145. ベイル組・・・・組?の動き④
「おお!マジで桜かよ!」
教えられた湖の周囲はピンク一色だった。近づいてみれば・・・うーん。記憶が微妙に曖昧だから、これが桜かどうかは分かんねえ。けどまあ、似たようなもんだし、細かい所は気にしねえ。しばらく湖周辺を散策して桜を満喫する。
今が八分咲きぐらいか。中々いいタイミングでこれたな。でも、これぐらい咲いていれば、花見している奴がいてもいいのに誰もいねえなあ。
話じゃあ花見している奴がいるって話だったのに、誰もいない。こいつは困った。酒も料理も現地で売っているだろって思って用意してないんだ。買いに行こうにも、この辺の地理全く分かんねえ。どうせ花見したらすぐ帰るつもりだったから、手続き面倒くさくて金もかかる関所は回避して密入国中なんだ。だから、街にも入れねえ。
取り合えず少し離れた所にあるポツンと一軒家で話聞いてみるか。
「今年は水竜のせいで商売あがったりだ。ここを治める代官様に討伐要請を出したけど、討伐隊が来るのは花が散ってからになるね。それまでは危な過ぎてここには誰も寄り付かんだろう」
家にいたババアに話を聞いたら、今年から湖にどこからかやってきた水竜が住みついて湖に近づけばブレスが飛んでくる危険地帯になったそうだ。今の所は湖に近づかなければ大丈夫だけど、騒ぐとどうなるか分からないそうだ。
例年この辺りには多くの出店が並ぶんだけど、今年は商業ギルドで通達があったのか出店自体来なかった。だから僅かばかり来た見物客もすぐに帰り、今では状況が伝わったのか見物客すら来なくなったそうだ。
話を聞いたババアは、花見期間中は店を出して稼ぎ、オフは家族でこの辺りの管理をしているそうだ。
「他の家族は近くの村に避難させているよ。私だけ残ってこうやってあんたみたいな見物客に危ないって教えてんだ」
「何でババアがそんな事してんだ?一緒に避難すればいいじゃねえか」
「私らは先祖代々ここの管理を国から任されているからね。あんたみたいなのが来たら注意する役目だよ。湖に近づいて水竜のブレスであんただけ死ぬなら、私も避難するさ。けどブレスが桜に当たると管理者として困るんだよ」
おお!やっぱりあの木は桜って名前で合っているのか。しかし国から管理任されるって凄いな。ここって花見が出来るぐらいで、他に重要な土地には見えねえけど?
「この国の建国を手伝ってくれた方から、この湖の周りを桜で一杯にしなさいと指示を受けたと伝わっている。だから私達は先祖代々ここの管理をしてきたし、国からもずっと金が出ている」
凄いな。一体何の為にそんな指示出したんだ?どう見ても毎年の花見の売上だけで、その金が賄えるとは思えねえ。
「ここに桜が増えれば増える程、国に幸運が訪れると伝わっている。本当か嘘かは知らんが300年前にこの桜のおかけでこの国にとんでもないものが、もたらされたらしい」
「とんでもないものって何だ?」
「分からん。国の上の方は知っているだろうが、ここの一管理人程度じゃ、何も分からん」
って事は、管理者が手に入れたって訳じゃねえのか。何だろう、とんでもないものが凄い気になる。
「ヒントになるか分からんが、ここに桜を植えるように指示を出した方が書き残した絵が残っている。本物は国の宝物庫に厳重に保管されているらしいが、これはそれを模写したものだ」
「・・・・・・・」
ババアが見せてくれた絵をみて、俺は多分全てを理解した。
「最初この辺りに桜は僅かしか生えてなかったそうだ。それがこの絵みたいになるようって、その方は分かり易く絵に描いて残してくれたんだ。私達はこの絵の通り、桜を増やし、腰掛ける椅子も作って、周辺に設置してきた。自分でいうのもアレだが、結構この絵に近くなったと思うぞ。まあ私はこの絵を見てもとんでもないものが何か分からんけどな」
そう言ってヒャヒャヒャと笑うババアだが、その声は絵に注目している俺には聞こえていない。
その絵はキレイに咲いた桜の木が何本も立ち並んでいる絵だった。そして絵の中ではタイミングよく風でも吹いた瞬間だったんだろう。桜が舞う様子もキレイに描かれている。そしてその絵にはたくさんの人が桜を愉しむ姿が描かれていた。楽しそうに話をしながら歩く男達、地面に座って酒と料理を愉しんでいる男達、ベンチに座って上に咲く桜を見上げる男。
・・・・・
この絵男しかいねえ!!しかもかなりデフォルメされて無駄にイケメンばっかりで何故か肩を組んだり、おでこをくっつけたりと距離が近い奴らが多い!
