われたら何も言い返せねえ。そいつは無しだぜ母ちゃん」
「ベイルの母親とか死んでもなりたくないです」
酷くない?
「シリトラが俺の母ちゃんだったら腹食い破って生まれてきてやるよ」
「それもう赤ん坊じゃねえだろ。生まれる前からバケモンじゃねえか」
「バケモンはてめえらだろ。最強の俺様に二人がかりでまぐれとはいえ勝ったんだ。自慢していいぜ」
「アウグ達もいたんですけど?」
あいつらは雑魚すぎて数に入らねえ。
「大体、お前ら攻撃に殺意込めすぎなんだよ。俺を殺す気か」
「・・・う、ウイスキーが飲みたかったんだよ」
「わ、私はちょーっと、色々あってむしゃくしゃしてたからですかね」
全く、ウイスキーと八つ当たりで俺をボコボコにしやがって、酷え奴らだ。




