142.ベイル組・・・・組?の動き①
少し時は遡り、ベイルが自分から牢屋に立て籠もった翌日。
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「あー、腹減った。モレリアの奴なんでこねえんだよ。まだ寝てんのか?」
今日もモレリアが飯とか持ってきてくれるって約束したから信じたのに、昼回っても姿を見せねえ。いい加減腹が減って死にそうだ。
「なあ、兵士さん。その飯を俺にも分けてくれねえか?」
「最初に、数は決められているから、分けられないと言ったはずだ。これを分けると他の奴らの分が無くなる」
「いいじゃねえか。どうせ犯罪者達の飯だろ?一日ぐらい食わなくても死にはしねえよ。何も犯罪犯していないのに牢屋にいる、真面目な一般人の俺に分けて然るべきだろ?」
「お前は自分から押しかけてきたんだろ。誰もお前に牢屋に入れなんて言ってないから、好きに出て行っていいぞ」
「出て行きたくてもこの手枷のせいで出れねえんだよ」
外に怖い貴族もいるから、もし出れても出て行かねえけどな。
「お前が鍵を壊したんだろう。知るか!」
王都の兵士は冷たいねえ。コーバスならもうちょっと親身に・・・親身に・・・なる姿が思い浮かばねえ。結論!王都もコーバスも兵士は冷たい連中しかいねえって事だな!
俺との会話を切り上げて去っていく兵士を見ながら、モレリアがやってくるのをただ待つしか出来ない俺。モレリアも来れないなら、せめてシリトラとかに頼むぐらいすればいいのによお。くそー。もうあいつに二度と頼み事なんてしねえぞ。
そうして腹の減りを我慢して待っていると、ついに救世主がやってきてくれた。
「どもっす。ベイルさん。騎士達への報告終わったっす。これで表向きは全部自分とタロウでアジト見つけたって事になったっす。一応クライムズ伯にも話をして手を回してもらったっす」
「クライムズ?誰だそいつ?スライムみたいな名前しやがって、俺が秘孔突いて爆散させてやろうか?」
「な、何てこと言うっすか!コーバスのある土地の領主っすよ!ベイルさんマジで不敬罪で捕まるっすよ!」
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「おいおい!カルガー!お前領主様にそんな事言ったら失礼すぎるだろ!!」
「自分に罪をなすりつけるのやめてもらっていいっすか?」
「冗談はそれぐらいにしておいて」
「マジで冗談じゃすまないっすよ?」
怖い事言うなよカルガー。ビビッてリーゴみたいにおしっこ漏れたらどうすんだ?オークが寄ってくるぞ・・・いや、俺が漏らしてもオークは寄ってこねえな。クタイッシュなら寄ってきそうだ。
蹴り飛ばしてやるけどな!
「取り合えず俺に騎士の連中が絡んでくる事はねえんだな?」
「一応大丈夫なように動いたつもりっす」
よし、それならここには用はねえ。
俺は喉に魔力を集めて手枷に向かってブレス(唾)をペッと吐く。
「汚いっすよ。何してるっすか?」
「はっはっは、ほら見ろカルガー、これでこの通り!」
そう言って手枷を強引にバキッっと割って拘束を解除する。いやあ、初めて使ったけど、俺の『腐』のブレス凄いな。唾が触れた所、一瞬で腐食してサビだらけだ。
これなら俺がコーバス一、いやこの国で一番の脱獄王を目指すぜ。
うん?その為に毎回捕まる必要があるな。そうなると毎回ティッチや組合長から説教くらいそうだ。うーん。やっぱり面倒くさいから、目指すのやーめた。
「えええええ?ちょ、何したっすか?何でこんなサビだらけなんすか」
「ハハハ、俺は毎日毎日この手枷に塩を吹きかけておいたのさ!」
「毎日毎日って、立て籠もってまだ二日っすよ?マジでどんな手品使ったっすか?」
