148.『処刑人』達の動き②
本日2回目です
「何ですって!証拠のメモを失くした!騎士団は何をやっているんですの!」
「申し訳ございません。ティガレット様。ただ、メモの内容は騎士団の者が複数確認し、複製もとってあります。それに許可も出ましたので、このままケバールシ子爵への調査は可能です」
「あら、早いですわね?調査と言ってもほぼ確定してから出るものでしょう?その許可はもう少しかかると思っていましたけど?」
証拠のメモは複製ですけど、騎士団が複製してくれたので、問題ないのは分かりますわ。ただ、その本物のメモは誰が書いたか分からないので、もう少し調べる必要があると思いましたのに。
「えっと、内輪の話ですが、ケバールシ子爵は周囲からはあまり良く思われていなかったそうで。それに最近、ボートレット派閥に属して更に言動が酷くなりまして・・・それに今回は調査ですから、何も出てこなくても特に問題にはならないです」
まあ、建前はそうでしょうけど、家が調査されたなんてすぐに知られますわ。証拠が出ても出なくても、調査されたなんてマイナスでしか無いですもの、派閥から切り捨てられる事になる。
・・・・分かってはいましたけどケバールシ子爵は捨て駒ですわ。恐らくこれだけ早く許可が出たのも、ボートレットからの指示が出ていますわね。・・・恐らくここから先の証拠は何も出ない。
・・・・そう思っていましたの。
「ケバールシ子爵が拷問を受けた状態で見つかった?・・・子爵が名前を挙げた他の3人の子爵も同様に・・・どういう事ですの?何が起こっていますの?」
「わ、分かりません。4子爵の屋敷の誰にも気付かれず、拷問もポーションで治療可能な怪我ですが、非常に痛みを伴う手口。恐らく相手は相当腕が立つ暗殺者だと思われます」
腕が立つと言えば『あのお方』ですけど、あの方はこういうやり方より魔法でドーンと街ごと吹き飛ばしそうですわ。あの方では無さそうですけど、新たな証拠が出てきたのは良かったですわ。聞けば拷問を受けた子爵は全員ボートレット派閥。私の中では元々クロでしたけど、これで多くの貴族がボートレットに怪しい目を向ける。
けど、あの狸はこの程度では、ノラリクラリと躱して逃げ切るでしょう。何とかボートレットに繋がる証拠を掴みたいですわ。けど、我が家は動かせる兵がいない。
仕方ありません。お義父様・・・クライムズ家に頭を下げて兵を何とか貸してもらいましょう。貴族のプライドを捨てさせてお父様に道化を演じさせたのですもの、そのお父様の仇を討つ為なら、私が頭を下げるぐらい何ともないですわ。
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「ジジイ。ケバールシが言った子爵も人攫いに関わっていたと証言してくれたぜ」
「あのケバールシとかいう小物、思った通り、指示を出している奴を調べていたみたいだ。指示ルートは恐らく4つ。今回の『黒』以外のクランへの指示は各子爵経由でケバールシに指示があったそうだ。『黒』の方は辿れなかったがな」
「その子爵たちはケバールシの前の実行部隊への指示役だったそうじゃ。悔しい事にそこから先の指示系統は分からんかった」
「けどな、これで4つの子爵家が指示を受けて関わってたんだ。どう考えても派閥トップのボートレットが人攫いの首謀者だって分かるだろ!ジジイ、いい加減認めろ!」
ここでようやくジジイが大きく息を吐いて許可を出してくれた。
「分かった。ここまで来てダメだとか言いはせん。約束だからな許可しよう。また、組合員が利用されても困るからな。但しあそこの私兵には十分気を付けろ!」
「言われなくても分かっているっての!」
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「な、何なんだ!貴様ら!ここが侯爵邸だと分かっているのか!!」
ああ、その顔だ。その顔が見たかった。見ればユルビルとマーティンも物凄く悪い顔で笑っている。
「分かっているさ。こうやって、てめえの所に攻め込むのは2回目だからな。あん時は証拠集めに潜り込んだはいいが、てめえ自慢の『部隊』に殺されかけて、リーダーに助けてもらったからな。今日はその『部隊』はいねえのか?」
「かなり入念に準備して来たんじゃが無駄じゃったか」
「ここまで出し惜しみする理由がないからな。裏切られでもしたのか?」
そうなんだ。かなり警戒した割には噂の『部隊』がどこにも出てこない。マーティンのいう通り、ここで出し惜しみする理由は無いはずだ。・・・・お?ボートレットの顔色が変わったな。
「き、貴様らか!『第一部隊』を消したのは!しかも再編した『部隊』まで戻ってこない!全部お前たちの企みか!貴様ら一体何者だ!」
何言ってんだ?こいつ。ここに来て惑わしに来る訳がねえよな。こういう場面で遅れて現れてヒーロー気取り・・・いや、ここはコーバスじゃねえんだ。
俺も大分コーバスに毒されてんな。って今はそんな事考えている場合じゃねえ!
