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140.『紅蓮の盾』とハスリア組

「全く、アジトの一つが見つかったぐらいで騒ぎすぎなんだよ。5級の俺達を軽く考えてるんじゃねえか」


 アジトから商品を運び出し、街道に戻る途中、ネルギノは今日何度目になるか分からない依頼主への悪態を吐く。


「そうぼやくなって、急ぎだっていうから報酬はいつもの倍以上だ。それに何度も言っているが、あの子爵にこんな商売が出来るわけねえ。カンバル様と同じ伯爵か更に上からの仕事だ」

「もしかしたらカンバル様より上の貴族と契約できるかも・・・だろ?分かっているって!けど気に食わねえ」


 仲間が宥めるが、ネルギノは自分達が軽く見られていると感じているのか、イライラを抑えようとしない。そこに・・・。


「前方に数人いる。ネルギノどうする?」


 少し先を行き、警戒していた斥候が戻ってきて、前方に人がいる事を教えてくれる。街道まで出れば人とすれ違っても怪しまれる事はないが、まだアジトに近いこの場所で、馬車を引いていると怪しまれる可能性がある。


「組合員か?」

「クランに所属していない3級が一人いる。そして見た事ねえ奴が二人。最後の一人が良く分かんねえんだが、コーバスのあのデカいハゲ。全員盾と槍装備だ」


 斥候の言葉を聞いて、よく分かんねえ組み合わせだなと思うネルギノだったが、すぐにその組み合わせの意味を理解した。


「俺達があのハゲ狙っているって言って回っているから、適当な連中雇って先に仕掛けに来たな。ギャハハハ!おもしれええ。ちょっとコーバスの名前が広まったからって自分も強いと勘違いしてやがる。5級の俺達の実力を分かってねえのかよ。こっちは5級、4級で12人いるんだぞ。4人で勝てるとでも思ってんのか。しかもそのうち2人は組合員でもねえ」


 さっきまでの不機嫌そうな態度から一転ネルギノは腹を抱えて大笑いしている。それを見て他のメンバーも笑う。ただその笑いはゲレロ達に対する嘲りの笑いだった。


「よし!このまま進んで、あのハゲどもと戦るぞ。ハゲは俺がやるから、他の連中は好きにしろ」


 そのネルギノの指示に従い全員で進むと、少し開けた場所で報告通りゲレロ達が待ち受けていた。


「よお、待ってたぜ」

「おや、おや、コーバスの4級さんじゃねえか?こんな所でどうした?一緒にいる連中はコーバスの奴らじゃねえな?他のコーバスの連中はどうした?」

「知らねえ。好きな事でもやってんじゃねえか?」

「ギャハハハ、誘ったけど断られたんだろ?他のコーバスの連中は賢いぜ。5級の俺らを狙うとか、無謀だってちゃんと分かってるんだからな!」


 何か勘違いしているようだが、ゲレロはそれを正すつもりはなく、無視して本題に入る。


「取り合えずだ、その馬車の中身を確認させてくれねえか?俺らの探し物が入っているかもしれねえんだ」


 そのゲレロの言葉にネルギノ達の空気が変わった。


「おい、おい、どこで情報が漏れた。・・・まあ、こいつらに聞けばいいか。お前ら!こいつらを殺すなよ。殺すのは情報出させてからだ」

「それは俺達の言葉だっての。悪いが、俺達も調査、調査で色々溜まってるんだ。真面目な隊長もいねえし、お前らが俺を狙っているってのも丁度良い。悪いが憂さ晴らしさせてもらうぜ」

「ああ?てめえ、さっきから何言ってやがる?」


 ゲレロが何を言っているのか全く理解できないネルギノを無視して、ゲレロが仲間に指示を出す。


「お前らも久しぶりに暴れたいだろ?俺がクワロに怒られてやるから、使っていいぞ!」

「本当ですか?やった!」

「いい加減、鈍る所だったんですよ。ありがとうございます。小隊長」

「流石先輩!」

「ただし、そこのキング気取りの奴だけは俺が相手する。他は殺していいが、誰も逃がすんじゃねえぞ」


 先ほど、仲間に言った事と同じ事を言われて頭に血が上るネルギノ。4人を睨みつけると、そのうちの一人が動いた。


「お先!」


 全員盾と槍を持ち、重そうな鎧を装備していたので、ネルギノ達はゲレロ達全員の動きは遅いと思い込んでいた。

 