「種を明かせばどうって事ねえ。この手枷の鍵部分が最初から錆びついてたんだよ」
そんな訳ねえけど、そう言っておけば信じるしかねえだろ。だって、誰も『腐』属性知らねえんだもん。
「えー。王都の牢屋でそんな確認ミスみたいな事起こるっすかあ?」
「馬鹿野郎!人には誰しも見逃しってあるんだよ。お前の知っているあのティッチでもやらかした過去があるんだぞ!」
「えー。あのティッチさんがそんな事するとは思えないっす。例えばどんな見逃しがあったっすか?」
え?何かあったっけ?ティッチのミス、ティッチのミス・・・ああ、駄目だ思い浮かばねえ。
「ほら、あれだ、何か色々だ。あいつの見逃しはやべえからな。俺が毎回バシッ!と再確認してたから知らねえだけだ」
「絶対嘘じゃないっすか」
「くそー。コーバスにいた頃の純真無垢なカルガーはどこ行っちまったんだ。人の事信じない冷たい人間になりやがって!やっぱり王都なんて行かせるんじゃなかった!」
「人じゃなくてベイルさん限定で信じてないっす。あと自分王都生まれの王都育ちっす。どっちかというとコーバスにいた期間の方が短いっす。知っているっすよね?」
かあー。都会で口ばっかり成長しやがって、カルガーはもう駄目だ。こいつは都会かぶれになりやがった。
「うるせえ!俺の用事は済んだからもう帰る!」
「帰るって自分らのハウスっすか?」
「違えよ。コーバスだよ!あ、カルガー金貸してくれねえ?エフィルにウイスキー買わせるのに金全部渡しちまった」
「絶対貸さないっす」
「駄目かあー。なら組合行って絡んでくる馬鹿から巻き上げるか、野盗いじめて金稼がねえとなあ」
「嫌な稼ぎ方っすねえ。王都の組合でそれやっちゃ駄目っすよ」
やらねえよ。俺はさっさと貴族の巣のここから離れたいんだ。
「それよりもゲレロさん達はどうするっすか?」
「知らねえよ、もうあいつらとのパーティは初日、牢屋にぶち込まれた時に解散したんだ。好きにさせたらいいだろ」
「初日に牢屋でってのが意味分かんないっすけど、分かったっす。ゲレロさん達には帰ったって伝えておくっす。アーリット達には何も言って行かないっすか?」
「別に何も言う事はねえ。・・・あ!最後エルメトラ神に会いたいなあ」
「今日エルはクイトと2人で出かけていないっす。多分夜まで帰ってこないっす」
・・・・・・
神は堕ちたみたいだ。
「よーし、クイトはどこだ。頭たたき割ってからコーバスに帰る事にするぜ」
「はあー。そんな事している間に騎士達の気が変わるかもしれないっすよ」
おおっと!やべえ。そいつは宜しくねえ。ちぃ!クイトの野郎命拾いしやがったな。今度会ったらアウグと丸二日個室に閉じ込めて、肥溜めの刑に処してやる。その姿を見れば女神もクイトに愛想尽かすに違いねえ。
「仕方ねえ。クイトに今度会ったら覚悟しとけって伝えておいてくれ。カルガー今回は助かったぜ。礼は必ず返すから期待して待っててくれ。お前の度肝を抜くような物を見つけて渡してやる」
「いや、礼は今回の手柄が自分とタロウのものになったので十分っす。それにベイルさんが見つける度肝を抜くようなものは、別の意味で度肝抜かれそうだから遠慮するっす」
「遠慮すんなって。そんじゃあ、楽しみにしてろよ!じゃあな!」
・・・・・
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「ああ、もう相変わらず人の話聞かない人っすね」
ベイルが去った後の牢屋の前でカルガーは相変わらずの行動に呆れて笑いしか出ない。
いやー。やっぱりベイルさんはベイルさんだなあ。王都に来ただけで大騒ぎ。でもあんなのが珍しくないのがコーバス・・・やっぱりコーバスおかしいよね?