・・・・・
取り合えずこいつの言う事信じるなら、今、こいつの私兵はほとんどいねえのか?潜入する時に倒した雑魚どもだけ?どういう事だ?
ユルビルとマーティンを見るが、2人とも首を捻っているから俺と同じで分かっていないようだ。まあ、いねえってんなら被害も減って丁度いい。
「ボートレット、人身売買の帳簿を出せ」
「フハハハハハ、いきなり土足で上がりこんで、何を言い出す。そんなものは無い。そもそも人身売買は禁止されているではないか」
いきなり踏み込まれた動揺から立ち直りやがったな。けど、余裕なのも今のうちだ。こっちもさっさと降参されても楽しくねえからな。
「ユルビルからいいぞ」
「おお、すまんな」
ユルビルの返事の直後、ボートレットの足にユルビルのハンマーが叩きつけられ鈍い音とボートレットの悲鳴が部屋に響く。
「次、マーティンな」
「うむ」
マーティンがボートレットのもう一方の足を思い切り蹴りつけて、骨を砕く。
「じゃあ、俺が手首いっとくか」
両足が動かなくなり、痛みで床に倒れたボートレットの右手首を思い切り踏みつけて、骨を砕く。3度目のボートレットの悲鳴があがるが、誰も助けに来る気配はない。
「本当にいないみたいだな」
「信じられん。何がどうなっておる?」
「いないなら好都合、驚いてないで、さっさと進めるぞ」
そうだな。マーティンのいう通りだ。
結論としては、あの後すぐに拷問に耐えられなくなったボートレットは、裏帳簿の在り処を教えてくれた。思った通り悪党ってのはヤバい取引でもしっかり記録に残していた。
コーバスの連中が言うには、あくどい事している連中は全員裏帳簿付けているんだとよ。で、それを見ながら酒を飲むのが3度の飯より好きなんだって。まあ。何となく気持ちは分かる。
「さて、トレオン、こいつはここで殺すのか?」
「仲間の仇じゃからな。ここで殺すのに文句はない。それに爺さんもこいつの処遇は儂等に任せると言っていた」
そう言って二人から視線を向けられる。二人とも本当はここで殺してえんだろう。目がそう言っている。だけど、こいつはここじゃ殺さねえ。ここで殺せばこいつは貴族として死ぬし、家も財産も残る。そんな事許されてたまるか。こいつはこのまま敵対派閥に裏帳簿と一緒に引き渡す。殺されたサファガリア伯には悪いが、運がいい事にボートレットへの復讐を考えている令嬢がいるしな。頼まなくても可能な限りボートレットを追い込んでくれるだろう。
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襲撃されたあの日から眠りが浅い。ちょっとした音でも目が覚めてしまい、勘違いである事を確認してから再び目を瞑り、強制的に眠りにつく毎日。今日も夜中にふと物音がした気がして目が覚めた。
また、いつもと同じですわね。そう思って目を閉じようとした瞬間、人の気配を感じた!!慌てて覚醒し、助けを呼ぶ為に大声を出そうとした所で、私は固まってしまいました。
窓際に立つ3人は顔を隠しているので、瞬間的にボートレットからの暗殺者と判断しましたが、その3人の前に縛られている人物がいたので混乱してしまったのです。縛られた暗殺者なんて聞いた事ありません。
「あ、暗殺者ですの?」
聞けば3人が違うと首を振り、一人が縛られた人物を私の方に蹴り飛ばす。・・・・うん、なかなか乱暴な方ですわね。ってよく見れば、この蹴られた方、ボートレット侯爵!!ど、どういう事??
訳が分からずボートレットから暗殺者に目を向けると、今度は黙って何かの紙の束を私の前に投げてきました。
な、何でしょう・・・読めって意味でしょうか
そう思い手に取り、中を確認すると、私が欲しくてたまらなかったボートレット侯爵の悪事の証拠。しかもこれ人身売買の帳簿?詳しく見ないと分かりませんが、この状況から考えるとそうでしょう。そう考えると、この暗殺者っぽい方は何者なんでしょう?私の味方?
