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影の記  作者: 水鳥川 陸
第六章 真の強さ
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第十二話

了祐と刹那の戦いは、一進一退を続けていた。


「やはりしぶといな。借り物の体でそこまで動くとは、さすが”影”だ」


それは刹那も同じことだ、と了祐は思う。

高熱、そして失われた視力。

術の反動は今もなお続いているらしいが、それを全く感じさせない。


「しかし、そろそろお前らに付き合う時間も惜しくなってきた。俺の時間も、そう多くは残されて無いからな」

「そのままお前に返す。俺は一刻も早く晃を元に戻したい」

「・・・やはりお前は絶対に俺には勝てない。お前は無駄に守るものを持っているが、俺には守らねばならないものは何もない。この差は圧倒的だ」

「・・・」

「分からぬか?ならば教えてやろう。例えば・・・そうだな、こういうことだ」


刹那の姿が目の前で消えた。


「了祐!」


直後に背後で聞こえた声に、息を呑む。


「蒼介、来るな!」


了祐が駆け寄るよりも早く、刹那が至近距離から叩きつけたクナイが蒼介の胸に深々と突き刺さる。

呆然とした表情で倒れる蒼介の姿が、記憶と重なる。

あの日、了祐の目の前で同じように失われた命-。


「蒼介!・・・”楓”・・・!!」


刹那がこちらを振り返って笑った。

動揺した了祐の手から、刀が滑り落ちそうになる。


『了祐、違う!目を覚ませ・・・蒼介さんはいない』

「・・・?!」


鮮明に響いた晃の声に我に返る。

改めて見れば、蒼介の姿はどこにもない。

そして辺りに極微かに漂う甘い香り。

幻覚を見せられていたのだと漸く気づく。

それは、了祐の中にいる晃までは届かない。

だから、刹那の仕掛けた術に気づくことが出来た。


「よく見破ったな。・・・だが遅い」


了祐の一瞬の隙を、刹那が見逃すはずが無かった。

頭上から反動をつけて振り下ろされた小太刀。

防御が間に合わない-。


その瞬間、了祐は強く突き飛ばされた。


『了祐!』


直前と同じように見える景色。

だが、斬られた痛みが一切無い。

それでは、目の前に広がるこの血は何だ。

この着物の色は、何だ。



「・・・っ」

『晃!・・・晃っ!!』


真っ向から刹那の小太刀を受けた晃は、地に片膝をついた。

左肩から一直線に斬り下げられた傷から血が溢れる。


自分が出られるかどうかは晃次第だと分かっていた。

ならば逆も然りと、どうして考えなかったのか。

自分を中に引き戻すことも、晃には可能だと。


『晃っ!早く手当てを』

「俺は・・・大、丈夫。だから・・・お前は、絶対に、こいつから、聞き出せ。・・・殺しちゃ、駄目だ・・・」


「晃!!」


叫んだ声が、予想以上に辺りに響き、愕然とする。

視線を落とせば、自身の桔梗色の着物。

そして傷は、どこにも無い。


これは中じゃない。

今、表に出ているのは俺だ。

晃は、斬られる瞬間だけ表に出て、そしてまた自分を返したのだ-戦いの場へと。

必死で自分の内の気配を探ると、微かな気配を感じた。

あの傷では即死はしないはずだ。

けれど手当てが遅れれば、きっと死んでしまう。

どうすればいい。

早く、早く考えろ!


「・・・身を挺して”影”を庇ったか。むかつく奴だが自分の役割は心得ていたようだ。これでお前も心置きなく」


刹那の言葉は、これまでと段違いの速さの斬撃で途切れた。

速さだけでなく、その威力も先程までと全く違う。

小太刀では受け止めきれない。

身をかわすように真横に飛んだが、避け切れずに脚を切られた。


「許さない。お前は、絶対に許さない」


すぐさま向き直り、連続して刀を振るう。

刹那は防戦一方となった。

それでも、不敵な笑いは崩さない。


「・・・いい目になったな。さぁ、俺をどうしたい?」

「殺す。今すぐ殺して、術を解く。そして晃を医者の下に連れていく」

「それでいい。今のお前は俺と同じ、復讐者だ。怒りと憎しみこそが人を強くする」

「黙れ、時間が惜しい」

「先にも言ったが、今術が解ければ餓鬼は恐らく消えるぞ」

「嘘だ、お前は本当は何も分かってない。俺を動揺させるためのただのハッタリだ」

「・・・本当だったらどうする?」

「ならばお前を倒し、お前が死ぬまでの間に晃と替わる」

「それではお前が消えるぞ」

「望むところだ。・・・いい加減に黙れ!」


刹那も反撃を試みるが、途切れること無く続く了祐の斬撃には一切の隙が無い。

何とか距離をとりクナイを投げても、怯むことなく刹那に向かってくる。

避け切れぬクナイで負った傷にすら、全く意識が及んでいないようだった。


さすがは最強の犬だ。

俺はここで終わりか。

そう思うと、刹那は不思議と嬉しくなった。


反吐の出るような政府の奴らを相手にするよりも。

己が信じるもののために戦っていた、あの動乱の中の敵を相手に戦って死ぬ方が、ずっと気分がいい。

それならば、例え復讐が叶わなくてもいい。



その時、幾度もの斬撃に耐え切れず、小太刀が折れた。

咄嗟に了祐が刀を返し、柄で刹那の胸を突く。


「ぐ・・・」


呼吸が出来ず、刹那はその場に崩れた。

その首を狙って正確に、闇に鈍く光る刀が振り下ろされる。


「死ね」

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