 だが、最初の奴の動きはネルギノ達の予想を大きく超えていた。重装備なのに、そこらの斥候より速く動いた。そして狙われたのはネルギノパーティの斥候。意表を突かれて動きが一瞬遅れたが、そこは5級。槍の攻撃を腹に掠めながらも何とか躱す。


 が、躱した先には既にもう一人が回り込んでいる。最初に攻撃した相手にばかり注意を向けていた斥候は、回り込んでいた敵に気付く事無く、その腹を貫かれて動きを止めた。


「先制するなら、躱されるな」

「あれー。すみません。やっぱり鈍ってますねえ」


 一瞬の攻防にネルギノ達が呆けている間、ゲレロの仲間二人は呑気な事を言い合う。その間に我に返ったネルギノパーティの魔法使いが2人に向けて火球を放つ。


「「チッ!」」


 火球に気付いた2人が慌てて盾を構えるが、それを見て魔法使いが嘲り笑う。


「そんな安物の盾で防げるか!」 


 相手の盾は見ただけで数打ちと分かるぐらいの安物の盾。あれぐらいなら盾ごと燃やし尽くすと信じて疑わない魔法使いだったが・・・。


「防げるんだな、これが!」

「ば、馬鹿な・・・ぐうぇ」


 火球が当たった瞬間、周囲が炎に包まれる。その中から、盾を構えた敵が何事もないかのように飛び出してきて、魔法使いの腹に槍を突き入れる。動揺した魔法使いは躱す事も出来ずに腹を槍で貫かれた。


「な、な、何なんだ!てめえら!」


 理解不能な出来事が眼の前で起こり、動揺していたネルギノが我に返り叫んだ時には、既に仲間が4人動かなくなっていた。


「弱えな。これで5級か?外れくさいぞ」

「こいつら最近、討伐依頼でも前に出ずに指示ばっかりって聞いてますから、カンが鈍ってるんじゃないですか?」

「意表突かれてから立て直すまで遅すぎる。素人じゃねえんだから・・・」

「良い運動じゃないですか。鈍った体にはこれぐらいが丁度いいですよ」


 動揺から立ち直ったネルギノ達が警戒して対峙しているのに対して、ゲレロ達は楽しそうに話をしている。また、それが気に障ったんだろう。ネルギノが大声をあげる。


「てめえら!ふざけんな!俺ら5級に手を出してどうなるか分かってんのか!」


「お前らあんまり油断するなよ。一匹全く動揺してねえ強いのがいる、そいつは班長が相手しろ。厳しければ足止めだけしておけ」

「了解!」

「って事は小隊長があっちのボスだから、俺らは3人づつだな」

「やったー」


 組合員であれば、萎縮するネルギノの怒鳴り声を無視して話をするゲレロ達。明らかに馬鹿にした態度にネルギノはますます頭に血が昇る。


「てめえら!!・・・・!!ごあッ!」


 頭に血が昇ったネルギノが、再び叫ぼうとした所ににゲレロが距離を詰め、盾ごと体当たりを食らわす。今度は意表を突かれる事無く、その攻撃を読んでいたネルギノは自慢の盾を構えて受けるつもりだったが、想像以上の力で踏ん張る事が出来ずに大きく弾き飛ばされる。


