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影の記  作者: 水鳥川 陸
第六章 真の強さ
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第五話

だがしかし。

刹那の痕跡は見つからないまま。

焦る気持ちを他所に、時間ばかりが過ぎて行った。


既に東京に戻ってから五日。

一方でその間も、彼の攻撃は続いていた。

ある政府高官は務め帰りに行方知れずとなり、翌朝川に浮かんでいるのが発見された。

また、政府管理下にある複数の建物周辺では、不審な小火や爆発が相次いでいた。


日増しに疲労の色も濃くなっていく。


この日は、町中で手に入れた新聞を手に、夕暮れ前に一度長屋へ戻ってきた。

僅かな時間に仮眠を取り、今夜は夜通し探索に出る予定だった。


赤井によれば、今日も未華子の来訪は無かったという。

晃達が戻ってから、未華子は一度も姿を見せていない。

了祐との気まずいやり取りを気にしているのか。

もしくは相次ぐ事件のために、直隆が外出を禁じているのかもしれない。


その方が安心だよ、そう言って畳の上に寝転んだ晃。

蒼介も壁に背を預けたまま、うたた寝をしている。


一方の了祐は、先程見た新聞の内容について考えていた。

そこに載っていたのは先日の政府高官の殺害事件。

そしてその前後に官舎近くで起きた小火騒ぎについて。

師範から聞いたこれまでの事件と照らしあわせて、その関連性を探る。

高官の消えた場所と、これまでに小火や爆発騒動のあった場所。

畳に下向きにおいてもらった東京の地図を見上げて、その場所を当てはめていく。


『・・・』


襲撃場所は、一見すると不規則に点在していた。

気になるのは、初めの頃と比べると、最近の襲撃場所がいずれも近接した場所であること。

まるで円が狭まっていくようだ、と了祐は思った。

もしそうだとするなら、その中心に位置しているのは-。


『蒼介、晃!』

「・・・どうした」


蒼介からすぐに返事が返る。

遅れて晃も、少し眠そうな声を上げた。


『恐らく、次に狙われるのは華族だ。刹那が事件を起こす場所は、徐々に華族の多く住む通りに近づいている』

「!!」


二人同時に息を呑んだ。

慌てて外を見れば、既に日は落ち闇が濃くなってきている。

刹那が動くのがいつか、までは分からないけれど。


「行ってみよう」

「はい」


        ***


了祐の予測を赤井に告げ、小虎を預けて目的地へ向かう。

件の屋敷の並ぶ通り。

それは二条邸のある、あの場所だった。


-未華子さん、二条様!-


晃は、焦る自分に冷静になれと念じた。

何も無ければそれでいいし、きっとその可能性の方が高い。

でも、どうしてこんなに嫌な予感がするんだ。

俺の勘はよく当たるけれど。

今回は外れだ、絶対に。


まだ人の多い大通りを縫うようにして走り抜けた。

しかしやはり、先を行く蒼介のように早く走れず遅れてしまう。


『・・・晃』


言外に、替わるかと問われている。


「大丈夫だ」

『・・・わかった、任せる』


了祐には、もしも刹那と遭遇し戦闘になった時のために万全の状態でいてほしい。

それに自分も逃げてばかりいる訳にはいかない。

自分が守るべきもののためにも。



目的の通りが近づくにつれ、人の数は減ってきた。

特に騒ぎが起きているようにも見えない。

晃の先を行く蒼介は、そう思って少し安堵した。


と、夜風の向きが変わった。


「・・・?」


その風に乗って感じる微かな匂い。

まるで何かが燃えてるような。


「まずい」


その呟きと同時に、高い破裂音が連続して聞こえ、少し先の空が一気に明るくなった。

火事だ、という複数の声が遠くから聞こえる。

火の見櫓から鳴らされる半鐘の音も響き始めた。


蒼介が振り返ると、晃は呆然として足を止めていた。


「立ち止まるな、急げ」


そう言った瞬間に思い出す。

旅の途中、晃が眠った後に了祐から聞いていた。

晃が火事を恐れる訳ー。


『晃。俺が行く。代われ』

「・・・」


晃には、蒼介の声も了祐の声も聞こえていた。

それでも動けなかった。

体が震え、眩暈がした。


晃の顔は月夜でもはっきり分かる程血の気が失せていた。

蒼介は晃の元に駆け寄ると、その腕を取って強引に顔を自分に向けさせた。


「動けないなら了祐と代われ。代わらないなら動け。無駄な時間は無い」

『蒼介!』

「遅れれば、犠牲者が増えるだけだ。お前はそれでいいのか」

「・・・ぎ、せい、しゃ?」


蒼介の言葉が頭の中で上手く変換できない。


ぎせいしゃ、ギセイシャ・・・犠牲者?


そうだ、犠牲者だ。

早く行かなければ、また死なせてしまう。

()()()()()()


拳を固く握りしめ、顔を上げる。

それを見て頷いた蒼介と共に、再び走り出した。


        ***


屋敷通りの辺りは、逃げる人と野次馬、火消しに当たる人でごった返していた。

一か所ではなく数か所から出火しており、既に炎をあげている屋敷も見えた。


「蒼介さん、ごめん。・・・俺、二条邸に行かなくちゃ」

「行け。俺は先に刹那を探す」

『蒼介、後で必ず追いつく』

「任せろ・・・俺は”雪”だぞ」


そう言って微かな笑みを浮かべると、蒼介は一人、火の手の方へ駆けて行った。 

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