そして極めつけがベンチに座り、こっちを真っ直ぐ見ているツナギを来た筋肉質の男。何故かツナギのチャックを腰まで下げ、胸を露出させている。
こっちじゃツナギやチャックなんて多分存在してねえ。なのにこんな絵を大昔に描いた人ってのは・・・・
多分あの人しかいねえ。
当時、湖周辺を将来的にこういう風にして欲しいと分かり易く絵に描いて伝えたんだろう。ただ、余計なもん書きすぎだ。そして何でこんな絵が上手いんだよ。
そう言えば、あの人の書いた絵が王都の商業ギルドに飾ってあるって話だったな。この分じゃ見に行かなくて正解だった気がする。
「何か分かったのか?」
「・・・・・」
とんでもないものってのは何となく分かったけど、これで分かったらおかしいよな。黙って首を振る。
「まあ、そうだろうな。取り合えず湖に近づいて水竜を刺激するんじゃないよ」
■
ババアからの注意は無視して、日が暮れた頃に対岸の、ババアから見えない所まで移動した俺。今から邪魔な水竜は排除して花見を愉しむつもりだ。
まずは湖にいる水竜を呼び出さねえと駄目だから、湖に足だけ浸けてパチャパチャやって水竜を呼び出す。
これは何をやっているかというと、水竜の家をノックして呼び出していると思ってくれたら理解出来るだろう。縄張り意識の強い竜ならすぐに出てくるはず・・・って来た!!
予想通り速攻で水竜が湖から顔を出しやがった。そんで問答無用でいきなり口開けてブレス吐いてきやがった。おもしれえ、久々にブレス勝負といくか!
水竜のブレス目掛けて、こっちも水魔法をぶつけていく。ぶつかり爆音と共に辺りが水飛沫で覆われる。流石に盗み見ている奴は居ないと思うが、丁度いい目くらましだ。
「ハハハハハ、てめえのブレスはその程度か?もうちょい頑張らねえと俺の水魔法に押し負けるぞ」
そして、ぶつかった水竜のブレスと俺の魔法が拮抗したのは数秒程度、どんどん俺の魔法が水竜のブレスを押し返していく。その光景に焦ったのか、水竜が更にブレスの威力をあげるが、少し押し返される勢いが弱まっただけだ。
「おいおい、てめえは足元の水を好きなだけ使えてこの程度か?」
更に煽ると、怒ったのかもう少しだけ威力が強くなったが、まあ結果は変わらない。俺の魔法がブレスを押し返していき、最終的には、水竜に当たり気を失った水竜は湖面に無様な姿で浮かぶ事になった。
「いえーい。俺の勝ち!さーて、後はこいつを殺して花見を愉しむか。いやあ、夜桜ってのもアリだな」
ここは俺のお気に入りポイントにしておいて、毎年花見しに来よう。って考えた瞬間、俺に電流が走った!!
・・・・・
!!お!ティンと来た!!やっべー。俺天才かよ!
