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影の記  作者: 水鳥川 陸
第5章 守るべきもの
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第十話

了祐は、ずっと夢を見ていた。

一つではない、いくつもの夢。

そしてそれを夢だと自覚している自分がいた。

それでも、どうしても目覚めることが出来なかった。


”裏”の任務に就く前の夢を幾度も見た。


妹が生まれる前の、兄に甘えてばかりだったあの幼い日々。

妹が生まれ、自分も兄のようになりたいと、気持ちばかりが空回りしていた頃。

結局、兄のようにはなれずとも、あるがままの自分に懐いてくれた妹との優しい日々。

どの夢でも家族は皆、楽しそうに笑っていた。

もちろん自分も、その輪の中で笑っていた。


でも、俺はこれが夢だと知っている。

父も母も兄も、もう会うことは二度と叶わない。

晴子は生きていてくれたけれど、もう俺とは生きる世界が違う。

ではなぜ自分は生きているのだろう。

石川久志と名乗ったあの男-彼の言うことはもっともだ。

あんなに人を殺して、自分だけ生き続けようなんて卑怯だ。

やはり自分はこのまま死ぬべきなんじゃないだろうか。



そう思った時、晃が夢に出てきた。


「まだそんなこと言ってるのか?・・・本当に了祐は強情だなぁ」


目の前に立った彼は、呆れたように笑った。


「俺の影を返してくれるんじゃなかったの?それともずっとそこにいるつもりか?」

「俺がここで死ねば、お前の影は元に戻るかもしれない」

「戻らなかったら?俺は了祐の死んだ影を引きずって歩くのか?・・・そんなの御免だよ」

「じゃあ、お前の影を取り返してから死ぬことにする」


まっすぐに俺を見る晃の目。

それは怒っているようにも、悲しんでいるようにも、笑っているようにも見えた。

晃は本当に不思議な男だ。


「馬鹿了祐。・・・お前にはもう俺の体はもう貸せないよ。そんなんじゃ、自分で術を解くなんて絶対無理だからな」

「・・・それは、やる」

「無理無理。・・・決めた。俺、一人で刹那の所に行くよ。術をかけた人間なら、もしかしたら解き方に気づいたかもしれない。それを聞きに行く。了祐は、そこでずっと寝てろ」


そう言うと、自分に背を向けて歩き出す。

これは夢だと分かっているのに、とても嫌な予感がする。


「待て、晃。・・・駄目だ、勝手に行くな」


晃は、全然俺の言うことを聞かずに遠ざかっていく。


「待てよ!俺を連れて行け・・・俺が絶対お前を守るから!」


その言葉にようやく足を止めた。

こちらに背をむけたまま、問いかけられる。


「本当に?」

「約束する。お前を絶対に守る」


振り返った晃が笑っていた。


「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ。俺が絶対にお前を守るから」

「・・・?」


晃の背後が急に光り出して、逆光で晃の顔がよく見えない。


「俺がお前を死なせないよ。・・・了祐、生きるための理由なんて必要ないんだ。俺も、お前の家族も、皆お前に生きてほしいと思ってる。そんな風に思われている限り、お前は死ねないよ」


その言葉の間も光はどんどん強くなって、最後の方は辺り一面光に包まれていた。


「・・・晃!」

  


「・・・えっ?」

「了祐?!」


驚いた声が聞こえた。

よくよくあたりを見回せば、そこは既に居慣れた影の中だ。

上から晃と蒼介が慌てたようにこちらを見下ろしている。


「・・・やっと目が覚めた?大丈夫?」


晃にそう聞かれて、やはり自分はずっと眠ったままだったのだと悟る。


『あれからどれくらい経った?』


蒼介が、丸二日だと教えてくれた。

とりあえずは、前のように何年も経っていないことに安堵する。

晃が満面の笑みでしゃがみこんだ。

了祐の姿は見えないけれど、確かにそこにいる彼に向かって。


「おはよう、了祐」

『・・・おはよう。待たせたな』 

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