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覚醒の儀式

エマは空間を歪め、時空の扉を開いた。


イシハルの真実を確かめるため、三人――イシハル、レイガー、そしてエマは、かつての時代へと身を投じた。


時空を越えた先にそびえ立つのは、レイガーの絢爛豪華な居城。


配下たちがレイガーを恭しく迎え入れる中、エマはイシハルの体に透明な魔力結界をかぶせた。


その圧倒的な気配を隠し、周囲に悟られないようにするためだ。


三人は城の奥深くへと進み、廊下の行き止まりにある小さな部屋へとたどり着いた。


扉を開けると、そこは古びた普通の部屋。


床には魔力を失い、風化した魔法陣が刻まれていた。


エマが手を伸ばした瞬間――


「なっ……ガハッ!?」


激しい衝撃が彼女を襲い、壁へと吹き飛ばされた。


鮮血を吐き出しながら、エマは呻いた。


「な、何なの……これ……っ!?」


レイガーは無言のまま魔法陣に触れた。


すると陣が紅く輝き、壁が裂けた。


二人が割れ目をくぐり抜けると、エマも慌てて後を追った。


辿り着いたのは、広大な円形劇場。


その中央の椅子には、一人の老人が佇んでいた。


「お上がりください、主よ」


レイガーの言葉に、イシハルは無垢な瞳で見上げた。


「うん……お兄さんが優しく頼んでくれたから、いいよ」


――トッ、トッ、トッ、トッ……。


イシハルの小さな足が、劇場の縁に触れた、その瞬間――。


――最果ての地、フラウデン村。


人々が突如として涙を流し始めた。


子供が不思議そうに尋ねる。


「お父さん、なんで泣いてるの……?」


「……帰ってきたんだ。あの英雄が……!」


――近代都市、レイガー領の中心地。


人々は歓喜の涙を流すと同時に、恐怖に震え上がった。


――遠く離れたラスティン王国。


玉座の王が静かに目を開ける。


「……最強の覇王が、ついに目覚めるか」


――劇場の中心。


イシハルの体を禍々しい紅蓮のオーラが包み込む。


老人が杖を地へ叩きつけるたび、光の環が現れ、イシハルを縛り上げていく。


「レイガー! 何をするの!?」


エマの叫びに、レイガーは冷徹に答えた。


「……彼はアーカード様ではない。ただの容器だ。アーカード様は滅びた……これは、その魂を呼び戻す儀式だ。哀れだが……『運命を決める者は、己ではない』」


エマは俯き、その現実を受け入れた。


すべては、敬愛する始祖の復活のため――。


劇痛に悶絶するイシハルの視界が、純白の世界へと切り替わる。


目の前に現れたのは、赤髪と紅の瞳を持つ圧倒的な男。


「お掛け、幼き者よ」


男の言葉に、イシハルはそっと隣に腰を下ろした。


「君は……誰……?」


「俺はアーカード・ジョンシール。世界が『始祖』と呼ぶ男だ。……お前はイシハル。二つの精神を宿す者」


「二つの精神……?」


「ああ。二つの魂が入れ替わっているのか、二重人格なのかは分からんがな……。ところで、ボウズ。俺の力が欲しいか?」


アーカードは獰猛に笑った。


「奴らは俺を蘇らせようとしているが、俺にその気はない。俺の力を、お前に譲渡してやろうか?」


「え……? でも、おじさんは消えちゃうんじゃ……」


「くはは! 俺は最強だぞ? 消えはせん。時間がない、答えを聞かせろ」


イシハルの目から大粒の涙が溢れ出した。


脳裏に過るのは、実の父親からの凄惨な虐待の記憶――。


「欲しい……! 生きるために……あの化け物どもに対抗するために、力が欲しい……っ!」


アーカードは静かに涙を拭うと、イシハルの額に手を当てた。


純白だった世界が、一瞬にして漆黒の紅蓮へと染まっていく――。


(つづく)

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