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影の記  作者: 水鳥川 陸
第5章 守るべきもの
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第一話

彼らの次なる目的地は、九頭見一族の元隠れ里。

新政府により殲滅されたというその場所だ。

晃と了祐は道すがら、蒼介にこれまでの状況を詳細に説明した。


実は数日前、街道の茶屋に立ち寄った際、晃は鉄の指輪をはめた男から師範の手紙を受け取っていた。

そこに書かれていたのは、九頭見の隠れ里の場所と、そして忠告。


―先に里を探りに行った”網”からの連絡が途絶えた。決して油断するな-


「今もそこに生き残った誰かがいて・・・その人と何かあったってことでしょうか」


晃が考えながら口を開く。


「その可能性は高いな。いくら新政府が圧倒的な戦力をもって里の殲滅に当たったとしても、幕府が長く恐れる程に高い術を継承している一族が全滅するとは考えにくい」

「・・・じゃ、そこに刹那がいる可能性もありますよね」

『願ったりだ。俺たちには時間がない』


問題は、今の自分たちに勝てるかどうか。

口にせずとも考えることは皆同じだ。


自然、会話が途切れ黙々と歩き続ける中、それにしても、と晃が明るい声で沈黙を破った。


「あの指輪の人ってさ、全部で一体何人くらいいるんだろうな。結構な確率で見かける気がするんだけどさ」

『・・・そうだな』


赤井が”網”と呼ぶ情報網。

総勢何名いるのかは分からない。

しかし明治になった今でも、それは健在だということだ。

有難い反面、この間の老医師のように、政府方に目を付けられないか心配でもある。

まあ、赤井ならば大丈夫だろうとは思うが。


「あ、今度あの人達に会ったら、蒼介さんのことも伝えてもらわないとね」

「・・・気が重い」

「きっと喜びますよ。あのおっさんも、基本いい人なんでしょう。・・・俺には賛同しかねる部分もありますけどね」

『いい人だよ。ただちょっと怖いだけだ』

「だから気が重いんだよ。何度も追い返してしまったからな。もう二度と会うことは無いと思ってたが、もしも再会することがあれば・・・」

『ぶっ飛ばされるかもな』


了祐が笑いを含んだ声で言うと、晃も言葉をつなぐ。


「でもその後力いっぱい抱きしめられるんじゃないですか。あの馬鹿力ときたら・・・骨が折れるかと思いましたよ、俺は」

『・・・全部終わったら、俺も一緒に行ってやるよ』

「俺も!この刀折ったりしたら多分ぶっとばされるんで、一緒に行きましょう」


蒼介は笑って、そして気づいた。

自分は、本当はきっとずっと前から、こんなに簡単に笑うことができていたんだな、と。


「ああ、よろしくな」


        ***


九頭見の里跡地までは、峠をいくつも越えて、五日程度はかかる予定だった。

二条直隆からの援助金に加え、実家から強引に餞別を持たされたという蒼介も加わることにより、金銭面での苦労は全く無くなった。

別金で小虎用の飯もそれなりに用意してもらうことができ、小虎も随分満足そうである。

ちなみ小虎はあれ以来、随分蒼介に懐いてしまったようで、少なからず晃は寂しい思いをしていた。


そんな中で、晃が切り出したのは。


「・・・剣を教えてほしい?」


蒼介が軽く眉を顰めた。


「そうです、小虎を取られた代わりに。というのは冗談ですけれども。・・・赤井さんにも言われてるんですよね。自分の身は自分で守れるくらいになれって」

『晃には必要ない』

「そんなことない。俺も戦うよ。ただの足手まといにはなりたくない」

『お前は絵の勉強をしてろ』

「いつもそればっかりだな。俺がやりたくてやるんだ。俺の体だぞ、何か文句あるか?」

『そういうことじゃない』

「じゃあどういうことだよ」


蒼介には了祐の声が聞こえているから事情は分かるのだが。

それでも傍目に見て、一人の男が自分の影に向かって大真面目に文句を言う姿は、どうにも慣れない。

今は自分がいるからいいものの、晃一人でいた時にこの光景を見た者があれば、さぞかし気味が悪かったろうと思う。


「あの・・・」


話に割り込んだ蒼介は、苦笑しながら言った。


「俺も体が大分鈍っているから、晃が稽古相手になってくれるなら助かる」

「さすが、蒼介さん!やっぱり大人の男は違うなぁ」

『蒼介!』


頭を掻いて、更に蒼介は言葉を続ける。


「これまで見ただけだが・・・了祐はちょっと晃を大事にしすぎじゃないか?気持ちは分かるが、俺もお前も常に晃を守り続けられるかは分からないぞ。・・・そもそも昔のお前はもっと、年下だろうと年上だろうと、誰に対しても厳しかったように思うんだが」

『・・・そんなことは』

「そうだぞ。お前、結局は今、俺と同じ歳なんだからな。子供扱いするなよ」

『・・・』


二対一では随分、分が悪い。

了祐は溜息をついた。


晃に人を傷つけさせたくない。

もちろん傷ついても欲しくない。

地の底で諦めかけていた自分を見つけ出して、仲間だと言って笑ってくれた。

その晃を失うのが怖いんだと、正直に口にすることはどうしてこんなに難しいのだろう。


『・・・分かったよ。でも無理はするな』


結局、了祐が口に出来たのはその言葉だけ。

嬉しそうにはしゃいでる晃から目を逸らし、了祐はもう一度深い溜息をついた。

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