130.卑怯馬鹿からの届け物②
いやああ。エフィルの奴、ウイスキー送ってくるなんてマジで気が利くじゃねえか。ハイボールが飲みてえけど、炭酸ねえし、氷もないから、ストレートでチビチビ飲んでるんだけど、やっぱりウイスキー美味いわ。エールと違ってアルコール度数が高いから喉にガツンときやがる。
そうしてエフィルからの酒を楽しみながら、訳分からん文章の手紙を読んだんだが、読めば読むほど意味がわかんねえ。手紙の大部分を書いたのはカルガーだってのは分かった。そんでタロウが王都でも元気にしているって事もだ。ただ、ジロウ達については、何が聞きてえんだ?ってぐらいすげえ分かりにくく書かれている。そんで多分、王都でレッサーウルフ3匹仲間にしたんだろうなって事は分かった。こっちは事前に知ってなかったら、訳分かんなかったと思う。
そんで訳分かんねえ事書いているカルガーの手紙を、理解する事は諦めて読み飛ばすと、今度はアーリットから書かれていた。こっちは簡単で、王都に来たらウイスキー奢りますよって内容だった。かなり魅力的な誘いだが、流石に王都はねえなって思ったんだ。
だが、最後の一文で俺の心がかなり揺れ動いた。
だって女神から『おいで』だぜ!正直かなり悩んでる。貴族の巣の王都には行きたくねえ気持ちもあるが、女神の啓示だ。すげえ悩む所だ。
ウイスキーを飲みながら、どうしようか悩んでいると、外が騒がしくなった。
「モレリア!駄目です!今は組合が毒煙で満たされています!近づいてはいけません!」
「うーん?でもベイルがいるんでしょ?多分大丈夫だよ」
「ベイルは逃げ遅れてもう駄目だ」
「モレリア!信じられねえかもしれねえが、ベイルはもう死んだ」
「あいつの悪運もついに尽きたんだ」
「弟子の罠に嵌まって死ぬなんて、あいつらしい無様な最後じゃねえか」
「笑えるぜ」
死んでねえよ。あいつら人を勝手に殺すんじゃねえ。そんで最後のは誰だ?後でぶん殴ってやる。
「もう、みんな心配し過ぎだよ。大丈夫、大丈夫」
「モレリアあああ!!!!」
多分モレリアが、止めている連中を振り切って組合に歩いてきたんだろう。そんなモレリアを心配したシリトラの絶叫が聞こえる。組合内は煙でモクモクしているけど、別に死ぬことねえんだけどな
しばらく待っていると、組合内に足音が響き、煙の中からモレリアが姿を現した。
「やあ、ベイル。おはよう」
「よお、モレリア。お前今起きたのか?」
煙でモクモクとなっている組合内で、いつも通りの挨拶を交わす。
「この騒ぎは一体何だい?まーたベイルが何かやらかしたの?」
「俺じゃねえよ、文句があるならエフィルに言え。俺は勝手に巻き込まれただけだ」
「ふーん。よくわかんないけど、どうでもいいや。それよりも何を飲んでいるんだい?」
「これか?エフィルからの贈り物だ。飲んで見ろ」
そう言って俺がラッパで飲んでいた瓶をモレリアに渡す。間接キスだとかガキみてえな事、組合員なら言わねえ。依頼中は性別捨てねえと死ぬから、用を足す時に性別関係なく見張りを頼んだりするぐらいだ。水の回し飲みなんてしょっちゅうやってるしな。
俺から渡された瓶に躊躇いなく口をつけて中身を飲むと、かならり驚いたのかモレリアは目を見開いた。
「・・・うわ!何これ!酒精すごい強くない?」
「こいつは多分『ウイスキー』って奴だ。俺も初めて飲んだが、王都じゃこういうもんも出回ってんだな」
「ああ。あれか。僕らが王都にいた時に話題にはなったよ。その時は貴族しか出回らない酒って話だったけど、ようやく平民にも回るようになったんだね」
感心しているモレリアから瓶を返してもらおうとしたが・・・こいつ離さねえ。いや、明確に引っ張ってるからその意図は伝わっているはずなんだけど、何でこいつ離してくれねえの?
