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影の記  作者: 水鳥川 陸
第二章 東京へ
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第五話

翌日は、次の旅籠より少し手前で廃屋を見つけた。

長年使われていないようで埃もひどかったが、一晩をしのぐには十分な場所だった。

昨日に比べ曇り空で、既に暗くなり始めていたこともあり、晃はここにとどまることを主張した。


もちろん、虎丸にも小虎にも反論しようがないので、決定である。

とりあえず横になる場所の掃除だけ手身近に済ませると、晃は蝋燭を立てた。


「今日はちょっと暗いけど、これで我慢してくれよな」

『充分だ』


たくさんもらった握り飯と煮干しで腹は満たすことが出来た。

多少寒いのは仕方ないと言い、晃はせめてと荷袋の中に小虎を入れてやった。


『晃は大丈夫か?』

「俺?俺は慣れてるからね。あの小屋も、ここと似たようなもんだ」


確かに、晃の暮らしていた小屋も、かなり使い古されたような粗末な建物だった。


『晃はどうしてあそこに一人で暮らしてたんだ?』

「・・・俺の話なんて面白くもなんともないよ。とりあえず、今は虎丸は自分のことだけ考えてろ」


窓からぼんやりと夜空を眺めていた晃は小さく笑う。


「今夜は雨になりそうだ。道も悪そうだし、明日に備えて早く寝るよ」

『ああ、わかった』

「蝋燭はそのままにしておくから。・・・何かあったら起こして」


そう言って板の間に寝転がると、まもなく寝息が聞こえ始めた。

そんな晃を虎丸はじっと眺めていた。


蝋燭の火は、正直に言うととても有難かった。

虎丸は夜が来るのが、いや影が出ない場所が怖かった。


時に自分の存在さえ忘れてしまいそうになる程の孤独。

霞がかかったように薄れる意識。

このまま自分は永久に目覚められないのではないかと何度も思った。

そしてそれ以上に。

死んだほうがよかったと言う一方で、そんなことに恐怖を感じる自分が許せなかった。


でも、これまでそんな泣き言は決して口に出さずにいたはずなのに。

晃は自分の行動が全部筒抜けだと言ったが、逆に自分の方が晃に心を読まれているようにさえ思う。

本当に不思議な男だった。


もっと早く、”裏”の任務につく前に出会えていたら、自分は何か違っていただろうか。

少なくとも、あんなふうに無心に、ただひたすらに人斬りを続けてはいなかったんじゃないだろうか。


そう考えて、いまさら何をと、自分に呆れた。


        ***


夜中から降り始めた雨は、朝になっても上がらなかった。

そして-。


「・・・ふぁっ、くしゅっ」

『全然、平気じゃないじゃないか。大丈夫か?』


くしゃみをし、鼻をぐずぐず言わせている晃。

小虎も心配そうに晃の膝の上に乗って、顔を見上げている。


「平気だよ、このくらい。心配してくれるなんてかわいいなぁ、小虎も虎丸も」

『とりあえず、今日はちゃんと旅籠に泊まってくれ。金は・・・いつか俺が必ず返すから』


一瞬驚いた晃の顔に、次第に笑みが浮かぶ。

そして、うんうんと頷いている。


『・・・なんだよ』

「ちょっと前向き発言が出たね。いい傾向だ」

『大丈夫なら早く出立しろ』

「はいは~い」


雨雲で、今日は日中でも影は出ない。

道中虎丸との会話もできず、晃は時折小虎を相手にしながら歩き続けた。

小虎は今日は晃の懐の中で嬉しそうにゴロゴロ言っている。


「なあ、小虎。お前にもうちょっと頑張ってほしいんだけどな。あいつは影が無くったってちゃんとそこにいるのに、話もできないなんてかわいそうだからさ。・・・っくしゅっ」


小虎はうっすらと瞳を開けて鳴いたが、またうとうとしてしまった。

虎丸もこんな感じなのかな。

影が出ていない時は意識が不鮮明になると言っていた。

今の自分のこの声も、きっと聞こえてないんだろう。

このまま行けば、明日には東京に着く。

何か分かればいいのだけれど。


        ***


足場の悪い中、何とか夕刻に辿り着いた旅籠は、一昨日とは違い多くの旅人で賑わっていた。

商売繁盛でめでたいことだが、やはり相部屋で猫連れは受け入れ難いという。

さすがの晃の交渉力でも無理だったので、奮発して高い一間を借りることにした。


「いつかちゃんと虎丸が返してくれるそうだからな」


部屋に入るとすぐに部屋を明るくし、漸く影が出来た。

早速、冗談めかして言ってみるが、返事が無い。


『・・・』

「おいおい。不安になるから、とりあえず話せるようになったらちゃんと話せ」

『金は返す。・・・何らかの方法で必ず』

「相変わらずの真面目野郎だな」

『そのためにも、東京に着いたらすぐに俺の先生を訪ねたいんだ。俺の都合を押し付けてばかりですまない』


また言うか、と野次ろうとした晃より早く、虎丸が続ける。


『・・・でも、お前には元気でいてほしい。こんなに無理させてる俺が言うのもおかしいけど、せめて今日はゆっくり休んで、早く元気になれ』

「・・・」


その真っ直ぐな言い方に、晃は思わず笑ってしまう。

自分と同じ年だというが、普段は随分大人びた感のある虎丸。

だが、こうやって時折垣間見える子供のような素直さが、何ともかわいいというか憎めないというか。


『なんだ。何を笑ってる?』

「笑ってないよ。さぁ、ご飯とお風呂。早く済ましてこようっと」

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