第6話 協会の内情
翌日の夕方、阿蘇の居酒屋は竜障害の関係者でごった返していた。雑賀たちも篠原、長井、荻と居酒屋に向かった。その目的は情報交換を行うため。特に荻と篠原は事件が起きている時の中継映像を見れていない。もちろん何が起きたかは聞いて知っているのだが、こういうのは個々の集団で様々な意見が出るものなので、こうやって情報の擦り合わせのような事が重要となる。
……という建前で酒を呑もうというのである。
「今回も雑賀さんの名前を出して暴れてたって耳にしましたよ。昨年の段階で逮捕してれば、こんな事にはならなかったのに」
苛々をしっかりと表に出して長井は憤った。雑賀のところにはその情報は入っておらず、また面倒な事になるかもと、げんなりしている。篠原がタンと音を立てて麦酒を呑んでいたグラスを机に置いた。
「もし今回も雑賀を処罰しようっていうなら、大熊先生に言って会派から文句を言ってもらう。昨年と違って今回は協会の運営が竜主会になってるそうだから、絶対に動いてもらえるよ」
「そやけど篠原さん、去年のあの一件で協会って体制変えたんですよね。なんで、ここまで放置してたんでしょうね。普通に考えたら、そんなん、真っ先に手ぇ付けてそうなもんですけど」
その荻の疑問は、前日に長井と雑賀も同じ話をしていた。だが二人とも聞いておらず疑問のままになってしまっていた。
「あくまで先生たちから聞いた話なんだけどね、竜主会が上層部をごそっと変えたんだけど、それに対して天下り官僚たちがまとまって抵抗してるらしいんだよ」
篠原は荻に向かって少し小声で言ったのだが、荻だけでなく、雑賀と長井まで「ええ!?」と驚愕の声をあげてしまった。
「ほな、機能不全になってもうてるって事ですか?」
「そうらしいよ。実はこれまで協会が採用した一般職員ってほとんどいないらしくて、裏の実力者みたいなのが暗躍してて、竜主会から来た役職付きの人の足を引っ張ってるんだって」
「どうりで。あれから協会の話を全然聞かへんわけやわ。そしたら、今回も?」
「どうなんだろうね。岡山で暴れたのとは損害が違いすぎるからなあ。これで協会が何も動けなかったら、さすがに竜主会は黙ってないと思うけど」
篠原がそんな話を荻にしている隣の席でも、似たような話が聞こえてくる。後ろの席からも。聞こえてくる内容はどれも同じで、協会は何をしているんだ、警察は何をしているんだ、竜主会が黙っていないといったもの。中には呉越国の奴ら許すまじというものもある。
「ねえ、篠原さん。世界選手権ってどうなっちゃうんでしょうね。うちの厩舎でも、今日その話でもちきりだったんですよね」
「雑賀のとこもか。うちもその話でもちきりだったよ。大熊先生は、何事も無かったように開催するんじゃないかって言ってた。そんな破壊工作には負けないって意志を示すためにって」
「でも、今回は選考予選でしたけど、もし準決勝、決勝でも同じ事されたらワヤですよ」
雑賀がそう言った瞬間、篠原と荻が首を傾げた。何か変な事を言っただろかと雑賀も首を傾げる。
「ワヤ?」
「あっ、えっと、大変な事になっちゃいますよ」
「ああ、方言か。当然、警備員は増やすんだろうけど、協会が機能不全ぽいって事だと、それすらできるのかどうか。警備員を増やそうって決まるのが決勝の後だったら目も当てられんよな」
篠原の懸念は、すぐに三人とも理解ができて「最悪だ」と言い合った。
「そやけど篠原さん、今回の件って世界選手権の開催中に、その会場を壊されてもうたんですよ? それってもう竜障害だけの話やないと思うんですけど」
「外交問題って事?」
「です。協会には天下り官僚がわんさとおるんやから、政府も巻き込んで対抗ってできひんのですかね?」
荻の言いたい事も理解はできる。だが、雑賀は昨年聞いてしまってる。天下り官僚というのは、そういう事がやれるような人たちじゃないという事を。
昨年、潮騒会の斎藤会長と秘書の稲葉が来た時に酒席で言ってた事を雑賀は話した。それに篠原が眉をひそめた。
「じゃあ何? 天下り官僚ってのはただ単に協会の利益を吸い取るだけの存在で、本来求められている省庁との繋ぎって役割は全く果たしてくれないって事?」
「そんな話を、うちの会長たちが来てた時に聞いたってだけです。竜障害協会も同じ状態かといわれると、それはちょっとわからないですけど」
「だけど、その可能性は十分あるんだろうな。なんせ俺も、先生たちから天下り官僚が足を引っ張ってるらしいって話を聞いたくらいだから」
「最悪の連中」と篠原は毒づいた。雑賀も同様に感じている。もちろん去年の恨みもあるが。
四人の情報をまとめ上げていくと、この先の展開次第ではあるが、現状ではかなり展望は暗いと言わざるを得ない。思わず四人の口からため息が漏れる。無意識に酒が進んだ。
かなり酒が入った頃、荻が雑賀に、あれからも鍛錬を続けているのだけど成果は出ているように見えるかとたずねた。
「かなり出てきてると思うよ。前に見た時とは見違えたと思う」
「ほんま? ねえ、予選の最終戦って見てくれた? 私、あれ会心の騎乗やったと思うんよ!」
「えっと、う、うん、そうだね」
しどろもどろの状態で、雑賀が長井に助けを求める。だが、巻き込まないでくれと言わんばかりに、長井に顔を背けられてしまった。そんな二人を荻がじっとりとした目で見つめる。
「ねえ、雑賀さん。ちゃんと見ててって、私言うたと思うんやけど?」
「いや、だってほら、ねえ。あんな事があったわけで……」
「ふうん。ああ、そうなんや。そらそうやね。私なんぞの騎乗を見るより、暴漢暴れてるんを見てた方がおもろいもんね! はあ、やってられへんわ!」
「いや、長井に聞いてみればわかると思うけど、輪乗りまではちゃんと見てたんだよ」
なんとか射線を反らそうと雑賀が抵抗したせいで、荻が視線を長井に移す。すると長井は慌てて麦酒の瓶を持ち、篠原に注ごうとした。そんな長井の耳を荻が引っ張っる。さらに反対の手で雑賀の耳も引っ張った。
「どたまきた! あんたら、今日はとことん付き合うてもらうからね!」
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