「て、てめえ何て馬鹿力だ!」

「これぐらいで吹き飛ばされるのか。コーバスじゃ、元5級でも逆に俺を弾き飛ばすだろう化け物もいるってのに。今の5級は堕ちたもんだな」

「ああ!?今のは油断しただけだ!」


 そう言うと立ち上がり、突進の勢いに任せて槍を突き出してくるネルギノだったが、その槍をゲレロが盾で軽く受け流し、体勢が崩れた所にそのまま盾を顔面に押し込む。


「ぶべっ!!」


 顔面から盾にぶち当たり、再び大きくふき飛ばされるネルギノ。立ち上がると今度は突進せず、ゆっくりとゲレロとの間合いを詰める。


「ガハハハッ、少し頭に血が昇ったみたいだ。けどなあ、てめえが相手しているのは5級でクランリーダーのネルギノ様だ。ここからはてめえらの思い通りに行かねえからな!」


 大きく深呼吸しながら、落ち着きを取り戻すネルギノをゲレロが呆れたように見る。


「これでも実力差が分かんねえのかあー」


 ぼやくゲレロは迫る突きを、盾で軽く受け流し、体勢の崩れたネルギノの太ももを槍で軽く突き刺す。


「痛え!くそが!てめえ!」


 喚きながらネルギノが素早くポーションを口にする。そしてそれをゲレロは冷静に観察し、色とその効果が秘薬と全く違う事を確認する。


 うーん。『秘薬』使えば確定で良かったんだが、使わねえな。もしかしてもうちょい、痛めつけないと使わないのか?


 そう考えたゲレロは再びのネルギノの突きを受け流して、そのままネルギノの盾に体当たりして弾き飛ばす。だが、今度はネルギノは体勢を崩さず少し後ろに下がるだけだったが、その顔は驚きの表情だった。


「てめえ、さっきから俺の突きをポンポン受け流しやがって!しかもその安物の盾に傷一つつかねえとはどんな手品だ!」


 そのネルギノの言葉にゲレロは初めて驚いた顔を見せた。


「いやー。やっぱり腐っても5級、バレるか。だから高い金出したんだけど、あの盾溶かされちまったからなあ」

「ああ?何言ってやがる?」

「いや、こっちの話だ。お前の言う通りこいつは10万で買った安物だ。けどな、やりようによっちゃあ・・・」


 そう言ったゲレロはネルギノの突きを、今度は受け流さず真正面から受け止める。ネルギノの全力の突きならこの程度の盾なら貫けるはずだった。


 だが・・・『ガキン』という音とともに逆にネルギノの槍が弾き返され、大きく体勢を崩したところにゲレロの槍がその腹に突き刺さる。


「こういう事も出来るんだ」

「ああ!?な、何でこうも簡単に・・・・」


 その疑問に答えることなくゲレロは後ろに下がる。ネルギノから見れば理解不能な行動だ。ただ、そんな事は後から考えればいい。ネルギノは懐から上級ポーションを取り出し、回復しようと動くが、取り出した上級ポーションを持つ手にゲレロの槍が突き刺さる。


「これでも出さねえのか?やっぱり外れか?」


 腕を貫かれて憤怒の表情で睨むネルギノを気にする事もなく、ゲレロは心底呆れた顔をしている。そこに部下の二人が戻ってきた。その二人の姿にネルギノは驚いて周りを見渡すと既に二人が相手していた6人は地面に倒れピクリとも動かない。


「小隊長。終わりました」

「班長と互角とは。あいつ強いですね」


 2人に言われてゲレロが目を向ければ班長がまださっきの奴と戦っていた。


「一人は班長の手伝いに行け。もう一人は馬車を調べろ」


 ゲレロの指示に従い、2人がその場を離れるのをネルギノは呆然と眺めていた。


「な!な!何なんだ!てめえら!お前はコーバスって田舎の4級だろ!そんであそこで戦っている奴はクランに所属も出来ねえ雑魚3級だ!他二人は組合員でもねえ!お前ら一体何者だ!」


 そして我に返ったネルギノが喚くが、ゲレロは何も答えず、槍を構えたまま、ネルギノを観察している。


「小隊長。多分外れです。馬車の中には薬中のガキしかいません」


 何となく外れだろうなと思っていたゲレロは大きくため息を吐く。ただ、まだわずかな可能性に賭けてみる事にした。


「なあ、お前ら『ドルーフおじさん』の仲間か?」


 その言葉を聞いてネルギノはニヤリと笑った。『ドルーフおじさん』が出た後、コーバスにはそれ目当てでかなりの数のスパイが潜り込んだと聞いた。恐らくこいつらがそのスパイ。それなら知っている風な態度を見せれば、情報を調べる為にまだ殺されない、そこから逆転の方法を考える!とネルギノは考えた。


「さあ、どうだろうな?・・・・ゴッ!!」


 そう答えた直後、ゲレロの槍で顔面を貫かれネルギノは沈黙した。


「あーあ、小隊長何で殺したんですか?」


 馬車を調べている部下がそれを見て、咎めるように聞いてくる。


「今の顔知っていると思うか?」

「いえ、全然」

「だろ?話すだけ時間の無駄だ。それより何か出たか?」

「全くです。多分こいつら、人攫いに雇われているだけじゃないですか?」

 

