131.王都へ
あれからどれぐらい経ったか。ようやく『華開く』の連中が3級に上がったので、王都に向かう事になった。ちなみに『華開く』の級落ちは組合長だけの判断だった為、公式には級落ちした事になってなく、印証はキレイな状態に戻っている。
「決して!絶対に!問題起こさないで下さいね!」
王都に向かう日、何故かリリーや組合長が見送りにきてくれたんだけど、リリーからすげえ注意される俺。そんなに心配しなくても大丈夫だっての。
「俺の事より俺がいない組合の事考えた方がいいんじゃね?真面目が取柄の俺がしばらく街を離れるんだ。依頼が溜まるばっかりになるぜ」
「それはありません。むしろ組合もいつもより落ち着くかと思います」
うん?どういう意味?
「それでは出発しますよ」
『華開く』のルストが出発の合図を出すと、全員が動き出す。今回は『華開く』は王都に帰るから当然として、『蜂蟻撤退』と『転がった剣』も一緒だ。こいつらはルスト達に誘われて王都に移籍するらしい。ただ、『蜂蟻撤退』のミルシーって女だけはコーバスに残るらしく、今はシリトラのパーティに仮加入って状態だ。
そしてこいつらに加えて、ゲレロ、トレオン、モレリア、シリトラがついてきて、中々の大所帯だ。まあ、それも初日だけだ、翌日からは各パーティ単位で移動する事になっている。何でか?そりゃあ、前の日に酒飲み過ぎたり、娼館行ったりで、出発が遅い奴らがいるからだよ。
ジロウ達?あいつらは連れて行かねえ。連れてくと目立って貴族に絡まれるかもしれねえからな。カルガーの要望?そんなん知らねえよ。会いたきゃてめえで来いってんだ。それにジロウ達はコーバス周辺の街道の見回りって大事な仕事があるんだよ。
■
初日だけは全員で移動だから、今は『華開く』の荷馬車に乗せてもらっているんだが、ただ乗っているだけってのも暇だなあ。
「ふあーあ、暇だなあ。やっぱり行くのやめるか」
暇すぎていい加減、帰りたくなってきたぞ。
「早くないですか?まだ出発して鐘二つも経ってないですよ」
「だって暇なんだよ。ルストは楽しそうだな?」
「そりゃあ、胸張ってアーリットさん達の所に戻れるんですもん。嬉しいに決まってます」
そんなもんかねえ?アーリットって頭お花畑過ぎて、あいつの何がそんなにいいか、俺には理解できねえ。
「聞いた所で理解できねえから言わなくていいぞ。それよりもクタイッシュ、暇だから王都の事について話せ」
「うっす」
最初は生意気な態度だったクタイッシュ君も、コーバスで揉まれ今は従順に躾けられ、今じゃカルガーみたいに「うっす、うっす」言っている。ルスト達曰く、王都の連中が今のクタイッシュの姿を見ても同じ奴だと信じられないだろうだって。
「王都は人が多くてデカいっす。売っている物も質や量がコーバスとは段違いっす」
「馬鹿野郎、そんな事言われなくても知ってんだよ!王都の組合について教えろ」
「組合っすか。王都の組合は今は、『黒の鳥』、『紅蓮の盾』、『深緑翼』、『地を這う大黄』の4つのクランと、それに所属していないアーリットさん達の勢力の5つに別れているっす」
なんかどいつもこいつも厨二病みたいな名前つけてんな。その時の状況や、目標みたいな感じで名付けするって話じゃねえのか?
「どれもカッコいい(笑)名前じゃねえか。お前らの『華開く』や『転がった剣』みたいな名前と全然違うな」
「そもそも結成する時の状況が全然違うっすから。パーティはまだ実力も無い頃に組むから、そういう名付けになるっすけど、クランはある程度実績のあるパーティが立ち上げるものっすから」
聞けば、『紅蓮の盾』は赤竜を討伐したパーティが、『深緑翼』は緑竜、『地を這う大黄』は、すげえでけえ黄色の蛇を討伐、って具合にそこら辺から名付けて立ち上げたクランらしい。
「それで『黒の鳥』は飛竜の群れを撃退したパーティ『思慮深く』が、立ち上げたクランっす。この『思慮深く』はコーバスの組合長が、現役の時に立ち上げたクラン名だったんですが、クラン解散時に残ったメンバーでパーティを組んで、この名前を名乗るようになったっす。そこからどんどん大きくなってクラン『黒の鳥』を立ち上げたって流れっす。だから『思慮深く』のメンバーはコーバスの組合長を慕っているっす。それもあってアーリットさん達とも仲がいいっすね」
組合長を慕っているねえ。慕っているっていうより組合長なら暴力で従えているの間違いじゃねえの?
