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竜障害 ~もう一つの競竜~  作者: 敷知遠江守
第三章 研鑚 天二級編

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第4話 惨劇ふたたび

 彩夏の生活に休みというものは無い。平日の日中は保育士としての仕事があるし、土日は姉妹たちの面倒を見ないといけない。姉妹たちに夕食を食べさせたら、その後は居酒屋の仕事が待っている。雑賀と会うとなると、そのどこかで上の妹に弟妹の事をお願いして時間を作るという感じしかない。

 一方、雑賀の方は土曜日が競争の日であり、金曜日には調整棟に入らないといけない。二人だけでお出かけする時間をつくるとすれば、基本は日曜日という事になってしまう。なので、彩夏に会うには居酒屋に通うしかないという状況であった。



「そう言えば雑賀さん、まだ綾ちゃんと続いてるんやってね。私は早めに諦めた方が良えと思うんやけどなあ」


 調整棟で篠原、長井と話をしていると荻がやってきて話に混ざってきた。最初は長井と詩織の話をしていた。その話に荻が興味津々。こういうところは荻も女の子なんだなと感じていた。そころが、その話の流れで荻が彩夏の事を口を滑らせてしまう。それに一番反応したのは、やはり長井であった。


「雑賀さん、もう次の人と付き合ってるんですもんね。保科さんに聞いてびっくりしましたよ。奥手に見えて意外と手が早いんですね」

「そ、そんなんじゃねえよ。今回は荻さんと一緒に行った居酒屋にたまたま出会ったってだけで」

「前回も似たような事言ってませんでした? たまたま入った食事処で仲良くなったとかなんとか」

「あれは、お前……その前に色々とあって……たまたまなんだよ」


 そんな二人の会話を聞き、篠原は「競争だけでなく私生活でも僅かな勝機を逃さない男」と言って大笑い。荻は「意外とマメな男」と言って呆れ顔。二人の的確な評に長井も大笑い。雑賀一人が憤っている。そんな雑賀に、荻はそんな事よりも彩夏の事だと話を戻した。


「雑賀さんも、あの娘の境遇は聞いたんやろ? 同情心が湧くんやろうけど、ほな付き合おうとなったら、それ以外が重すぎなんよ、あの娘は」

「荻さんは、彼女の妹たちに会った事はあるの?」

「もちろんあるよ。ちょっと手伝って欲しい事がある言われて何回か行ってる。あの娘、ああ見えて人使いが荒いんよ」

「例えばどんな?」


 少し考え込んだ荻は、過去のあれこれを思い出したようで、少しげんなりした顔をした。


「色々や。舞ちゃんの買い物に付き合ったげてとか、七ちゃんを公園に連れてったげてとか。雑賀さんもきっと利くんの面倒を見てあげてって言われるようになるよ」


 荻からしたら、それで面倒がって少しは冷めてくれるだろうとでも思ったのだろう。だが雑賀は逆に嬉しそうな顔をしてしまっている。そんな雑賀を見て、荻はため息を付いてしまった。


 二人の会話から篠原はある程度の状況を察したらしい。


「荻さん。そういうのは雑賀には逆効果だよ。雑賀は恋人同士になりたいんじゃなく、家族のようになりたいんだから」

「めんどくさい人やわぁ。何かあってからでは遅いいうに」

「それは何? その女性の後ろに面倒な組織が付いてるとか?」

「そういうんは無いと思いますよ。両親が突然姿を消してもうた理由がわからへんみたいやから、何とも言えんへんのですけど」


 『両親が突然姿を消した』と荻はさらっと口にした。だが、その内容はそんなに軽い内容ではない。篠原は急に表情を強張らせた。長井も「えっ?」と声を発して荻の顔を見つめた。


「それは何、荻さんがその女性から聞いてないって意味?」

「ううん。そうやない。彼女も知らへんみたいなんよ。以前聞いた話では、急に親戚が来て、両親がおらんくなってもうたから、うちにおいでって言われたって」

「それは……本当の親戚なの?」

「えっ? さあ、そこまでは。そやけども確かに、ホンマの親戚やなかったら、ごっつい気色悪い話になってまうよね。そこについては全然疑問に思うてへんかったわ」


 それまでは彩夏と雑賀の話だったのに、突然不穏な話になり、一同はシンと静まってしまった。篠原が心配そうな目で雑賀を見る。


「お前の性格からして、それが困難な事だとはわかるけど、危険な匂いを感じたら、その女性からちゃんと距離を取れよ。いいか、二度目のヤクザ絡みは致命的だからな」


 篠原が雑賀の両肩をぐっと掴んだ。雑賀もコクコクとうなづいてはいる。だが、自分にはそんな事はできないと感じていた。もう後戻りはできないのだろうと。


 ◇◇◇


 ここまで予選三戦を終え、雑賀の成績は一着、二着、一着という堂々たるもの。篠原は五着、二着、一着。長井は三着、三着、一着。荻は五着、五着、三着。ここまで四人共に全て五着以内と着順掲示板から外れていない。


 篠原の五着は竜の交換で失態があったせいで、それでも五着に粘り込めているのだから、もう実力では準特は余裕といったところだろう。

 長井は経験を積んで、日増しに上手くなっている印象がある。特筆すべきは、やはりその発走の早さ。最初の直線で確実に先頭に躍り出れるというのはかなりの強みとなっている。


 『西海賞』は準特なので竜交換が一度あり、各一周で計二周。その予選最終戦。


 まずは第二競争の長井。

 以前のように先頭にはこだわらなくなった長井だが、あまりにも発走が良かったと見えて、先頭のまま一周走り終えて装鞍所へ。装丁も特に大きな失敗は無かったようで、先頭で再発走。そのまま先頭を保ったまま、二周目を走り終えて一着で終着。


 次いで第三競争の雑賀。

 いつものように一頭目では中団待機。最後の直線で二頭を抜いて三番手で装鞍所へ。とにかく諏訪厩舎は装丁が早く、先頭で再発走。そのまま先頭を走り、最後の直線で突き抜けて一着で終着。


 次は第五競走の荻。第三競争くらいまでは薄暗い程度だったが、もうどっぷりと夜が更けてきている。


 検量を終えた雑賀は調整棟に戻って来て長井と合流。二人で荻の競争を見ていた。あれから荻はかなり体の軸がしっかりしてきて、そろそろ次の助言をと言われており、じっと中継画面を見ていた。


 すると突然、一部の騎手から悲鳴が上がった。その騎手の方を見ると中継映像を見ている。どうやらどこかで何か起こったらしい。そう感じて名取の中継を見る。特に何も無い。次に富士。ここも特に何も無い。次いで鈴鹿。


 最初は何かよくわからなかった。すぐに気が付いたのは、本来であればそこには下見の中継映像が流れているはず。それなのに観客席を映してしまっている。


 そこに映っていたもの、それは何人かの暴漢が野球の打棒を持って、警備員を殴りつけている映像であった。

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