支配者の意思
「立ち上がりなさい、素晴らしい人よ」
石春のその言葉に、レイガーは即座に応じた。
「はっ、我が主よ」
スッと立ち上がったレイガーに対し、エマは不審な面持ちで口を開く。
「レイガー様……私は、この少年がアーカード様ご本人だとはどうしても思えないのです」
その瞬間、レイガーの眼光が鋭く光った。
「身の程を知れ。私が貴様を八つ裂きにせぬのは、ただ我が主への敬意ゆえのこと。私を怒らせ、奈落の底へ落ちたくなくば口を慎め」
エマは肩をすくめ、嘲笑を浮かべた。
「ふふ、正直に言えば……始祖様の弟君であるあなたを恐れていましたわ。けれど、よく考えれば……始祖様なら、あなたが八つ裂きにされる姿をさぞや愉快にご覧になるでしょうね」
――静寂。
深閑とした空気を切り裂き、二人の膨大な魔力が弾けた。
解き放たれた圧倒的な圧力が小屋を破壊し、周囲の巨木を次々と薙ぎ倒していく。
互いに憎悪の視線を交わしながら、レイガーは拳を振り上げ、エマもまた手を掲げた。
衝突の瞬間――二人の拳と手が交差しかけた、その時。
突如として二人の全身に激しい戦慄が走り、その瞳が恐怖に大きく見開かれた。
激甚たる圧力が、嘘のように霧散する。
愕然として二人が視線を落とすと――
そこには、互いの攻撃が激突するまさにその中心に、石春の小指が一本、静かに挟み込まれていた。
石春の瞳からは、一切の光が消え失せている。
「座りなさい、下賤なる僕たちよ」
その声は、二人の魂を直接撃ち抜く雷霆のごとく響き渡った。
抗うことなど許されず、二人はその場に膝を折った。
直後、石春の瞳にふたたび無邪気な光が戻り、彼は何事もなかったかのように遊び始めた。
レイガーは顔を背け、小声でエマに囁く。
「……おい、本当にこれが始祖様なのか?」
エマもまた皮肉めいた笑みを返した。
「エルフの誇りにかけて誓ってもよろしいですわ、間違いなく始祖様です。……まあ、私自身、確信を得るためにあなたを召喚したのですけれど。それで、どう思われますの?」
レイガーは静かに目を閉じ、思案に耽った。
(ふむ……圧倒的な力という点では始祖様だ。溢れ出る存在感もまた然り。無邪気で子供っぽい一面も始祖様そのもの……だが、この人格はあまりにも違いすぎる)
目を開いたレイガーは、覚悟を決めたように呟いた。
「我が一族に伝わる『あの方法』で確認するほかなかろう」
エマは驚愕に目を見張った。
「……まさか、手段を選ばず『あれ』に頼るというのですか……?」
(つづく)