 部下からの報告を聞きながら、ネルギノを漁っていたゲレロは自分の判断が間違っていたと確信し項垂れる。


「こいつらも怪しいもの何も持ってないですね」

「先輩、すみません。手こずりました」


 残りの部下2人もようやく手ごわい敵を倒し、こちらを手伝うが、結果は芳しくない。


「じゃあ、もういい、これ以上は無駄だ。切り上げるぞ。・・・っとその前に気になる事はあったか?」

「先輩、俺が相手にしていた強い奴ですけど、多分ネルギノより強かったです。こいつ普段はネルギノ達の影に隠れて目立たない4級って印象でしたが、俺らの『盾強化』も知っている風でしたし、こいつどこかのスパイかもしれません。たいしたものも持ってませんし、流石に『ドルーフおじさん』の仲間じゃないとは思いますが・・・」

「スパイだったら面倒だな。バレる前にずらかる・・・・」


 言い終える前にこちらに近づく気配に気づき、ゲレロ達は武器を構えて警戒する。そこに姿を現したのは街を見張っているはずのゲレロ達の仲間の一人だった。大まかな位置が分かる魔道具を各自がハスリアから支給され持っている為、それで居場所を突き止めたんだろう。


「良かった。思ったより早く見つかった」

「おい、どうした?お前街の見張り担当だろ?」


 尋ねるゲレロだったが、こいつがここに来ている時点で何となく予想はついた。


「小隊長。悪い報告が二つあります」

「だああああ。やっぱりそうか。言ってみろ」

「まずはここを離れましょう。怪しい連中が近くにいます」

「それって『ドルーフおじさん』の仲間・・・なわけねえか。どっちかというと人攫いの仲間かそれを追っている連中だな。よし、分かった、各自ばらけて王都に戻れ」


 ゲレロのその言葉に誰も疑問を口にする事なく、その場を動き出す。ゲレロには先ほどの街の見張りがついて、続きを報告するが、その報告を聞いたゲレロは足を止める。


「ベイルが逃げた?嘘だろ?あいつ手枷嵌められてんだぞ。ぶっ壊れた鍵も見たし修理は遅くても明日までかかるって聞いているぞ」

「そ、それが手枷をぶっ壊して逃げたと報告が・・・」

「はあ??それこそねえよ!俺も見たけど、あの手枷と鎖は人の力でどうにかできるもんじゃねえ」

「なんか手枷の鍵の部分がかなり錆びついていたみたいで、そこを強引にと・・・」

「この国は王都でもそんな杜撰な管理してんのか?牢屋って普通管理徹底するもんだろ?」

「すみません。詳しい事は何とも・・・ただ、カルガーが眼の前にいたそうなので、詳しい話は小隊長から聞いてもらえませんか?」

「分かった。後でカルガー捕まえて聞いておく。問題はベイルだ!あの馬鹿にまた俺ら騙されたのか!信じられねえ!」


 怒りのあまりその辺の木を殴りつけるゲレロに、仲間が震える。ゲレロがここまで怒る事はないからだ。どちらかというと怒るのは隊長のクワロで、それを宥めるのがゲレロの役割だ。


「小隊長、そんなに怪しいならそのベイルを、とっとと捕まえて拷問でもして吐かせておけば良かったんじゃないですか?」

「馬鹿野郎!相手はオーガキングの拘束から抜け出せる奴だ。こっちが無傷じゃすまねえ。それにもし『ドルーフおじさん』の仲間だったら、竜を二発で殺す『令嬢』が敵になる。そいつは回避してえ」

「でも、『ドルーフおじさん』の仲間の可能性があったネルギノは狙いましたよね?」

「それはあいつらが俺を狙っていたからだ。何もしてねえベイルなら向こうもキレるだろうが、狙われたから返り討ちにしたってんなら、まだ何とかなると思ってな。結果的にネルギノ達は関係なかったから良かったけどな」


 それ何ともならなかったら、小隊長達全滅してたんじゃあ。相変わらず作戦の立て方が雑だなあ・・・と思ったが、豪快に笑うゲレロを見て、その言葉を口にする事はなかった。

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