「ベイルは何か困りごとでもないかい?」
「ねえよ!さっさと酒返せ・・・・いや、ちょっと困った事あったな」
頑なに渡そうとしないモレリアがワザとらしく聞いてきた
そう言えばカルガーの手紙を、解読出来てねえ事に気づいたので、こいつに解読を頼んでみる事にするか。
「カルガーからこれが届いた。何が言いてえのか全然分かんねえ。要約してくれたらその酒はやるよ」
「了解!どれどれ・・・・うーん。『タロウは元気。新しくレッサーウルフ3匹仲間にした。ジロウ達に会いたいから連れてきて』って書いてあるかな?」
「うっそだろ!要約するとそんなもんなの?手紙5枚はあるよな?」
「大抵はどうでも良い内容だから・・・これが貴族の手紙だよ?」
マジか、貴族連中馬鹿なんじゃねえの?用件だけ書けば一枚で十分だぞ。
「お!こっちはアーリット達から。へえー。王都に来たらこのお酒奢るって中々そそる話じゃないか。ベイルも王都に行きたくなったんじゃないかい?」
「いや、流石に魅力的だが、それで王都にはちょっとな。ただ、その次の手紙で少し悩んでいるんだ」
「次の手紙・・・・・このエルの『おいで』って書いてあるの?」
「そうそう、それ!女神からの天啓だぜ、流石に俺のわがままで行きたくないって断るのはまずいだろ。けど王都には行きたくねえ、だからどうしようか悩んで・・・うお??!!!」
最後まで言い終わる前に何故かモレリアが頭を蹴り飛ばそうとしてきたので慌ててガードする。こいついきなり何しやがるんだ。
「てめえ!いきなり何してきやがる!!」
「ふーん。エルの言葉ならいう事聞くんだ」
「ああ?当たり前だろ、女神の言葉だぞ!・・・っと危ねえ!!」
俺が答えると同時にまーたモレリアが蹴りを放ってくる。マジでこいつ何なの?喧嘩売ってんのか?
「じゃあ、僕が王都に誘ったらベイルはついてきてくれるかい?」
「ああ?行く訳ねえだろ・・・とおおお!!!おい!馬鹿!やめろ!・・・・・ガハッ!!!」
俺の答えの何が逆鱗に触れたが知らねえが、モレリアが連続で蹴りを放ってきたので、慌ててガードするが、思っていた以上にウイスキーで酔いが回っていた俺は、反応が遅れて組合の外まで蹴り飛ばされた。
「うお??」
「ベイル?死んでなかったのか?」
いきなり組合から飛び出してきて地面に転がってきた俺に外で待っていた連中が驚く。
「げほ!がは!・・・・し、死んでねえよ」
「じゃあ、何で組合から飛び出してきたんだ?」
「モレリアだ!し、シリトラ。頼む。モレリアを止めてくれ。あいつよく分かんねえがブチ切れてる」
ガチギレモレリアを安定して止められるシリトラに、俺は息も絶え絶えお願いしていると、煙にまみれた組合の中からヒーローの如くゆっくりと姿を現すモレリア。
「モレリア!無事でしたか?」
「無事じゃないよ。僕の心は傷だらけだよ。シリトラちょっと邪魔」
そう言ってモレリアは、立ちはだかるシリトラに容赦なく蹴りを放ってくるが、それをシリトラは軽く受け止めて、その足を捻じるように空を飛ぶ。ドランゴンスクリューって奴だな。そこをモレリアは自分から回転するように飛びながら、空いた足でシリトラに攻撃する。それをシリトラは片手で軽くあしらう。地面に落ちるまでに、なんか凄え攻防を2人で繰り広げている・・・・こいつら魔法使いだよな?
そんで気付いたらシリトラが馬乗りになって、モレリアの両耳をがっしり掴んでいた。
「イタタタ!!!シリトラ痛いよ!!」
「落ち着きましたか?うん?あなたお酒臭いですけど、もしかしてもう飲んでいるんですか?」
「・・・・・・・昨日のお酒が残っているんだよ」
「シリトラ!嘘だぞ!モレリアの奴、今までがっつり飲んでたぞ!」
「ちょ!ベイルううう!!」
「モレリア!あなた朝からお酒飲まないって約束しましたよね?何で約束破るんですか!!」
「痛い!痛い!千切れちゃう!僕の耳が千切れちゃうよおお!」
うわー。シリトラ母ちゃん怖えな。モレリアが涙目になるの久しぶりに見た。
■
「ベイル、流石に今回はやり過ぎだぞ!」
「俺ら依頼に行けなくなったんだから、その分補償しろよ」
「ああ?何だこの手紙何て書いてんだ?」
「相変わらずカルガーはよく分かんねえ手紙書くな。クワロ読んでくれ」
「ちょ!お前らこの酒ヤベエぞ!飲んで見ろ」
「ああ?こんな色して酒なのか?うお!何だこれ!喉にガッてくるぞ!」
さっきの騒ぎは全部エフィルのせいなのに、何故か組合で一つ目・・・・今は二つ目か・・・オーガの前で正座させられて説教くらってるんだ。煙はシリトラが風魔法で吹きとばしてくれた。そこに馬鹿どもが寄ってきて勝手にエフィルの荷物を漁って騒いでやがる。
「お前ら勝手に酒飲むんじゃねえ!それは俺のだぞ!!」
「お前の名前どこにも書いてねえから、これは誰かの落とし物になるだろ。って事でみんな分けて飲むぞ」
「「「「いえええええい!!!」」」」
「アウグ!てめえふざけんな!ぶっ飛ばすぞ」
ふざけた事言うアウグに殴りかかる為に立ち上がろうとしたが、組合長のゲンコツが頭に振り下ろされる。
「まだ話は終わってねえよ。座ってろ!」
「おおおおお!!!いってえええ!俺がこれ以上馬鹿になったらどうするんですか!!」
「お前は既に底にいるから、これ以上馬鹿にならねえ。安心しろ」
酷くねえ?リリーも何でうんうん頷いてんだ?
