第三話
そうやって蒼介の特訓を受けながら旅を続け、辿り着いた九頭見の元隠れ里。
街道から道無き道に入り込み、長く歩いた先にあるその場所は、壊滅の後、ひっそりと捨て置かれていた。
「ひどいな・・・」
晃が呆然と呟く。
家だったであろう場所は、全てが焼かれるか叩き壊されるかして、原型をとどめるものは一つも無かった。
『晃・・・大丈夫か』
晃は火事を恐れているから。
了祐が、心配して声を掛けた。
「大丈夫だ。ここは寺じゃない。・・・分かってるから」
小さく震える掌を握りしめて、晃は答えた。
「・・・生き残りがいるとは思えない程、やられているな」
『騙し討ちにしたのかもしれない』
ここまで完全に壊滅させられているということは、抵抗できる人間が少なかったのではないか。
少なくとも、あの男-刹那はいなかったのだと思う。
手を組んでいると見せかけ、主力を里から離しておいて、その隙に攻め込む。
汚い手だが、もしもそうならば、政府方が如何に九頭見を危険視していたかが知れるというものだ。
念のため、廃墟となった里内に分け入る。
数にして三、四十程の家からなる集落だったようだ。
「長い間、よく幕府から隠れて残ってこられたな」
蒼介の言葉に、晃も了祐も同意する。
里が機能していた当時は、もちろん場所を隠す忍術が施されていただろう。
しかし里の存在丸ごとを隠すために必要な術力は相当なものだったと推察できる。
「川があるな」
水の音が聞こえる。そちらの方向に向かって歩いていく途中、ふと蒼介が足を止めた。
数歩進んだ晃も、習って立ち止まる。
微かに体の中がざわつく。
自分には何も分からないから、きっと了祐だろう。
「どうしました?」
蒼介は、それには答えず、代わりに刀の柄に手をかけた。
「・・・なぜ俺たちをつける。九頭見の残党か?」
「聞きたいのはこっちの方だ。何をしにきた。これ以上、ここをどうするつもりだ」
思いがけず幼い声が後ろからした。
『子どもだ』
了祐の声に、蒼介と晃は振り返った。
「・・・あれ、どこ?」
「上だ」
言って蒼介が体勢を低くして構える。
子供といえど、もしも九頭見のものならば油断はできない。
何かあればすぐに刀を抜けるよう、右手は柄から離さない。
一方の晃は、子供の姿に惑い、立ち尽くしている。
『晃、構えろ』
「え、でも・・・」
木の枝に腰掛けこちらを見下ろしているのは、十を少し過ぎたばかり程の少年だ。
武器らしきものも持っていないように見えるが、声色と表情から、怒りが伝わる。
「何を嗅ぎ回っている、政府の犬」
吐き捨てるように叩きつけられる言葉。
それを聞いて、晃は一歩前に出た。
了祐と蒼介が止める声は聞こえたけれど。
「違う、俺たちは政府方の人間じゃないよ」
「動くな!」
声と同時に目の前に高速で小石のようなものが飛んできたが、蒼介の刀がそれを寸前で弾いた。
『晃!』
「刀を構えろ。何のために鍛えたんだ」
二人から怒られるが、無視してその少年に話しかける。
だって彼は、まだほんの子供じゃないか。
「話を聞いてくれないかな。俺たちは君を傷つけるためにきたんじゃない。人を探してるんだ」
「・・・」
「君はここに一人なの?大人は」
いないのかーその言葉は最後まで言えなかった。
誰もいなかったはずの晃の背後に突然現れた男。
その男が片手で晃の体を抑え、その喉元に小太刀を突きつけたからだ。
『・・・!!』
「・・・晃!」
了祐にも蒼介にも、咄嗟に感じ取れなかった男の気配。
「何用であろうと、この里への立ち入りは許さん」
その声に含まれるのはあからさまな殺気ではなく、どこまでも静かな怒りだ。
が、程なくその男は小太刀を緩めた。
蒼介が隙を窺い刀を構え直す。
「刹那の気を感じる。・・・あいつの術を受けたか」
「!!・・・そうです、術を解きたい。だから刹那を探してここまで来たんだ。ここにいるなら会わせてください」
晃の言葉に一時考える様子を見せた男は、小太刀を持つ手を下げた。
そして黙って様子を見守っていた少年に声をかける。
「聞こえただろう。この者たちは、政府の手の者ではない。心配するな」
「・・・でも、術を受けたなら味方でもない。信用はしない」
少年は、くるりと体を回転させると枝から飛び降り、山の中に走り去った。
それを見送り、男が言葉を続ける。
「この奥に俺たちの家がある。話はそこで聞く。ついて来い」