思い立ったら吉日、この水竜殺すのはやめて、こいつ連れてあいつらに頼みに行こう!クロはまだ怒っているかもしれねえけど、ここの事言えば機嫌も直るだろう。
って事で名案を閃いた俺は、急遽、殺すのはやめて水竜を下から持ち上げるように空を飛び、久しぶりにクロの家に向かった。
■
「おお!腐様、どうした?早速戻ってきて忘れ物か?」
「ハハハハハ、腐様はおっちょこちょいだな」
「腐様は何で水の若いの連れてきたんだ」
「・・・・腐様」
前回の事があるから、今回はクロの島の周辺に住みついた竜共から襲われる事なく、無事、島に上陸した。で、上陸した所は、クロの住む洞窟前、ちょうど各属性竜のトップが人型で酒盛りしている所だ。こいつらとは前にかなり仲良くなったから、俺に気付くと各々親しげに話しかけてくる。
ちなみに腐様ってのは俺のあだ名みたいなもんだ。元々竜共に名前って概念が無く、元の姿だと叫ぶだけで誰に何言っているか伝わるらしい。けど人型だとそれが出来ないから各属性で呼ぶ事にしたら、俺もこう呼ばれるようになった。
クロ?クロは何故か特別枠で『あのお方』とか呼ばれている。
最初名前で呼べって言ったんだけど、名前の概念が無い竜共は名前を覚えるのが苦手で、属性なら見ただけで分かるからそっちの方が呼びやすいんだと。
見ただけで何属性か分かるって良いよなーって思ってコツを聞いてみたけど、「え?普通分かりません?」と言われた。竜共にとっちゃ何か特別なことをしている訳じゃないらしい。
「早速って何だよ?この島出て行ってから結構経っているだろ」
「ああ、そうかー。竜と人は時間感覚が違うからなー。儂等の中じゃ、ついさっき腐様が出て行ったって感覚なんですよ」
相変わらず竜共の時間感覚狂ってんな。俺がこの島出てから結構経つぞ。時間感覚の違いはまあ、寿命の長さが違うから言っても仕方ねえかって思っていたら、今度は赤竜のジジイの前に緑竜の兄ちゃんが出てきて、俺が連れてきた水竜について聞いてきた。
「腐様が連れてきた、この水の若いのは何かしたのか?」
「おお!それだ!ここに来たのはそれが用事だったんだ。水竜の姉ちゃんに頼みがあってきたんだ」
「ほお、我か。腐様の頼みであれば、我に出来る事なら叶えてやろう」
・・・・
「ほお、ほお、あのお方の主様の。で、こいつをその湖で守らせろと?分かった、それぐらいお安い御用だ」
水竜の姉ちゃんは俺の頼みを快く引き受けてくれた。けど、当の本人に聞かずに決めていいのか?こいつ約束守ってくれるのか?
「守らなければ、殺せばいい」
地竜の嬢ちゃんは、無口な癖して口を開けば物騒な事しか言わねえのは相変わらずだな。
「それならこいつ殺して、俺の手下に桜を見張らせようぜ、腐様」
「湖にいるって分かっていても、水の中に潜られたら手を出せない水竜が、俺の考えに丁度いいから却下だ」
緑竜の兄ちゃんの案は俺の考えに合わないから却下しておく。だって他の属性竜なら不意を突かれたり、追っかけられて討伐される可能性もあるからな。
ちなみに俺の考えた事はこうだ。これから毎年湖に花見に行くつもりだけど、また水竜騒ぎが起これば、対処するのが面倒くさい。だったら、この住みついた水竜に湖を縄張りにしてもらって、桜を守らせればいいってな。それでこの水竜には人を攻撃しないように言いきかせておけば、多分来年から出店も戻ってくるだろう。そのことを俺じゃなくて、この水竜の姉ちゃんや火竜のジジイ達、各属性竜のトップから命令されたら言う事聞くだろうと思って連れてきたら、俺の想像以上だった。