「それで王都で気を付けないといけないのが、クランメンバーと揉める事っす。揉めるとそのクラン所属全員を敵に回すから、なるべく関わらないようにするっす。各クランはそれぞれ決められた色を、分かり易い場所に身に着けているっすからすぐに分かると思うっす」
「王都は相変わらずだねえ」
隣に座るモレリアがクタイッシュの話を聞いてぼやいている。聞けば、モレリアがいた頃から王都の組合ってのはそうだったらしい。各クラン同士ライバル視して、組合の中もギスギスして、楽しく酒を飲める雰囲気じゃなかったそうだ。そしてクランに所属していないモレリア達は、依頼を受けれるのが、クラン連中の確認が終わった後、要するに昼まで残ったカス依頼しか受けられない状況だったそうだ。
「今も同じっす。クラン同士の取り決めで、最初に確認出来るクランは日替わりで決まっているっす。アーリットさん達は残った依頼の中から受けるしかなかったっすけど、タロウのおかげで、結構貴族からの指名依頼があったので、やっていけてるっす。それにアーリットさん達、王都来た時には既に『サファガリア家』と専属契約していたから、それも良かったみたいっす」
「専属契約って何だ?」
聞いたような聞いた事ないような。覚えてねえって事は俺には関係ねえ話なんだろうな。
「指名依頼する時は必ずその『サファガリア家』の許可がいるっす。だから敵対する貴族や商人はアーリットさん達への指名依頼が通る事はないっす」
「ああ?それってアーリット達に何のメリットねえよな?来るはずの依頼を勝手に断られているんだろ?」
「貴族の後ろ盾が出来るっすから、何かトラブルがあれば『サファガリア家』が仲裁に入ってくれるっす。しかも『サファガリア家』は伯爵家っすからねえ、大抵の貴族や商人は大人しく引くっす。王都で実績を積んで、名前が知られるようになってようやく、男爵家や子爵家と契約するのが普通なんすけど、最初から伯爵家はびっくりしたっす」
って事はアーリット達貴族と既に繋がってんのか?エフィルの奴、俺に貴族を紹介とかしてこねえだろうな。
「後、細かい所は違うっすけど、専属契約していると毎月給金が貰えるっすね。その代わり『サファガリア家』からの依頼は優先しないと駄目っすけど」
やっぱり専属契約はねえな。俺は好きな時に好きな依頼受けて、ダラダラ過ごすのが好きなんだ。そういう話がもし来たら、速攻で断ろう。
「ベイルには絶対来ないから、安心していいよ」
「俺、まだ何も言ってねえだろ!勝手に人の心を読むんじゃねえよ!」
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「話を戻すっすけど、王都じゃ絡まれても無視して下さい。黒以外の色は特に注意っす。『黒の鳥』主要メンバーはまだ話を聞いてくれるからマシっすけど、他の3つは話聞いてくれないっすからね!」
「分かってるっての。リリーともちゃんと約束したから喧嘩なんてしねえよ。俺は他所の街じゃマジで大人しいんだぜ!」
「・・・・・」
お?何だクタイッシュ、そのジト目は?言いたい事あるなら言ってみろ?殴りつけてやるから!
「後は特にベイルさんは街道は気を付けた方がいいっすよ。流石に王都周辺の道は貴族の馬車が結構通るっすから」
「お、お、おい。それは聞いてねえぞ。もし間違えてその馬車ぶん殴ったらどうしたらいい?」
「間違えても殴っちゃ駄目っすよ!馬車には貴族紋が大きく描いてるから見ただけで分かるっす。後は街道の端を歩いていれば、とやかく言われる事はないっす」
「そうは言っても、俺の内面から滲み出る魅力や、このイケメン顔が貴族の目に留まる可能性もあるだろ?」
「ねえよ!・・・いえ、ベイルさんが考えている以上に王都への街道は人が多いっすから、バレないと思いますよ」
そ、そうかあ?万が一ってあるかもしれねえだろ?
