第十二話
そして翌朝。
食堂に行くと、不機嫌そうな未華子が既に席についていた。
「おはようございます、未華子さん」
「お父様に、朝すぐ聞きに行きました」
「・・・はい?」
「今はまだ、絵を描くための、そのまた前の段階だそうですね。温かく見守りなさいとお父様からは言われました。・・・でも、そんなの生温いわ」
そういうと、きっと晃を見据えた。
「晃。あなたはきっと素晴らしい画家になれるはずよ。だから早く画家になって、必ずその絵を私に見せると約束して」
直隆は事実はさすがに告げなかったようだ。
まあ、当然だろう。
信じる信じないの話という以前に、未華子ならば自分も一緒に刹那を探しに行くと言い出しかねない。
そうして父から聞かされた説明に対して彼女が出した結論は、厳しい口調とは裏腹に、呆れるくらい全力の晃への応援ではないか。
素直じゃない娘だな、と笑う了祐の声が聞こえた。
それが未華子さんなんだよ、と心の中で返す。
聞こえるのかどうかは分からないけど。
「・・・約束します。時間はかかると思いますけど」
その後すぐ姿を現した直隆も含め、皆で朝食をとる。
小虎は今日も焼き魚に夢中だ。
やはりこのままここにはいられない。
小虎が贅沢猫になってしまう。
「お世話になりました」
頭を下げた晃に、直隆は目を細めた。
ここを拠点に活動してはどうかと勧めてくれたが、了祐とも相談の上、赤井の所に戻ることにした。
「何か分かったかもしれません。場合によってはすぐに東京を出ることになるかもしれないですし」
「未華子が寂しがるだろうな」
その未華子は、今日は学校に出かけて行った。
自分が帰るまでに屋敷を去ったら許さない、と言っていたので、寂しがるというよりは激怒するに違いない。
「だが、事情は分かるから引き留めることもできないね。あの子には私から上手く言っておくよ。・・・とりあえず、私は自分にできることをしようと思う」
そう言って、小さな包みを晃に手渡す。
「・・・?」
促されて中を見ると、驚くほどの貨幣が入っていた。
「!!・・・いやいや、こんなの受け取れません」
「私は共に行くことはできないが、君たちが少しでも楽に旅ができるような手助けならばできる。それに・・・それはあげるわけじゃない。いつか晃が有名な画家になったら、きちんと返してもらうよ。時間はいくらかかってもいいからね」
そう言うと、いたずらをする子供のような顔で笑った。
先ほどの食堂の会話も聞かれていたらしい。
この親子にはやはり敵わない。
諦めて有難く拝領した。
清々しい空の下、二条屋敷を後にする。
「元に戻れたらさ、今度はちゃんと二人で二条様に会いに来よう」
『そうだな・・・あの娘には不審がられそうだけど』
「了祐が強いって分かったら喜ぶよ。一日中稽古相手にご指名。そして晴れて俺はお役御免、と」
『・・・それは勘弁してくれ』
あははと笑って前に進む。
まだ何も解決はしていないけれど。
晃も了祐も、少しだけ気が楽になっていた。
「あとは赤井のおっさんが、いい情報掴んでくれてるといいけどな」
『そうだな。足は大丈夫か?』
「大丈夫だよ。必要なら本当にすぐにでも東京を出られるから」
『・・・頼りにしてるよ』




