紅の覇王と小さな手
イシハルとエマは、街の最果てに位置する深い森へと到着した。
エマは魔法を用いて即座に小さな小屋を作り出し、二人はその中へと身を寄せた。
エマは座り込み、葛藤するように思考を巡らせていた。
(この少年は始祖様ご本人で、記憶を失っておられるだけなのか……それとも最悪の可能性……始祖様の力がこの子に宿り、始祖様ご自身の魂は消滅してしまったのか……。……ライジャー様に確認するしかないわね)
エマは自嘲気味に顔を顰めた。
(けれど、あの方を召喚すれば、理由を話す前に私を殺すかもしれない……。ふう、一か八かの賭けね)
エマは意を決し、古の呪文を唱え始めた。
――場面は変わり、遥か異世界の巨大な城塞へ。
玉座に鎮座するのは、赤髪と紅の瞳を持つ威風堂々たる男――始祖エリカドの弟、『ライジャー・ジョンシール』であった。
エマからの召喚の報せを受けたライジャーは、怒りに任せて玉座の肘掛けを握り潰した。
「受け入れよう……!」
ライジャーの巨躯が、時空の渦へと飲み込まれていく。
現代世界――突如として黒雲が空を覆い尽くし、凄まじい雷鳴が轟いた。
召喚の扉から現れたライジャーは、圧巻の覇気を纏って小屋の中へと降り立った。
彼はエマを冷酷に見下ろし、言い放つ。
「ほう……私を召喚するほどの胆威がついたか、エマ」
エマは生唾を飲み込み、強がりを口にした。
「ええ……貴方の野性味あふれる本能も、そろそろ焼きが回ったかと思いまして」
ライジャーの全身から真紅のスパークが弾けた。彼は低い声で威嚇する。
「今言った言葉……もう一度言ってみろ」
その時――ライジャーの身体が不意に硬直した。
全身に戦慄が走り、彼は慄くように己の足元へ視線を落とした。
そこには、彼の裾を小さな手で掴んでいるイシハルの姿があった。
イシハルは無邪気な瞳で見上げ、ポツリと呟いた。
「おじさんの髪の毛、すごく綺麗だね……」
その瞬間、ライジャーは少年の体内から溢れ出る『エリカド』の絶対的な力を察知した。
ライジャーは震えながらその場に膝をつき、平伏した。
「おかえりなさいませ……我が始祖、そして我が兄上……!」
――つづく――




