人と物
血とか、若干グロ表現があります。
ご注意ください。
主人公とは別視点です。
勢いのまま転移したまではよかったけど、如何せんここがどこだか分からない。
あれを連れて飛び回ることも考えたが、人に見つかりでもしたら都合が悪い。
リア友にばれでもしたら、人生が終わる・・・。
はあ、今回ばかりは座標指定式じゃなく、固有点指定式が使えればって思う。
固有点指定式は、各国が所持しているアーティファクト特有のエネルギー波を頼りに転移する術だ。
戦争でアーティファクトが奪われたりしない限り、間違えて別の地点に飛んでしまうことはない。
が、世界中から捉えられるほどのエネルギー波を持つものがそこらにあるはずもなくて。
いける場所は、首都や各町ギルド(アーティファクトを模倣したものがあるらしい)、後はゲーム特有の都合によりフレンドくらいに限られる。
フレンドに直行できるのが便利とか思うかも知れないが、んなこたぁない。
プレイヤーは自分の座標が見える、つまり座標指定で十分事足りる。
それにあれだ、ダンジョンを登録できない転移術とか使わんだろう。
そういうことで、こっちを習得してるプレイヤーは皆無だ。
んで、座標指定式はその地の絶対座標さえ知っていれば自由に転移できる優れものだ。
まあ自慢じゃないが、主要都市から国の極秘拠点まで、あらゆる座標を覚えておくなんて芸当、俺には不可能なわけで。
その点抜かりなく、多言語音声解析手帳(言葉を分析して手帳内から関連用語を抜き出してくれる優れもの)にメモしておいたわけなんだが。
つまるところ、間違ってるんだよな、座標。
初期のアップデートで座標が全部変わったことがあったっけ。
こりゃ補償ものだな・・・。
前回は結局修正できなかった上に、補償が経験値2倍を1日とかでプレイヤー激減したんだよな。
直るといいな、ってか直らないとやってらんねーぞ。
今度は再登録に何日かかるんだ?
前の数倍登録してるから、全部の修正値が出るのに1ヵ月以上なんて軽く「助けて!」
あ、起きたか。
なかなかに張りのあるいい助けて!だ。
ホント、いい声優使ってる。
行動パターンから予想するに、おそらくあの薄黄色はPNPCだろう。
NPCはノンプレイヤーキャラクターのこと。
クエスト以外でこのゲームのNPCは街から出ない、つまり外でアルラウネに襲われていたあれはPNPCってことだ。
PNPCってのはプレミアムノンプレイヤーキャラクターの略で、突発イベントの主要キャラのこと。
突発イベントって結構な頻度で実施されるんだが、1人しかこなせないイベントなもんだからこれが初めてだったりする。
これでも結構興奮してるんだぜ?
毎度限定アイテムが設定されていて、かなりの良品が手に入ることもある。
クランメンバーが手に入れた「夜神の血盟証」なんかは、23:30から0:30の間攻撃力が1.5倍になるもので、無期限補助アイテムの最高峰といわれてる。
流石にそんなものが手に入るとは思えないが、それでも取引不可に設定されている限定品だ。
わくわくしないほうがどうかしてる。
急いだか、そうでないかと聞かれれば、その真ん中くらいと答えるほどの速さであいつ真上まで戻ってきた。
あまり見えないが、「眩惑の暗幕」(夜のみ所持者以外から認識されなくなる)から這い出たところのようだ。
飛ばないよう加重術をかけていたんだったか、四つん這いでいささか苦しそうだ。
そういえば、PNPCに蘇生術は効くのか?
あれ、突発イベント失敗って何度かあったような。
まさか失敗条件はPNPCの死亡?
そう思うと冷や汗が出た。
おおう、生きててくれてよかった。
せっかくのチャンスを怠慢で潰しただなんて、フレンドになんていわれ「んあっ」
俺の数m下。
かすかな草のすれる音を置き去りに飛び出した黒体が、薄黄色を覆い隠す。
「が、あああ!」
条件反射、とでも言えば分かるだろうか。
血が見えた瞬間、やってしまった、と。
悲鳴が反芻する、やばい、やばい、やばい。
と、頭では次の一撃を防ぐことすら考えられなかったのに、一閃。
声をあげ、苦痛にもだえるそれが、こいつが、NPCに見えなくて。
現実的な、本当の死を目の当たりにしているような、クエストで人を斬ったときには感じなかった絶望がここにあって。
うめきが消えるころ、転がる首がひとつ。
隔たれた黒それぞれからほとばしる、葡萄酒のような赤。
この飛沫、一滴一滴が毒に、酸に思えた。
風が黒と赤をさらう。
が、それでも赤は薄黄に飛び掛る。
それよりも早く、薄黄を覆いかぶさる。
一刻。
自己満足でしかない、かばいきれたという満足感とともに手に、胸に染み込む現実。
そう、赤は彼からもあふれ出ている。
血、これこそがきっかけだったのに、なぜ忘れていたのか。
声が消えている、いつから?
やばい、やばい、やばい。
びくっ、と。
動きとともにかすかな声。
彼が一瞬光ったように見えた。
燃え尽きる間際のろうそくのような、そんな絵が脳裏をよぎる。
まだだ、と力を込め、血の源泉をふさぐ。
ふさがることがまず一歩、死んでいないことの証明。
死者に治癒術は効かない、そこに見えた希望。
だが、失われた血は戻らない、戻せない、与えられない。
ふと、蘇生術に思い至る。
蘇生術は治癒術とはまったく違う、時の術法。
そう、癒すのではなく、時を遡行させるのだ。
しかし万能ではない。
このゲームでは生きるものの時間を動かすことは出来ない。
つまり、彼が死ぬまで蘇生術は使えないのだ。
が、彼を死なせたくはない。
イベントの失敗?
そんなことは、もうどうでもいい。
予感がする。
そう、とてつもなく嫌な予感が。
パッシブスキル「天命」(パーティに命の危険が迫るとき稀に発動)の効果だろうか、経験するのは初めてだ。
天命の効果だった場合、予感の先は絶望だろう。
NPCがパーティに入ることはない。
PNPCが加わったという情報も、攻略板にあがったことがない。
じゃあこいつは?
そう、プレイヤーだ。
ただのプレイヤーじゃない。
プレイヤーは情報端末として指輪を持つ。
絶対に外せない指輪・・・、のはずだったんだけどな。
ああ、おかしい。
なぜ俺の指輪が外れるんだ。
座標といい、指輪といい、運営はどうしたんだ?
悪い癖だ。
こんなことを、考えてる場合じゃない。
そう、蘇生術、蘇生術だ。
蘇生術ではない気もするが、まあ同じ時の術法だ。
流れ出た血の時だけを戻せばいい。
何もしなくても、失敗しても、結果は同じだ。
時間に殺されるより、俺の手で殺したほうが。
いや、いや。
殺すんじゃない、生かすんだ。
なんでこいつに固執してるんだろう、まったく分からない。
だがお前に死なれるのだけは困る。
これくらいじゃないか、今確実にいえるのって。
さあ、仲良くしてくれよ。
元はお前らの仲間なんだ、頼んだぜ。
見てくださった方、ありがとうございました。
更新が非常に遅いのでご注意ください。
今回は比喩をいっぱい使ってみました。
めちゃくちゃ分かりにくいですね、すみません。
さて、血の時間を遡行させて体内に戻すことが、生きている薄黄色君に時の術法をかけていることにならないか、って問題ですが。
なりますってか、生きている人に時の術法が使えます。
この辺はまた後々出てくるので、お楽しみに。




