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影の記  作者: 水鳥川 陸
第四章 居場所
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第三話

それから赤井は、懇意の医者が住む町を地図で教えてくれた。

壊滅した九頭見の里の場所は今も捜索中だそうで、そちらについては追って連絡をくれるという。


「この医者は、幕末に”裏”の治療を引き受けてくれた人だ。了祐はほとんど怪我をしなかったから知らないだろうけどな。今はそんな過去を消して・・・まあ、完全に断ち切れてはいねぇみたいだけども、田舎の爺医者としてのんびり生きてる。腕と知識は俺が保証する」


あと、併せて一つ頼みたい。

赤井はそう言ってもう一つの場所を指さした。

医者の住む町のすぐ隣町だ。


「ここに”雪”がいる」

『・・・”雪”が?!・・・生きているんですか?』


反応したのは了祐だ。

”裏”は最終的に全て滅したと思っていた。

赤井もそのように言っていたのではなかったか。


「生きてるよ、一応。実家に戻って・・・今は座敷牢で暮らしてる」

『!!・・・どうして』

「自分で望んだんだとよ。このままだと自分は人を殺し続けるから、と。・・・あいつは無理を重ねて心が壊れちまったんだ。俺も会いに行ったが、会えなかった。一番お前に懐いてたから、お前になら会うかもしれねぇ。もし会えたら・・・済まなかったと、もう大丈夫だと伝えてほしい」

『・・・了解、しました』


身支度といっても左程無く、小百合が用意してくれた握り飯が増えた程度である。

二条直隆から拝領した軍資金もあるので、とりあえず宿に困ることもないだろう。


「それじゃ、そろそろ・・・」


言いかけたところに、奥の間で何やらゴソゴソやっていた赤井が戻ってきた。

片手に刀を持っている。


「了祐が刀を持ってるだろうが、いつもちゃんと出てくるとも限んねぇだろ。お前も自分の身はある程度自分で守れ。これ貸してやるから」


渡された刀はきちんと手入れされていて、素人の晃でも上等な刀だと分かる。


「いいんですか?俺、全然刀なんて扱えませんよ。・・・折っちゃわないかな」

「やったんじゃねぇから。ちゃんと返せよ。折ったら修理代も工面してから戻ってこい」


何だか二条屋敷での場面を繰り返しているような気がするが。

でも、きっと皆、自分たちに無事帰れと言ってくれているのだろう。


「それと、これも晃に」


空いた右手に、何か小さいものが押し込まれる。

紙きれのようだ。

慣れない刀を何とか腰に差し、その紙切れを開けてみる。

中に書かれた内容に、晃は目を丸くして赤井を見上げた。


「どうするかは任せる」

『・・・?』


了祐の影が不思議そうに小さく揺れたが、結局何も言わなかった。

了祐は、赤井の話を聞いてから、めっきり口数が減っていた。

晃との接触をなるべく減らそうとしているようだった。

だからこそ赤井は安心して自分にこの紙切れを渡したのだろう。

了祐に見られる心配がないから。

晃は笑って応える。


「任されました。ご安心を。・・・それじゃ、行きます。了祐も、ほら」


了祐の影が、赤井に頭を下げたのが分かった。


『行ってまいります』


        ***


赤井は、彼らの姿が長屋の先を曲がって見えなくなるまで見届けた。


幕末のあの時代、赤井は冷静で冷酷な判断をせざるを得なかった。

その癖は簡単に抜けるものではない。

そしてその頭で考えれば、今回彼らが成功する可能性は限りなく無に近い。

だがしかし、晃のあの行動力は自分の想定を超えるものでもある。

自分は先ほど、二人の実力差は明らかだと言った。

それは、本当に確かだろうか?

もちろん剣の強さの話ではない。

晃が時折見せる、あの意思の強さは何なのか。

そもそも、晃なんて名前、偶然にしては出来すぎているだろう。


「影と光、とはねぇ・・・」


晃は、”影”として生きてきた了祐を導いてくれる光なのだろうか。

単なる可能性の問題ではなく、自分もあの二人を信じてみたいと、そう思った。


「絶対に死ぬんじゃねぇぞ、二人とも」

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