「腐様に喧嘩売って無事とは、貴様は運が良かったな。言っておくが、腐様は我らが束になっても勝てん相手だ。死にたくないなら黙って従え」
「ハハハ。空も飛べない若造なのに、本当に運が良かったね」
「こんな弱そうな奴で役に立つのかねえ?」
「ダメなら殺せばいい」
目覚めた水竜は滅茶苦茶驚いた事だろう。何せ顔を覗き込んできた4人?4匹は各属性竜のトップだからな。そこから水竜の姉ちゃんの指示を聞き終わったら、4人からこの言葉だ。服従のポーズである仰向けになり、涙を流して、うんうん頷いたり、子供みたいに首を嫌々振るのは竜のプライド無いのかよと言いたいが仕方ないね。
「そう言えば、もしこいつ殺したらお前ら怒ってた?」
「別に怒んねえな」
「怒る理由が分かんない」
「何で怒る?」
「別にこんな顔も知らん若造が死んだ所で、我は馬鹿な奴ぐらいしか思わんぞ。逆に腐様は、我らが腐様の知らない所で、知らない人族を殺したら怒るのかい?」
うーん。そう言われると、別に怒らねえなあ。逆に故郷の連中は全員殺して欲しいと考えているぐらいだ。こいつらも同じ竜種だからといってヘンな仲間意識持ってはないみたいで良かった。
「ああ、ただ、出来れば、この島周辺のは儂等の手下だから、殺さないで欲しいな。まあ、腐様に喧嘩売ったとかなら別だけど・・・」
「ああ、分かった、この島周辺の竜は手を出してこねえ限り、俺から攻撃しねえよ。それにこの辺で暴れるとクロがうるせえだろ?」
「誰がうるさいだと?」
・・・・・・
その声が聞こえた途端、俺の後ろの方に向かってジジイ達がしゃがんで頭を垂れる。
あーあ、出て来ちまったか。呼んでねえからいつもみたいに巣穴で引き籠っておけよ。
「お前だよ。ったく、普段は引き籠って出てこねえんだから、こういう時だけ出てくるんじゃねえよ」
振り返ると満身創痍のサクラちゃんの姿になっているクローディアが立っていた。こいつなんでこんなボロボロ?・・・ああ!この間俺がボコったんだった。まだ怪我治ってねえのかよ。あ!そう言えば血の礼も言わねえとな。
「貴様の指図は受けん。それで何の騒ぎだ?そこの汚い顔を晒している馬鹿が原因か?見るに堪えん」
クロの姿を見た瞬間、気絶してしまった水竜を睨みつけたクロは、いきなり口を開けた。
だから!サクラちゃんの姿でブレス吐くんじゃねえよ!
慌ててクロのブレスを水魔法ではね返す。いやあ、やっぱりこいつ強いわ。こいつのブレス、俺の全力でようやく押し返せるぐらいだもん。魔法を全力で使いたいなあって少し前に思ったけど、これで少し気が晴れたわ。ただなあ・・・
「ひぃいいい!」
「そいつ水の眷属です!!だから僕は悪くないですううう!」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「この若いのは好きにしてもいいですから、どうかお許しをおおおお」
クロがブレス吐いた途端に俺にしがみついて情けなく悲鳴をあげる4人。信じられるか?これが各属性竜のトップなんだぜ。うるせえし、しがみ付いてきて動きにくいし、すげえ、気持ちが萎えるぜ。
「チッ!相変わらず忌々しい奴だ」
1ブレス防ぎきると、たったそれだけなのにハァ、ハァと息を切らしながら俺を睨んでくるクロ。そんなに辛いなら引き籠ってろよ。
「待て、待て、取り合えず落ち着けクロ。この水竜は殺すな。俺に名案があるんだ」
「名案?どうせ、碌でもない考えなのだろう」
お?何だ?てめえは花見誘ってやらねえぞ。
「サクラちゃんに関係していてもか?」
「・・・・話を聞かせろ」
へへへ、やっぱりこいつ、サクラちゃんの事になると、チョロいぜ。




