141.ハルツール組の動き
「何ですって!!ベイルが消えた!?」
レインディとその仲間の死体を漁るシリトラ達。そこに駆けつけてきた部下から報告を受けたシリトラは驚くと同時に自分の間違いに気付く。
失敗しました。まさかレインディが陽動でしたか。自分は牢屋に閉じ込もって監視の目を外させるなんて、まんまとベイルにしてやられました。彼はどこまで計算しているんでしょう。
「それで?何か手がかりは?」
「いえ、ありません。王都内のどこかに潜伏しているのか、既に王都を出たのか不明です。今は各門に一人つけ残りで王都内を調べていますが、流石に外は手が回りません。リーダー達も協力をお願いします」
「分かりました。王都に戻ります。レインディ達は手掛かりや証拠を持っていないので、このままにしておきます。馬車にいる薬漬けの人達は・・・可哀想ですが置いていきます。それでは各自バラけて王都へ!」
そう言ってその場を離れようとしたが、モレリアが動こうとしない。何か気付いた事があるのかと思い、全員が注目すると、モレリアがゆっくりと口を開いた。
「ねえ、シリトラ。僕に何か隠し事しているでしょ?何で報告でベイルの名前が出てきたのかな?」
その言葉に全員が驚いてシリトラとモレリアに注目する。今まで任務の事で何も質問する事なく、シリトラの指示に黙って従っていたモレリアが初めて疑問を口にしたからだ。更にそれを聞いて普段は冷静なシリトラが取り乱し始めるという珍しい光景。
「リーダーでも慌てる事あるんですね?」
「私はモレリアさんが質問した事に驚いているわよ」
いつもの笑顔を浮かべてシリトラに詰め寄るモレリアを眺めながら、ミーツラス達は思い思いの感想を口にする。そのミーツラスに、王都から報告に来た仲間が近づいて話しかける。
「そう言えば、ミーツラス、土柱がこんなに出ているって事はリーダーとモレリアさんですか?」
「そうです。相変わらずの連携、2人で5級クランを一方的でしたよ」
「ええー。いいなあー。私も久しぶりに見たかった」
一見すれば、女性同士が楽しく会話しているだけだが、彼女らの足元には王都でも名の知れた15人の死体が転がっていて、周りに無数の土の柱が立つという異様な光景となっている。
「だ、だから、す、少しベイルが怪しいかなー。なんて。別に隠していた訳じゃないですよ。確証が持てなかったから、もう少し調べてからモレリアにも話をしようと思っていたんです」
「本当かなー?」
「本当です。本当です。私がモレリアに嘘吐く訳ないでしょう」
「うーん。まあ、いいや、信じてあげるよ。一つ言っておくけど、シリトラはちょっと考え過ぎだと思うな。ベイルはもうちょっと・・・ううん、かなり単純だから考え過ぎない方がいいよ」
「それはモレリアが軽く考え過ぎです。ベイルは馬鹿のふりしてますけど、相当頭が切れます。現にこうやって私は陽動に引っかかって、まんまとベイルに出し抜かれましたから」
「うーん。これって陽動じゃないと思うけどなー」
「陽動で間違いありません。モレリアが信じたくない気持ちは分かります。でも安心してください。もしベイルが『ドルーフおじさん』の関係者だったとしても、別に敵対している訳じゃないので、殺したりはしません。少し話を聞かせてもらうだけです」
「それなら僕がベイルに聞いてみようか?」
「あなたは馬鹿正直に聞くつもりでしょう。それすると任務自体が破綻するかもしれないのでやめて下さい」
数日後、シリトラ達は頭を抱えていた。
「4つのクランが同時に全滅って一体何が起こっているんですか?」
「リーダー、正確には3つのクランリーダーとその主要メンバーの死亡を確認。まあ、一つは私達が殺したんですが・・・『黒』については、行方不明となっています」
「貴族の方では、人攫いを指示していたケバールシ元子爵の投獄はまだわかります。ただ、サファガリア伯の暗殺はこの動きに関係があるのでしょうか?」
「分かりません。噂では派閥の移籍で侯爵の怒りをかったからではないかと言われています。唯一の生存者の令嬢は、そう考えているみたいで、侯爵の情報を集めているそうです」
「分かりました。取り合えず貴族の事は一旦別で考えておきましょう。ベイルの行方は?」
「何故かコーバスではなくハルツールの方に向かったそうですが、依然、行方は分かっていません」
コーバスに帰らず別方向・・・まして私達の国の方に向かうなんて、ベイルにはまた裏をかかれました。コーバスに向かわせた2人は無駄足ですね。ただでさえ手が足りないというのに。
そこから更に数日。シリトラはモレリアと王都を歩いていた。あれからトレオンとゲレロと会い、逃げたベイルの文句を言い合ってから、コーバスへの帰還は各自でと決まった。
シリトラ達は王都にいた頃の友人や馴染みの店を尋ねる為、しばらく滞在してから帰ると言っているので、残っていても怪しまれる事はないだろう。実際に馴染みの店や友人を尋ねている。ただ、本当の目的は、ベイルの行方を調査させている部下からの報告を待つ為だ。
そうして街を歩いていると、突然、空に七色のキレイな火球が打ちあがった。
あ、あれは緊急合図!
