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影の記  作者: 水鳥川 陸
第二章 東京へ
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第六話

その夜。

子の刻を過ぎ、客も旅籠の者も寝静まった頃。


晃は、体調のせいもあり深い眠りについていた。

もちろん、囲炉裏の火は入れたまま。

小虎も晃の腕にしがみつくようにして寝息を立てていた。

が、その小虎の寝息がふとやんだ。

ほぼ同時に、彼も気づく。


『・・・晃』


他の部屋に聞こえぬよう小さい声で呼ぶが、起きる気配が全くない。


『おい。起きろ、晃』


今度は少し強めに。


小虎も意をくんでくれたのか、晃の腹に飛び乗る。

うめき声とともに晃が目を開けた。


「・・・何だよ、もう。まだ朝じゃないだろ」

『嫌な気配がする。下に誰かいる』


緊迫した虎丸の声に、眠そうだった晃の顔が変わった。


「ここの人じゃないのか?」

『違う。旅籠の人間なら気配を隠して動いたりしない。・・・行けるか?』

「俺に見に行けっていうのか?・・・やばい奴だったらどうすんだよ」

『それを確かめに行くんだ。行灯を持って行け』


虎丸に言われるがまま、渋々晃は行灯を片手に階段を下りた。

小虎も後から着いてきているようだ。


『突き当りを右に』


進む先は、客が泊まる部屋の方ではなく、ここで働く者達が居住する奥屋敷の方だった。

その奥の一室だけ、小さな明かりが動いているのが見える。


『あそこだ。行灯を手で隠して近づけ』

「・・・わかったよ」


そう答えつつ、晃は本当はとても嫌な予感がしている。

そして毎度自分のこの勘は当たる。

そういえば虎丸にあった時も同じような予感がしていた。

けれども、もうやけくそだ。


思い切って襖を開けた。


「誰かいますか?」


目が合った男が大きな黒い箱の前にしゃがみこんでいた-あれは、金庫か?


「・・・盗人だな!」


大声で叫ぶ。

それで逃げてくれればいいと思ったのもつかの間。

その盗人の後ろにさらに二人の男が見えた。

それぞれ手に鈍く光る刀を持っている。


「くそっ、見られちゃしょうがねぇな。こいつは殺るぞ」

「え?ちょっ・・・待って」


流石に丸腰の相手にそれは無いんじゃないかと思う。

でも悪い奴にそんな常識は通じないか。


『逃げろ』


すぐ耳元で虎丸の声がした。


「わかってるよっ」


騒ぎを聞きつけてすぐにみんな起きてくる、それまでの辛抱だ。

そう思って逃げようとした瞬間、晃の視界がぐにゃりと歪んだ。


ああ、きっと自分は熱がある。

自覚した時には、既に床に膝をついていた。

慌てて振り返ると、刀を振りかぶった男。


と同時に、手放して倒れた行灯の明かりが消えた。

闇の中、思わず両腕で自分の頭をかばって目を閉じる。


『晃!!』


最後に聞こえた虎丸の声。

ああ、虎丸ごめん。

まさかこんな所でこんな殺され方をするとは思わなかった。

虎丸は、自分が死んだらどうなるんだろう。

まさか一緒に死んじゃうなんて、無いよな。


「・・・・・?」


斬られた痛みがなかなか感じられないのは、即死だからだろうか。

そう思って恐る恐る目を開けて、そして驚愕した。


闇の中にぼんやりと浮かぶ、自分の右手に握られた刀。

それが男の刀を正面から受け止め、そのまま手前にも奥にも動かない。

力が拮抗しているのかと思ったが、明らかに違う。

目の前の男が唸り声をあげているのは、これ以上こちら側に押せないからだ。


「何、これ」


自分の手が勝手に動いている。

そして、次の瞬間、足も動いて目前の男の脛を思いきり蹴り上げた。

叫び声をあげて倒れる男の脇をすり抜けて、後ろの男二人に駆け寄る。

そのまま流れるように一人の首元を刀の柄で突き、返す刀の峰をもう一方の男の腹に強烈に打ち込んだ。

二人とも、声を上げる間もなくその場に倒れこんだ。

意識を失っているようだった。


「・・・虎丸」


それしか考えられない。


「虎丸!!」


もう一度、叫ぶように呼ぶ。


『聞こえてる』


すぐ耳元で焦った声がした。

焦って当たり前だと思う。

何故なら自分も十分に焦っているから。

明かりはどこにも無いのに、あいつは一体今どこにいるんだ?


「お前、どこに・・・っ?」


言いかけた時、左の腿に激痛が走り、再度膝をついた。

手で触ると、どろりとした何かがまとわりつく。

そして血の匂い-いつの間に。


「斬られてる!・・・虎丸、俺斬られちゃったっ!」

『落ち着け!!』


そう言う彼も、ずっと焦っている。


『晃。それはお前の怪我じゃない。・・・俺だ。あの時、俺が自分で刺した傷だ!』

「お前の、傷?・・・何言ってんだか全然分かんないよ」


背後が急に騒がしくなった。

やっと皆が集まってきたようだった。

そして漸く気づく-小虎がいつの間にかその場から消えていた。

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