「・・・」
帳簿から顔をあげると、今度は一枚の紙を渡された。そこには、父親の仇を討て。自分達3人の事は忘れる事。この手紙を読み終われば燃やす事。と書かれていました。
正直何がなにやら分かりませんが、ここで逆らうのは馬鹿ですわね。折角こちらが欲しがっている物を持ってきてくれたんですもの、少なくとも敵ではないでしょう。
ベッドから立ち上がり、火魔法で紙を燃やすと、それを確認した3人は身を翻して暗がりに消えていきました。
恐らくあのお方の手の者でしょう。私が『三猿』を破ればいつでも殺すぞ、というあの方の警告と試練も兼ねてそうですわね。・・・3人いた事が多分『三猿』へのヒント。もし私があの方の事について聞いていれば殺されていたでしょう。
そしてボートレットと、この帳簿はこの試練に合格したご褒美って所でしょうか。ご褒美にしては大きすぎる気がしますけど、『秘薬』を私に諦めさせる為だけに使ってくれる方ですから、この程度あの方からすれば、大した事ないのでしょうね。
さて、指示は仇を討てでしたけど、そのままボートレットのトドメを刺せと言う意味ではないですわよね。あの方は『貴族らしく』と言っていました。恐らく『貴族らしく』徹底的にボートレットを追い込んでみせろという意味ですわ。
まあ、あの方の指示が無くてもお父様の仇ですもの徹底的に追求して、これまでの悪事を全て暴いてみせますわ!
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「終わったな」
「終わってしもうたな」
「終わった」
ユルビルとマーティンも何か燃え尽きたような感じだ。俺も何もやる気が起きねえ。
あれから10日、入ってくる情報ではボートレットの余罪がボロボロ出てきて、しばらくその調査で時間がかかるそうだ。その余罪を表だって追求しているのは、ティガレット嬢の義父クライムズ伯だ。ティガレット嬢は親を殺された悲劇のヒロインとして、人前では暗い表情で、時に涙を流し同情を誘っている。
「あの嬢ちゃん、とんだ女狐だったな」
表向き悲しんでいるが、裏では毎晩クライムズ家で、ボートレットを更にどう追いつめるか嬢ちゃん主導で話し合いしているからな。
「だが、トレオンの思惑通りだ。ボートレットの爵位は取り上げられる」
「この手で殺したかったが、まあ、こういう結末でもみんな喜んでくれるじゃろう」
これにて俺達の復讐も終わりだな。
「ごらああああ!!てめえら勝手に終わった風にしてんじゃねえよ!こっちは死ぬほど忙しいんだ!手伝いやがれ!」
「お前らは終わっただろうが、こっちは今からが戦場なんじゃ!」
すげえ速さで書類を処理している組合長とジジイがブチギレている。面倒くせえなあ。俺達は書類仕事苦手なんだよ。折角のいい気分に水差すんじゃねえよ。
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それからしばらく書類仕事を手伝っていると、大体の情報がまとまってきた。
「今回の今までに類を見ない一連の騒動について、意見を聞く前に、今回の騒動一番得したのは誰かだが、貴族ではボートレット領をそのまま吸収するだろうクライムズ伯。平民では全てのクランが解散し、それに属していた派閥関係がぐちゃぐちゃになる中、順調に勢力を伸ばすアーリット達で異論はないな?それを踏まえて各自の意見を聞こう」
「分かる訳ねえだろ!」
「これの一連の動きを考えて動かしていた奴がいたら、天才すぎる。手に負えん」
「普通に考えたらクライムズ伯とアーリット達が組んで企んだ事じゃろう。ただ、アーリット達がそう言う事を企むとは思えん」
そう言う事を考えるのはジジイや組合長、リーダーの役目だ。流石に今回の件は、報告聞いても全く分からねえ。
「けど、エフィルは怪しい動きしていたな」
「ちょ、ジジイ。それを言ったら・・・」
「それだと暗号でやり取りしていたベイルが怪しくなってくるんじゃが・・・。まさかこれを企んでいたのか!!!」
「確かに発端はあいつがアジトを見つけた事だった」
マーティン、嘘だろ。俺達はベイルの手のひらで踊っていたのか?
「それにあいつハルツールに向かったと聞いたな。そしてそのハルツールでは空飛ぶ水竜と男女、竜を従える若い女等が出現して大騒ぎだ。どう考えてもおかしい」
「・・・」
立て続けに言葉を並べるマーティンに誰も何も言えない。確かにベイルはかなり怪しい。怪しいが、王都に入る時のバカ騒ぎ、組合での乱闘。そしてコーバスでの普段の姿を考えると・・・・うーん。怪しいけど考え過ぎじゃねえ?ってなるんだよなあ。
この作品『チンピラ』と略しましたが、検索かけたら300以上ヒットしました。
感想で頂いた『賢チン』だとヒットしませんでしたので、
略はこちらにさせて頂こうかと思います。
少し殺伐とした話が続きましたが、次からはいつもの、ほのぼのコーバスに戻ります。
今後とも『賢チン』をよろしくお願いいたします。




