第八話
”網”から既に連絡を受けているのだろう。
蒼介と晃を見た赤井は、詳しいことは聞かなかった。
ただ、ご苦労だったと述べ、そして火事場の状況を教えてくれた。
現場では数名の遺体が発見されたこと。
その全ての遺体に傷の跡があり、火事の前に殺されていたと考えられること。
遺体の身元は確認中だが、恐らく華族であろうこと。
二条家は無事でも、そうじゃなかった人たちは確実にいる。
晃は項垂れて呟いた。
「また、防げなかった」
「下を向くな、前を向け。そんなんじゃ、見つかるもんもみつからねぇよ」
「・・・はい」
その後、晃は倒れるように眠った。
やはり相当疲れていたのだろう。
時間にすればそう長くなかったが、目覚めてみれば明らかに体の重さが先程とは違う。
ふと気づけば、小虎が小さく鳴きながら、晃の周りを回っていた。
東京に戻ってきてから、外へ出る際は基本的に赤井に小虎を預けている。
寂しいだろうが、いつ刹那と遭遇するか分からない以上、連れては行けなかった。
小虎が了祐との橋渡しをしてくれた頃が懐かしい。
小虎がいなければ、きっと今の自分はない。
了祐や蒼介に出会うことも、前に進むことも、きっと出来なかった。
小さく笑った晃は、小虎を抱き上げ、その体に顔をうずめた。
「ありがとうな、小虎」
その様子を見届けた上で、了祐が声を掛ける。
『・・・行けるか、晃』
「うん、行こう」
赤井に言われた通り、もう一度前を向く。
今度こそ、刹那を止めて見せる。
向かう先は、あの長屋。
あの付近まで目撃されているということは、きっとあそこには何かがある。
***
昼間の裏長屋通りは、夜と全く違った様相を見せていた。
店屋が並ぶ表通りと違い、人の往来こそ多くないもの、そこは人々の生活の場として活気を持っていた。
蒼介と晃、見知らぬ者が歩いていても、多少目をやるもののさして気にせずにいてくれるのが有難い。
「しかし、もしここに潜んでいるとして、近所の人間が気づかない訳も無い。そう考えると、やはり協力者がいると考えるのが自然だろう」
『反政府の人間が手を貸しているのかもしれんな』
「風音さんみたいに、奥さんとか家族が出来たのかもしれないよ。案外普段は普通に暮らしてるとか」
『それは・・・どうだろうな』
「きっと一人で戦い続けるのは辛いよ。それは誰でも同じじゃないかな、刹那だって」
ちょうどその時、彼らの横を数人の子供達が通り過ぎようとしていた。
その中の一人が立ち止まり、こちらを見上げる。
何故か驚いたような顔で。
「・・・?」
どうかしたかと尋ねようとした晃。
それを制する蒼介。、
慌てた様子でその子を急かす、他の子供達。
走り出した仲間から一呼吸遅れたその子の腕を、蒼介が取った。
「待て・・・何か知っているのか?」
「ちょっと、蒼介さん」
「今、お前は刹那の名に反応したんじゃないのか?」
「・・・!」
子供達が息を呑むのが見て取れた。
蒼介の傍らで、晃も目を見開く。
この子供達が刹那の味方、なのだろうか。
「知らない。何にも知らないよっ」
「なぜ隠す?そう言えと言われたのか?」
「・・・待って、蒼介さん」
『蒼介、晃に任せろ』
「しかし」
「待ってくださいったら!」
晃は強い口調で蒼介を止めた。
そして身を屈め、怯えている子供達に目線を合わせて笑って見せる。
「ごめんね、怖がらせて。・・・刹那について、もし知っていることがあれば教えてほしい。君たちに迷惑がかかるようなことは絶対にしないから」
「・・・」
子供達は、互いに困ったように顔を見合わせている。
晃は、決して急かさず待っていた。
蒼介も理解してくれたようで、晃の横で黙っている。
やがて、一番年長と思われる子が口を開いた。
「あんた達は敵?それとも味方?」
晃は苦笑した。
敵か味方か、善か悪か。
子供のように単純に決められたなら、どんなに楽だろうか。
「・・・それは難しい質問だな。どっちに答えても嘘になっちゃうから」
「・・・?」
「俺たちはね、刹那と会ってきちんと話し合いたいんだ。そうするって、君と同じくらいの子とも約束して、ここに来たからね。ただ・・・その結果、敵になるか味方になるかは今は分からないんだ」
随分正直に答えるものだ、そう思って了祐はそっと笑った。
嘘をつくことも十分出来ただろう。
でも、だからこそ信じてもらえる。
そしてこれこそが晃なのだと、自分は知っている。
「刹那は悪い人じゃないよ」
「・・・そうか」
「でも追われてるって言ってた。それは兄ちゃんたちなのか?」
「いや、それは違う」
了祐があの地を離れて刹那を探していることを、彼はまだ知らないはずだ。
とすれば、刹那が追われていると言っている相手とは、明治政府に他ならない。
「だったら、刹那を見つけて。もう何日も戻ってこないんだ。もしかしたら捕まっちゃったのかも」
「・・・!」
その言葉に、先程初めに立ち止まった子が泣き出した。
他の子どもたちもうなだれている。
晃は蒼介を見て、そして再度子供たちに視線を戻した。
「・・・刹那はまだつかまってないはずだよ」
「本当に?」
「うん、きっとね。・・・刹那はこれから俺達が探すから、もう少し詳しく話を聞かせてくれる?」
「・・・私がお話ししますよ」
割り込んだ背後の声に振り返ると、女性が一人立っていた。
年長の子が、母ちゃん、と言った。
「きっともう、あの人は戻ってこないでしょうから。うちへどうぞ」