コーバスおかしいよねえ?と頭を捻りながらカルガーは兵士詰め所に顔を出すと、
「ベイルさんに繋いでいた手枷サビてボロボロっすよ。点検もっとしっかりした方がいいっす」
そう言い残し去っていくカルガー。その言葉を聞いて、慌てて兵士が牢屋に行くと言葉通り、鍵の部分がサビてボロボロの手枷が床に落ちていた。
「ちょっと、待て。これを見逃すか?普通?毎日点検してんだぞ」
「み、見逃すとは思わないですけど、実際こうなっているって事は、みんな記録だけして見てないって事でしょうか?」
「そうだ!今回たまたま自分から手枷嵌めて立て籠もった奴だったから良かったが、これが重犯罪者なら、俺達も逃亡幇助の罪に問われていたかもしれないぞ!取り合えずここの点検担当者は全員連れて来い!」
こうして何の罪もない牢屋担当の兵士が罰を受ける事になるのであった。
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俺は牢屋を飛び出すと真っ直ぐ門を抜け街道をひた走る。
どこに?
コーバス?
違う!
俺が向かうはコーバスとは別方向。行先は決めてねえ。ただ、コーバスに真っ直ぐ帰らねえって事だけは決まっている。
何故か?
そりゃあ、貴族たちが追っかけてくる・・・いや既に街道で俺を捕まえようと待ち構えているかもしれねえからだ。恐らくコーバスには既に貴族の手が伸びているだろう。
カルガーが上手くまとめてくれたって言ったが、そりゃあ騎士達がその場しのぎで嘘言ったに決まっている。
貴族ってのは平民との・・・なんなら貴族同士での約束でも平気で破る生き物なんだ。普通の奴なら簡単に捕まるだろうが、『クソ貴族評論家』のベイル様にその手は通じねえ!だいたいこのレベルの騒ぎなら一ヶ月程で貴族も忘れるはずだ!だから俺も一ヶ月どこかプラプラしようと考えている。
ただ、先立つものがねえから、どこか適当な街の組合で絡まれるか、野盗見つけて金稼ぎが先だ。だけど、近場の街や村は既に貴族の手が伸びているはずだから安定のスルー。俺は貴族の事なら何でもお見通しだ!
そうして腹も減ったし駆け足で移動していると叫び声が聞こえてきた!こんな場所で叫び声聞こえてきたら、普通の奴なら回れ右だ。けどなあ、俺達3級以上の組合員にとっちゃ逆、声の聞こえた方に全力ダッシュだ!
何故か?
そりゃあ、野盗が誰かを襲っているからだ。あいつら商人や一般人の前にはポンポン姿現す癖して、組合員だけだと滅多に姿を現さねえレアポケモンみたいな存在だからな。
野盗にとっちゃ、普段狩る側だけど、組合員相手だと狩られる側に回るから、組合員だけだと滅多に姿を見せねえ。まあ、この間みたい俺らに恨みを持ってるとかなら話は別だ。そしてレアなだけあって、倒した後の野盗の巣を漁るのが、当たり外れがあってこれまた面白えんだ。
だから、他の組合員にハイエナされないように全力ダッシュで向かう。すぐに倒れた馬車と人。それを取り囲む面々が見えた!「お父様!お父様!」と倒れた誰かに縋り付いて泣き叫んでいる女も見える。
よっしゃあ!!レアポケモンゲットだぜ!
「ハハハハハ!呼ばれてねえけど、ジャジャジャジャーン!愛と勇気なんて欠片も持ってねえ、俺様参上だぜ!!」
・・・・・・・
「あ、ごめん」
勇んで飛び込んで行ったけど、全員無言で反応なし。泣き叫んでいた女も俺を見てポカンとしている。どこかスベッた空気と、何より俺が壮絶な勘違いをしていたので謝る事にした。
何故か?
だってこいつら野盗じゃねえんだもん!全員顔隠しているから暗殺者だ!