「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫だよ。僕に考えがある。なーに、僕も前は王都にいたんだ。貴族に絡まれない対策はバッチシだよ!」
そのデカい胸をドンと叩くモレリア。自信満々なんだけど、こいつのこの態度で碌な目に遭った事がねえんだよな。いや、でも他に手がねえから王都が近くなったらモレリアに任せるか。
そんで初日は特に問題もなく順調に進んだんだ。問題は翌日からだった。
「もう!今何時だと思っているんですか!この時間から出ても予定の半分も進まないじゃないですか!他のパーティとたった一日で半日以上の差をつけられるなんて何考えているんですか!」
「「「「・・・・・・」」」」
二日目の道中、シリトラからひたすら説教されながら、俺達は王都へ向かう。悪いのは俺達だってのはよく理解しているぜ。トレオンは朝から馬に行ったし、ゲレロは娼館に行ったきり帰ってこねえ。モレリアはずっと寝ている。俺は昨日飲み過ぎて二日酔いで朝は死んでたからな。
で、ようやく全員揃って出発したのが昼過ぎだ。二日目から各パーティ単位で動くように言っておいたから、『華開く』とか他の面子は朝早く出たらしい。別れて動くように言っておいて良かったぜ、流石に二日酔いで朝早くから動きたくねえもん。
ただ、出発したら出発したで、シリトラがずーっと文句ばっかり言ってやがる。こいつは朝から出発準備して待ってたらしいから、怒る気持ちも分かる。ただ、俺らは『何となく集まったらボチボチ出発しようや』ぐらいでしか時間決めてなかったんだ。
「だからってお昼過ぎるなんて思いませんよ!これで半日は無駄にしているんですよ!」
ってな具合に少しでも反論すると、そいつにヘイトが向いて延々と説教が続くので、今はみんなシリトラの説教を聞き流して足だけを進めている。
そうして翌日からも同じような事してシリトラがプリプリ怒っているが、みんな無視して足を進める日々だ。さすが王都に向かう街道なだけあって、道中は特に大きな出来事も無く、順調に進み、いよいよ王都が見えてきた。
「おお!アレが王都か。でけえな」
王都が一望できる観光名所っぽくなっている高台に立ち寄り、足元に広がる王都を眺める。ここから見ると、王都は壁で丸く囲まれていて、時計の12の数字の所に城が立っていて、3、6、9の所に道が繋がっているから、そこに門があるんだろう。そして3から9を結んだ、ちょい上辺りに塀が立てられているので、街が上下に分けられているのが分かる。
「ほら、城から一番遠い外壁の入り口見えるかい?平民の僕らが通れるのはあそこだけだ。両脇の門は貴族専用だからね。あの辺近づかない方がいいよ」
って事はあそこ出入りするのは貴族だけって事か。絶対近寄らねえ。
「それで街が二つに分けられているだろ。城側は当たり前だけど貴族街・・・王都だと上級街って呼ばれている場所だね。あそこに入るのは貴族からの紹介状が無いと入れないからね。許可なく入れば処刑だよ」
その辺は故郷で俺もよく知っているぜ。ただ、故郷じゃ貴族街を見てただけで処刑された奴もいたから、まだこの国の方がマシかな。
「なあ、モレリア。中級街ってのはどこにあるんだ?」
確か3つに別れているって聞いたけど、ここからだと二つに分けられているようにしか見えない。
「ああ、それはねえ。両脇の道から少しこっち側に目を向けてごらん。明らかに建物がしょぼくなっている境界があるでしょ?そこをよく見ると、鉄柵が建っているよ」
おお!マジだ!。本当に少しだけ視線を下げると、明らかに豪華な一軒家として建てられた建物と、継ぎはぎで増築された建物とキレイに分かれている。そしてモレリアのいう通りその境界をよく見れば鉄柵できれいに分断されている。
へえー。こうやって3つに分けられてるのか。こうやってみれば、城もあるから当然だけど、貴族が街の半分近くの土地を押さえているんだな。そんで中級街も結構な広さがある。そして俺ら平民が暮らす場所は・・・多分人数は一番多いのに土地は一番狭い。