すぐに気付いたシリトラはモレリアと顔を見合わせて、怪しくない程度の速足で仲間の場所へ移動する。その途中、誰からか驚きの声が聞こえてきた。
「おい!アレ!何だ?ま、魔物か?」
「浮いてるぞ」
その声に驚いて顔をあげて空を見渡すと、空のかなり高い場所に人が浮いて飛び去って行く所だった。
可能性はあると思っていましたが、やはり隠れていましたか!あれは・・・報告にあった空飛ぶ赤髪の老人ですね。報告通り両手に樽を持っているという事はあの中身はお酒でしょうか?いえ、それよりも何故このタイミングで姿を?飛び去っていったのはハルツール方向・・・ベイルの向かった先と同じ・・・やはりベイルの関係者なのでしょうか?何がしたい?ベイルは本当に関係者なの?相手が何を考えているか全然分からない、ここまで翻弄される仕事は初めてです。
飛び去って行く老人をただ、黙って睨みつけるしかできない自分を情けなく思いながらも、合図を出した仲間の場所に向かうと、何故かカルガーが呆けた顔で立ち尽くしていた。
何故?カルガーがここに?
不思議に思い仲間に視線で尋ねると、どうやら、カルガーに聞けと視線で返してくる。それを確認すると、シリトラはいつも通りカルガーに話しかける。
「カルガー?どうしたんですか?」
「あっ、シリトラさん、モレリアさん。お疲れっす」
「空を見上げてたけど、カルガーも空飛ぶお爺さんを見たのかい?」
「まあ、見たっすけど・・・そのお爺さんとさっきまで一緒に行動していたっす」
「ど、ど、ど、どういう事ですか?」
予想外の答えに慌てるシリトラ。まさかカルガーも仲間?と考えたが、流石に馬鹿正直に話すわけがないと、その考えを否定する。
「家でタロウ達と遊んでいたら、いつの間にかあのお爺さんが家の庭に立ってたっす。普段ならそういう不審者は、タロウ達が遊んでから外に放り投げるんっすけど、今日はタロウ達が凄く怯えてたっす。で、そのお爺さん、いきなりウイスキーを樽で二つ欲しいとか言ってきたっす。『何で自分に言うんすか?』って聞いたら、『【フサマ】から大きいレッドウルフを飼っている家の娘に頼めと言われた』とか言ったっす」
「【フサマ】?それって誰の事だい?」
「知らないっす。知り合いにも貴族にもそんな名前に心当たりないっす」
カルガーのこの態度、本当に心当たりがないみたいですね。
「それでウイスキーを買ってあげたんですか?」
「そうっす。怪しさ満載だから買うつもりなかったっすけど、お礼に自分が絶対に欲しがる物をあげるって言われたから気になったっす」
「怪しすぎません?それで不審者の要望聞いてあげたんですか?」
「タロウ達が物凄く怯えていたっすから、穏便に家から追い出したかったってのもあるっす」
タロウでも怯えるって・・・そのお爺さんは空を飛んだし、やはり『ドルーフおじさん』の関係者でしょう。そして想像通り『ドルーフおじさん』の関係者はタロウが怯えるぐらい強いと考えておいた方がいいですね。やはり敵対はせず話し合いが出来るように動きましょう。
「それで言われた通り、ウイスキーを樽で二つ買ってあげたら、空飛んでどこかにいったっす。それでお礼にこれを貰ったっす」
そう言ってカルガーが差し出したのは、葉っぱに包まれた物。見た目だけなら誰でも見た事があるようなものだ。
「これって肉?ウイスキーを樽二つでこれは報酬安くない?」
「自分もモレリアさんと同じ事思ったっす。けどあのお爺さんが最後に教えてくれたっす。この肉は水竜の肉だって。『フサマ』からのお礼も兼ねているって言われたっす」
「「水竜!?」」
水竜とは竜種の中で一番討伐が難しい竜と言われている。その理由として水竜は水の中から出てこない事が挙げられる。当然こちらからの攻撃は遠距離攻撃のみ。向こうも水の中からのブレスのみで、基本、陸に上がってくることはない。なので船に乗って距離を詰めようと近づこうものならひっくり返されて終わり。更に水中に潜られれば有効な攻撃方法もなく顔を出すのを待つしかない。
そして、運よく倒してもまたそこから陸上に引き上げるのが人手も必要、一苦労と竜種の中では一番厄介な魔物という認識だ。そんな厄介な水竜の素材は、竜種の中では一番貴重で高い。当然カルガーが貰った肉が本物だとしたら、ウイスキーを樽で二つでも十分お釣りが返ってくる。
「本当ですか?」
「流石に騙されてるんじゃ・・・と思ったけど、空飛んだ人から貰ったなら本物っぽいね」
「まあ、騙されたなら仕方ないっす。空飛ぶお爺さんが見れただけで満足するっす。取り合えずこのお肉が本物でも偽物でもどっちでもいいっすから、家でみんなで食べてくるっす」
そう言って去って行ったカルガーは、後日水色に変化したワイルドウルフを3匹引き連れて王都を騒然とさせ、それを聞いたゴドリックが大興奮でカルガーを尋ねてきたのはまた別の話。
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