第十話
了祐は、ずっと夢を見ていた。
一つではない、いくつもの夢。
そしてそれを夢だと自覚している自分がいた。
それでも、どうしても目覚めることが出来なかった。
”裏”の任務に就く前の夢を幾度も見た。
妹が生まれる前の、兄に甘えてばかりだったあの幼い日々。
妹が生まれ、自分も兄のようになりたいと、気持ちばかりが空回りしていた頃。
結局、兄のようにはなれずとも、あるがままの自分に懐いてくれた妹との優しい日々。
どの夢でも家族は皆、楽しそうに笑っていた。
もちろん自分も、その輪の中で笑っていた。
でも、俺はこれが夢だと知っている。
父も母も兄も、もう会うことは二度と叶わない。
晴子は生きていてくれたけれど、もう俺とは生きる世界が違う。
ではなぜ自分は生きているのだろう。
石川久志と名乗ったあの男-彼の言うことはもっともだ。
あんなに人を殺して、自分だけ生き続けようなんて卑怯だ。
やはり自分はこのまま死ぬべきなんじゃないだろうか。
そう思った時、晃が夢に出てきた。
「まだそんなこと言ってるのか?・・・本当に了祐は強情だなぁ」
目の前に立った彼は、呆れたように笑った。
「俺の影を返してくれるんじゃなかったの?それともずっとそこにいるつもりか?」
「俺がここで死ねば、お前の影は元に戻るかもしれない」
「戻らなかったら?俺は了祐の死んだ影を引きずって歩くのか?・・・そんなの御免だよ」
「じゃあ、お前の影を取り返してから死ぬことにする」
まっすぐに俺を見る晃の目。
それは怒っているようにも、悲しんでいるようにも、笑っているようにも見えた。
晃は本当に不思議な男だ。
「馬鹿了祐。・・・お前にはもう俺の体はもう貸せないよ。そんなんじゃ、自分で術を解くなんて絶対無理だからな」
「・・・それは、やる」
「無理無理。・・・決めた。俺、一人で刹那の所に行くよ。術をかけた人間なら、もしかしたら解き方に気づいたかもしれない。それを聞きに行く。了祐は、そこでずっと寝てろ」
そう言うと、自分に背を向けて歩き出す。
これは夢だと分かっているのに、とても嫌な予感がする。
「待て、晃。・・・駄目だ、勝手に行くな」
晃は、全然俺の言うことを聞かずに遠ざかっていく。
「待てよ!俺を連れて行け・・・俺が絶対お前を守るから!」
その言葉にようやく足を止めた。
こちらに背をむけたまま、問いかけられる。
「本当に?」
「約束する。お前を絶対に守る」
振り返った晃が笑っていた。
「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ。俺が絶対にお前を守るから」
「・・・?」
晃の背後が急に光り出して、逆光で晃の顔がよく見えない。
「俺がお前を死なせないよ。・・・了祐、生きるための理由なんて必要ないんだ。俺も、お前の家族も、皆お前に生きてほしいと思ってる。そんな風に思われている限り、お前は死ねないよ」
その言葉の間も光はどんどん強くなって、最後の方は辺り一面光に包まれていた。
「・・・晃!」
「・・・えっ?」
「了祐?!」
驚いた声が聞こえた。
よくよくあたりを見回せば、そこは既に居慣れた影の中だ。
上から晃と蒼介が慌てたようにこちらを見下ろしている。
「・・・やっと目が覚めた?大丈夫?」
晃にそう聞かれて、やはり自分はずっと眠ったままだったのだと悟る。
『あれからどれくらい経った?』
蒼介が、丸二日だと教えてくれた。
とりあえずは、前のように何年も経っていないことに安堵する。
晃が満面の笑みでしゃがみこんだ。
了祐の姿は見えないけれど、確かにそこにいる彼に向かって。
「おはよう、了祐」
『・・・おはよう。待たせたな』




