表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の記  作者: 水鳥川 陸
第四章 居場所
32/67

第四話

目的地は定まった。

それに向かって、広い東京の街の郊外へと歩く。

晃の胸元には、小虎が入って丸まっている。

影は日差しを受けてはっきりと浮かび上がっていた。


「なぁ、了祐、俺の刀の差し方、変じゃない?」

『・・・』

「また無視かよ」

『・・・』

「俺を本気で怒らすと、またそっちに行くぞ」

『あれは本当にやめてくれ。心臓が止まるかと思った」


あははと、晃が笑う。


「まあ、確かに今更ながら自分でもよくやったと思うけど。あんなことできるんだな」



出会った時にも引き込まれるような感じがしたが、あの時は抜け出すことに必死だったから。

了祐のいる場所がどんな場所かは、今回初めて分かった。

ひたすらに暗くて、静かな場所。

振り返って見えた赤井の顔-つまり地上の世界が、随分遠く輝いて見えた。


「・・・そこに一人じゃ辛いよな」

『好きで来る奴なんかいるか。だから晃も』


そう言いかけた言葉を、晃が遮る。


「俺じゃない。お前だよ、了祐。お前もそんなとこにいるべきじゃないんだ。・・・あ、そうだ、ちょっとだけ待ってて」


ふと、思い出したように側にある大木に背を預け、座り込む晃。

少ない荷物の中から筆と墨の入った矢立と紙を取り出す。


『どうした?』

「ん~。忘れないうちに、と思ってさ」

『・・・?』


すらすらと迷いなく筆を進めていく。

気になるが、了祐の位置からは見えない。


「よし、出来た」


満足気に呟くと、晃はにこにこしながら了祐に視線を移した。

そして、今描き上げたばかりの紙を、彼に向けて裏返す。

そこに描かれていたのは。

無造作に束ねた髪、首元を覆う首巻、そして少し伏し目がちだが穏やかな笑顔。


「了祐の似顔絵だよ。結構似てると思うんだけど、どう?」


さすがにあの状況で笑顔は見られなかった。

だからそこは晃の創作ではあるが、きっと遠くない。

了祐ならきっとこんな風に笑うんだろう、そう思った。


『・・・』

「あ、気に入らない?・・・もしかして怒ってる?」

『いや、違う。・・・今、俺はこんな顔をしているのか?ずっと自分の顔を見てないから、分からないんだ』

「はぁ?どういうことだよ、それは」

『・・・怖くて、ずっと鏡が見られなかった』



いつからだろうか、自分の顔を見られなくなったのは。

人斬りを重ね、体中にいつも血の匂いが纏わりつくようなった頃。

自分の目を見るのが恐ろしかった。

あれだけ人を殺して平気でいる自分は一体、どんな穢れた目をしているのだろうと。

その思いは、誰にも言えぬままどんどん大きくなっていき、しまいには、顔を洗う桶の水さえ直視できず、目を閉じたまま力任せに洗った。


了祐のこの告白に、晃はただ静かに笑った。


「じゃあ、描いてよかったよ。安心しろ、お前の目は穢れたりしてない。少なくとも、さっき見えた時は、俺を心配してる優しい目をしてた」

『・・そうか』

「そのうち、本当に笑ったとこも見たいな。やっぱりもう一回、そっちに行こうかな」

『調子に乗るな』 


        ***    


そうして歩き続け、東京を出るまではもうすぐ。

人家もまばらとなる中、一軒の蕎麦屋が見えた。

ここから旅立つ者と、はるばる東京へ辿り着いた者。

両者が集うちょうどいい場所柄だと思えた。

外から除くと、そこそこ客が入っているのが分かる。


「なぁ、せっかくだから、景気づけに蕎麦でも食べてこうか」

『好きにしろよ、俺には関係ないから』

「小虎も入れてもらえるかなぁ」


小虎は、催促するように甘える鳴き声を上げた。

それを聞いた晃が苦笑する。


「本当によくできた猫だな、お前」


不思議なくらい、こちらの意図するところを汲んでくれる。

心強い味方を得て、晃は蕎麦屋の暖簾をくぐった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