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影の記  作者: 水鳥川 陸
第六章 真の強さ
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第八話

”網”から既に連絡を受けているのだろう。

蒼介と晃を見た赤井は、詳しいことは聞かなかった。

ただ、ご苦労だったと述べ、そして火事場の状況を教えてくれた。

現場では数名の遺体が発見されたこと。

その全ての遺体に傷の跡があり、火事の前に殺されていたと考えられること。

遺体の身元は確認中だが、恐らく華族であろうこと。

二条家は無事でも、そうじゃなかった人たちは確実にいる。

晃は項垂れて呟いた。


「また、防げなかった」

「下を向くな、前を向け。そんなんじゃ、見つかるもんもみつからねぇよ」

「・・・はい」



その後、晃は倒れるように眠った。

やはり相当疲れていたのだろう。

時間にすればそう長くなかったが、目覚めてみれば明らかに体の重さが先程とは違う。


ふと気づけば、小虎が小さく鳴きながら、晃の周りを回っていた。

東京に戻ってきてから、外へ出る際は基本的に赤井に小虎を預けている。

寂しいだろうが、いつ刹那と遭遇するか分からない以上、連れては行けなかった。

小虎が了祐との橋渡しをしてくれた頃が懐かしい。

小虎がいなければ、きっと今の自分はない。

了祐や蒼介に出会うことも、前に進むことも、きっと出来なかった。

小さく笑った晃は、小虎を抱き上げ、その体に顔をうずめた。


「ありがとうな、小虎」


その様子を見届けた上で、了祐が声を掛ける。


『・・・行けるか、晃』

「うん、行こう」


赤井に言われた通り、もう一度前を向く。

今度こそ、刹那を止めて見せる。


向かう先は、あの長屋。

あの付近まで目撃されているということは、きっとあそこには何かがある。


        ***


昼間の裏長屋通りは、夜と全く違った様相を見せていた。

店屋が並ぶ表通りと違い、人の往来こそ多くないもの、そこは人々の生活の場として活気を持っていた。

蒼介と晃、見知らぬ者が歩いていても、多少目をやるもののさして気にせずにいてくれるのが有難い。


「しかし、もしここに潜んでいるとして、近所の人間が気づかない訳も無い。そう考えると、やはり協力者がいると考えるのが自然だろう」

『反政府の人間が手を貸しているのかもしれんな』

「風音さんみたいに、奥さんとか家族が出来たのかもしれないよ。案外普段は普通に暮らしてるとか」

『それは・・・どうだろうな』 

「きっと一人で戦い続けるのは辛いよ。それは誰でも同じじゃないかな、刹那だって」


ちょうどその時、彼らの横を数人の子供達が通り過ぎようとしていた。

その中の一人が立ち止まり、こちらを見上げる。

何故か驚いたような顔で。


「・・・?」


どうかしたかと尋ねようとした晃。

それを制する蒼介。、

慌てた様子でその子を急かす、他の子供達。

走り出した仲間から一呼吸遅れたその子の腕を、蒼介が取った。


「待て・・・何か知っているのか?」

「ちょっと、蒼介さん」

「今、お前は刹那の名に反応したんじゃないのか?」

「・・・!」


子供達が息を呑むのが見て取れた。

蒼介の傍らで、晃も目を見開く。

この子供達が刹那の味方、なのだろうか。


「知らない。何にも知らないよっ」

「なぜ隠す?そう言えと言われたのか?」

「・・・待って、蒼介さん」

『蒼介、晃に任せろ』

「しかし」

「待ってくださいったら!」


晃は強い口調で蒼介を止めた。

そして身を屈め、怯えている子供達に目線を合わせて笑って見せる。


「ごめんね、怖がらせて。・・・刹那について、もし知っていることがあれば教えてほしい。君たちに迷惑がかかるようなことは絶対にしないから」

「・・・」


子供達は、互いに困ったように顔を見合わせている。

晃は、決して急かさず待っていた。

蒼介も理解してくれたようで、晃の横で黙っている。


やがて、一番年長と思われる子が口を開いた。


「あんた達は敵?それとも味方?」


晃は苦笑した。

敵か味方か、善か悪か。

子供のように単純に決められたなら、どんなに楽だろうか。


「・・・それは難しい質問だな。どっちに答えても嘘になっちゃうから」

「・・・?」

「俺たちはね、刹那と会ってきちんと話し合いたいんだ。そうするって、君と同じくらいの子とも約束して、ここに来たからね。ただ・・・その結果、敵になるか味方になるかは今は分からないんだ」


随分正直に答えるものだ、そう思って了祐はそっと笑った。

嘘をつくことも十分出来ただろう。

でも、だからこそ信じてもらえる。

そしてこれこそが晃なのだと、自分は知っている。


「刹那は悪い人じゃないよ」

「・・・そうか」

「でも追われてるって言ってた。それは兄ちゃんたちなのか?」

「いや、それは違う」


了祐があの地を離れて刹那を探していることを、彼はまだ知らないはずだ。

とすれば、刹那が追われていると言っている相手とは、明治政府に他ならない。


「だったら、刹那を見つけて。もう何日も戻ってこないんだ。もしかしたら捕まっちゃったのかも」

「・・・!」


その言葉に、先程初めに立ち止まった子が泣き出した。

他の子どもたちもうなだれている。

晃は蒼介を見て、そして再度子供たちに視線を戻した。


「・・・刹那はまだつかまってないはずだよ」

「本当に?」

「うん、きっとね。・・・刹那はこれから俺達が探すから、もう少し詳しく話を聞かせてくれる?」

「・・・私がお話ししますよ」


割り込んだ背後の声に振り返ると、女性が一人立っていた。

年長の子が、母ちゃん、と言った。


「きっともう、あの人は戻ってこないでしょうから。うちへどうぞ」

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