それでも王都は十分でかい。下級街だけでコーバスが何個入るか分かんねえ。そんな下級街への入口は当たり前だけど、大行列が連なっている。コーバスだったら組合員は解体場経由で街に入れるんだけど、流石に王都は人が多くて管理しきれねえってんで、王都所属以外の俺らみたいな組合員は門から入らないと駄目みたいだ。
ちらりと見たが解体場の入り口も行列が出来ているから、どっちが早いかは微妙な所だ。
「おいおい、何だあのでけえ魔物?」
ゲレロも解体場に並んでいる奴らに気づいたんだろう。その中でひときわデカい灰色の蜥蜴の魔物の死体に驚いている。
「ありゃあ、大岩蜥蜴だな。岩山に生息している単体なら4級相当の魔物だ。群れてるからクランで対応する魔物だな。あれを倒したのは黄色の布巻いているから『地を這う大黄』のとこだな」
トレオンは意外に物知りなんだよなあ。コーバスじゃ見た事ねえ魔物だってのに何で知ってんだろ。
「おお、レッドウルフとその眷属達。やはり王都は大物が簡単に見れますね」
今度はゲレロの肩に立っているシリトラだ。ちっちゃいタロウみたいなのとジロウ達みたいなウルフが荷車に積まれて順番待ちしているのが見えたんだろう。
タロウやジロウを見慣れたからすげえ小さく見えるな。あれでも4級相当じゃなかったか?
「なあ、王都って周りにこんな大物の魔物ばっかりでるのか?兵士とか騎士は何してんだ?」
「王都周りは雑魚しかいないよ。ああいう大物は各街からの救援要請で討伐した魔物たちだよ。国中からの救援が王都に来るからね。コーバスみたいな街で大物待つよりも王都にいた方がよっぽど討伐するチャンスに巡り合えるんだ」
ああ、何かそんな事聞いた気がする。だから王都育ちの3級はゴミカスで、4級以上は大物と何度もやりあっているからかなり強いって。確かに『華開く』はコーバス来た時は3級の実力じゃなかったしな。
「それにはクランに所属するのがいいんだけど、結局クラン内でも依頼を勝手に振られるから、やりたい魔物と戦える訳じゃないんだ」
うわー。クラン所属しても全然楽しくなさそう。俺は安定のフリー依頼でマイペースにやる方がいいぜ。
「そう言えばフリー依頼ってねえのか?」
「あるけど、王都周辺は出ても2級相当の魔物だからねえ。それに出たら取り合いになるぐらいだから稼げないよ。そっちよりも護衛依頼の方が稼げるよ」
そんなつもりは元々ねえけど、やっぱり王都で組合員ってのは無しだな。護衛依頼も依頼主に当たり外れがあるからな。外れの場合は依頼主ぶん殴るから、護衛依頼との相性があんまり良くねえんだ。
「お前ら話は終わったか?それじゃあ、並んで王都に入るぞ」
ここでずっと王都眺めていても仕方ねえから、トレオンの指示に従い、俺らも列に並ぶために動き出す。
「そう言えば、あの並びに貴族はいねえかもしれねえけど、貴族の使用人はいるかもしれねえだろ?そいつらに俺から溢れ出る魅力がバレたらどうしよう?」
「・・・・・魅力?ベイルに?」
「ねえよ!」
「お前から溢れんのは底意地の悪さだけだ!」
「そうだった!僕に考えがあるって言ったでしょ!任せてよ!」
ふざけた事言ったトレオンをぶん殴ろうとしたが、モレリアが俺の腕を掴んで楽しそうに割って入ってきたから気が削がれた。トレオンの奴、運が良かったな。
「そう言えば、出発した時そんな事言ってたな。そんじゃあ、王都に詳しいモレリア先生にお任せするか」
「ふふーん!僕に任せておいてよ。ベイルから溢れる魅力を覆い隠して、列に並んでいる人みんなからの視線を逸らしてあげるよ!!」
おお!自信満々だな。出発した時は少し悪い予感がしたが、王都のこの人の多さ見たら、王都に詳しいモレリアに任せた方がマジでよさそうだ。
頼んだぜ!モレリア!!
・・・・・・
「大人しくしていろよ!明日組合の確認がとれたら、ちゃんと出してやる!俺たちの手を煩わせたら、ぶち込まれる期間が延びるからな!」
いやあ、王都に着いて早々牢屋にぶち込まれちまったぜ。




