第二話
「・・・体中が、痛い」
畳の上に俯せに倒れこんだ晃から、くぐもった声が発せられた。
『俺は止めたぞ』
蒼介は晃の予想に反し、かなり厳しい指導者だった。
歩く道々も稽古になるとして、敢えて笹薮の中を走らされる。
旅籠に着けば夜更けまで剣術指南。
ぼろぼろになって寝ているところを早朝から叩き起こされる。
「蒼介さん・・・俺が思ってたのと何か違う」
当の蒼介は、部屋に倒れこんだ晃をよそに、先に風呂に行くと言い出て行ってしまった。
優しい大人の男、の評価が音を立てて崩れていく。
『お前がどう考えてたかは知らないが、基本的に俺達はあの師範に鍛えられてるんだ。普通の感覚とはちょっと違うと思った方がいい』
「いや、ちょっとどころじゃないからっ」
『もうやめておけよ』
「やめない」
『・・・お前、本当に頑固だな。俺以上だぞ』
了祐、と晃が呼びかけた。
「きっといつか役に立つから、もうちょっと待ってて。・・・それに、蒼介さんも元気そうだしさ」
了祐もそれはよく感じていた。
数日前まで座敷牢に閉じこもっていたとは思えない程、話をして、笑ってくれるようになった。
「了祐と会えて嬉しいってのが一番だろうけどさ、俺もちょっとぐらい貢献出来てたら嬉しいな・・・」
結局いつでも、晃は周りの人間のことを考えているのか。
これじゃ、二条未華子に投げ飛ばされてた時と一緒じゃないか。
そう思って晃を叱ろうとして気づいた。
聞こえてくる規則正しい寝息。
小虎が近寄って晃の顔を舐めるが、全く起きる気配がない。
『疲れてるんだ。寝かせてやれ、小虎』
小虎に了祐の声が聞こえているのかは、今もよく分からない。
だが、絶妙な間合いで小さく鳴くと、晃に寄り添うように丸まって寝始めた。
程なくして部屋に戻った蒼介は、予想通りだという表情で晃を布団に運んだ。
持ち上げられても、晃は全く起きる様子が無かった。
相当に疲れ果てているのだろう。
「まあ、無理させてるよな。分かってるよ、十分」
了祐の先手を打って話し出す。
「それでも晃は、自分が守られてるだけってのに我慢ならないんだよ。お前の枷になってしまうことを心配している。・・・その上、俺のこともずっと気にしてるみたいだしな」
『・・・気づいてたのか』
「当たり前だ。俺はそこまで鈍感じゃない」
苦笑いを浮かべて、そして晃の寝顔に目を向ける。
「・・・優しいな、晃は」
『そうだな』
「新しい時代は、きっとこういう奴が作っていくんだろう。・・・俺達が必要とされた時代は、やはりもう、とっくに終わってるんだろうな」
『・・・ああ』
蒼介は、刀台に掛けていた刀を手にすると、すっと立ち上がった。
「とにかく俺は、早く勘を取り戻す。了祐は絶対に元に戻すし、晃は絶対に守り抜く。・・・約束するよ」
『これから稽古か?』
「”影”に近づくどころか、このままだと”雪”にも戻れないからな」
蒼介は小さく笑って、部屋を出て行った。




