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影の記  作者: 水鳥川 陸
第六章 真の強さ
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第二話

手詰まりを感じていた晃達。

事が動いたのは、その二日後のことだった。

次の目的地へと向かう道中、”網”から受け取った師範の手紙に、晃は息を呑んだ。


「・・・東京だ」

「東京がどうした?」


手渡された手紙に目を通した蒼介も、驚いた表情を見せる。


『おい、なんだよ』

「東京で、”網”が隻腕の男を目撃した。忍びみたいな身のこなしですぐに見失ったそうだけれど-恐らく刹那で間違いないだろうって。その頃から東京では政府高官が殺される事件が多発しているらしい。・・・きっと刹那は東京を、明治政府そのものを狙ってるんだ!」

『!!』

「急いで戻らなきゃ・・・東京へ」


各地での蜂起の話はあれど、東京の話はこれまで聞こえてこなかった。

東京には人が溢れ返っている。

それは隠れ蓑にもなるが、人の口に噂がのぼる確率も上がる。

幾ら人波に紛れ込んだとしても、大人数の反政府集団が潜み、武力決起を図るには危険すぎるのだ。

それはつまり、刹那が集団に属していないということの裏返しでもある。

彼は恐らく、単独で復讐を果たそうとしている。



現在地は東京からはかなり離れてしまっていた。

急いだとしても、自分の足で行けば少なくとも十日はかかる。

晃はそう考え、了祐に呼びかけた。


「替わろう、了祐。お前と蒼介さんなら俺より早く走れる」

『・・・晃』

「どのくらい了祐が俺でいられるかは分からないけど。行けるところまで行ってくれよ」


出来れば東京まででも、と。

確かに晃の言うことは正しい。

だが、そんなに長く入れ替わることには、可能かどうかの問題以前に抵抗がある。

逡巡する了祐に、蒼介も声を掛ける。


「俺も晃に賛成だ。刹那を逃がすわけには行かない。・・・いや、逃げるならまた追えばいい。それよりも、刹那がこれから何をしでかすかが分からん。本当に政府そのものを潰すつもりなら、東京の街ごと狙われる可能性がある」

『・・・』


それも分かっている。

刹那の郷里は、明治政府によって丸ごと消されたのだ。

その復讐を考えるとするならば、刹那の攻撃目標が東京全土に向かうことは十分あり得る。

むしろ、政府高官の暗殺は、刹那にとって始まりに過ぎないのかもしれない。

東京には師範がいる。

明治政府には久志のような組織の連中も揃っている。

それでも、嫌な予感が止まない。


『晃・・・すまないな』


了祐の言葉に晃が笑って頷いた。


「相変わらずだな。・・・こういう時は、行くぞ、でいいんだよ」


        ***


了祐と蒼介は闇夜の山道を駆け抜ける。

昼夜問わず走り続けることには慣れていた。

今宵は厚い雲に覆われ、月は全く見えない。

当然影も無いが、了祐は晃の存在を自分の中に確かに感じていた。

晃もいつもこんな感じでいたのだろうか。

了祐は、胸元に収まった小虎の頭を軽く撫でた。

ごめんな、お前の飼い主と引き離してしまって-。


「大丈夫か、晃」

『大丈夫だよ。影じゃなくって、ちゃんと自分の目で景色を見てる感じがする。むしろ、あんまりお前の足が速いんで感動してるところ。俺、自分の人生でこんなに早く流れる景色なんて見たこと無いからね』


そう言って晃が笑う。


「そうか」


横を走る蒼介も、それを聞いて笑った。


『了祐はどう?大丈夫そう?』

「ああ」


これまでのような眩暈は感じられなかった。

むしろ体がやけに軽く感じられる。

馴染んできている、とは決して思いたくない。

だが今だけは助かる、と思った。


「そうは言っても暇だろう。晃は少し寝てるといい。・・・後は俺に任せろ」

『心強いね、安心してお任せします』


もう一度、晃が笑った。



しばらく走り続け、途中見つけた川の近くで小休止を取った。


「晃は寝てるのか?」


了祐は少し首を傾げて考えると、小さく頷いた。


「多分な。そんな気がする」


気配が消えたわけではないが、少し弱まって感じる。

ただそれは心配なものではなくて、むしろ安心できる不思議な感じだった。


「やっぱりすごいな、いつ見ても」


感嘆する蒼介に頷いてみせて、了祐は川に近寄った。

月が無いのでよく見えないが、そこに映る自分の顔をそっと覗いてみる。

ぼんやりと浮かぶその姿はどことなく、前に晃が書いてくれた絵に似ている気がした。


「俺にも分からない。どうしてこんなことができるのか」


そうだよな、と蒼介は言葉を続ける。


「でも、こんな時になんだが、俺は少し昔を思い出して懐かしい気がしてる」


自分たちが”影”と”雪”と名乗っていたあの頃。

当時もこんな風に共に夜道を駆け抜けて訓練し、後には任務に向かうようになった。


「俺にとってはついこの間なんだけどな」

「俺にとっては随分前だ。・・・同じ歳のはずなのに、俺だけ先に歳を取ってしまったからな」


それを聞いて了祐は、少し寂しそうに笑った。


「俺は、妹にも歳を抜かされてしまった。・・・世間から置いてきぼりだ」

「・・・それでも、生きててくれた。俺はもう一度お前に会えて、本当に良かったと思ってる。これからでも遅くない。無事に元に戻って、これからは一緒に歳を取ろう」

「・・・ああ」

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