「うーん。手紙は王都に来てほしいって内容ですね」
「本当か?シリトラ、見せて見ろ」
そう言ってシリトラから手紙を受け取って読み始める組合長。読み終わると大きくため息を吐く。
「お前の何がそんなに魅力なのか分かんねえが、慕われてるじゃねえか」
「そりゃあ、魅力の塊みたいな男っすからね。俺は!」
「うん?って事は王都に行くのか?」
「いやー。さっきまで全く行く気なかったんですけど、エルからお願いされたから、すげえ悩んでいる所なんですよ」
「お前は何でエルメトラのいう事には従順なんだ?悩むってどうせ理由は貴族だろ?言っておくが俺も王都にいた時に下級街に貴族が来たって話は聞いた事ねえ。用があれば、こっちの都合関係なく呼び出されるからな」
聞いていた話と同じだな。やっぱりそんなに貴族って出会わねえのか?
「そもそもベイルはこの街で貴族見た事あんのか?」
「『嬢ちゃん貴族』が来た時が初めてかな?」
「その呼び方はどうなんだ?まあ、誰の事か分かるけどよ。あの時は『令嬢』騒ぎだから仕方ねえ。それに事前に連絡もあったからな。それ以外だと見た事ねえだろ」
そう言えば無いなあ。もしかして俺って貴族にビビりすぎ?故郷じゃ、しょっちゅう貴族が街に来て、やりたい放題してたけどなあ。この街じゃ全く見ねえ。
「お前が王都に行くってんなら一つ依頼を頼みたい」
「なんすか?」
「今回の騒動、お前の話が本当ならエフィルに説教しねえとダメだ。だからお前が王都に行ってエフィル連れてくるか、代わりにベイルが説教するかの依頼だ」
おお!俺も今回の件で、あの馬鹿に文句の一つも言いたかった所だ、組合長のその提案はすげえ魅力的だ。ただ、やっぱり不安は残る。
「本当に王都で貴族に絡まれないんでしょうね?」
かなり心が傾いているが、まだ少し心配だ。
「何かあれば王都の組合長を頼れ。あそこの爺さんは王様以外の要求を突っぱねる事が出来るぐらい権力があるからな。俺も良く知っているから手紙書いてやるよ」
王都の組合長何者だよ。王様の弟とかすげえ偉い貴族とかじゃねえよな?
「そんなに警戒すんな、爺さんはただの平民だ。現役時代に貴族相手にかなりやんちゃしたから、貴族からも恐れられているだけだ」
王都の組合長は何したんだよ!
ただ、ウチのオーガは嘘言う人じゃねえから、それなら大丈夫か。色々不安要素はあるけど、タロウにも会いたいし、ウイスキーを樽で持って帰りてえ。後はエフィルに文句言いたいし、何より女神の指示だしな。何かあれば逃げだせばいいか。
「仕方ねえ、王都に行ってみるか。ゲレロ!トレオン!モレリア!貴族が出たら俺を守れよ!!」
「お前俺達を何だと思ってんだ?お前の部下じゃねえんだぞ!守る訳・・・・・」
「いや、いいぞベイル、ゲレロがしっかり守ってやる」
何でクワロがそんな事言う?俺何かした?そんでゲレロの口を力強く押さえすぎだろ。苦しそうだぞ?
「僕も構わないよ。貴族なんて蹴散らしてあげるよ」
いや、モレリアさんよお、流石にそれしたら俺まで巻き込まれない?
「そんな心配しなくても大丈夫です。私もついていきますから」
何でシリトラが?いや、来てくれた方がモレリアが大人しくなるから有難いんだけど。お前のパーティはその間どうするの?
「王都に行く日が決まったら教えろ。それに合わせて依頼だしてやる。旅費込みの依頼だ。金の心配はいらねえぞ」
おお!ラッキー!これなら、また道中の美味いものでも食べ歩きして、王都でも美味い飯と酒を堪能しよう。どうせアーリット達の奢りだしな。ハハハハハ!




