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第十四話

 パルメラ国王は宮殿地下の採石場へと来ていた。

 今日も多くの奴隷がパルメラのために金を採掘している。

 石を叩く音が耳に響くが、国王は気にもとめなかった。この音のひとつひとつがパルメラに富をもたらすのだ。耳障りなどあろうはずがない。


 採掘場の隅には過労で死んだ者たちが無造作に積まれていた。すでに、小高い丘のようになっている。数日後にはまとめて土に埋める予定だ。そのための一時的な仮置き場だった。

 パルメラにとって奴隷は死んでしまえばゴミと同じ扱いなのだ。



「オラァ、休んでんじゃねえよっ!」


 遠くで、兵士が奴隷を棒で殴りつけている。金属製で、小さな突起物が所狭しと並べられており、小さな力でも十分な破壊力を持った棒である。

 殴られている方はすでに虫の息だった。自力で起き上がることもままならない。それをいいことに、パルメラ兵は気分よくその棒で殴り続けていた。


「ガハッ……か、勘弁して……ください……」

「てめえが休んでるからだろうが! さっさと起きやがれ!」


 言いながら執拗に足と腕を狙って棒を振るう。打ち付けられる度に、奴隷は声にならない悲鳴をあげて倒れ込んでいた。


「面白そうなことをしておるではないか」


 その様子を見ながら、国王は舌なめずりして近づいて行った。


「こ、これは陛下!」


 棒で殴り続けていたパルメラ兵が、近づいてくる小柄な老人に気付き、慌てて敬礼をする。


「お見苦しいところをお見せいたしました!」

「よいよい、パルメラの国益にならぬ者なら何をしてもかまわん。どれ、ワシもやってみようかの」

「はっ」


 奴隷を殴っていた兵士が、畏まりながらその棒を国王に手渡す。


「身体を動かすのは久しぶりじゃ」


 そう言って、貧相な腕で棒を打ち付けた。

「ぎゃ!!」と奴隷が悲鳴を上げる。

 その反応が国王にとっては快感だった。


「おほ、痛がる顔がなんともたまらんのぉ」

「お見事です、陛下」


 棒を受け取ろうとする兵士を手で制して、国王は続けざまに棒を振るった。


「ぎゃ! や、や…め……て……」


 奴隷の悲痛な叫びも、耳に届かない。

 もはや、国王にとっては愉しい遊びに他ならなかった。


「この、この、この!」


 すでに奴隷は声を上げることすらもできず、うずくまるだけであった。


「はあ、はあ、はあ……。なかなか死なんのぉ」

「こいつは、元グランの騎士だった男ですから身体が頑丈なんです」

「そうか。ならば、頭を狙ってみようかの」


 言うなり、倒れ込む奴隷の頭上に移動する。とたんに、奴隷の顔が恐怖にゆがんだ。


「ひいいっ」


 怯えながらズリズリと這って逃げていく。


「逃げんじゃねえよ」


 すぐにパルメラ兵が足で押さえた。


「陛下が直々に引導を渡してくれるっていうんだ。ありがたく思え」

「た、助けてください……」


 地面にひれ伏しながら涙を流す奴隷に、パルメラ兵は言った。


「あきらめな。そもそも、てめえが休んでるからこうなったんだよ。あの世で後悔しやがれ」


 押さえつけられながらも暴れまわる奴隷の頭上に、国王は棒を振りかざした。

 こんなものを頭に食らったら、まず生きてはいない。


(ここの連中は鬼だ──)


 そう思った矢先、宮殿のほうから声が上がった。


「なんだ、てめえは!」

「どこから入りやがった!」


 騒がしい声に国王が棒を振りかざしたまま振り向く。すると、宮殿へと続く階段の入り口から屈強なパルメラ兵の二人が血しぶきを上げながら転がり落ちてきた。


「ひゃっ!!??」


 国王は飛び上がりながら悲鳴を上げた。

 倒れ込むパルメラ兵はすでに死んでいる。額に大きな鈍器で殴られたような跡がある。


「な、何奴じゃ!」


 困惑する国王の前に、一人の大男がのっそりと現れた。

 黒いコートを羽織った白髪まじりの中年。手には巨大な剣が握られている。


(あ、あの男は……!)


 その姿を見た瞬間、国王の顔から一気に血の気が引いた。


「ゼ、ゼノ! なぜここに!?」


 それは、紛れもなく5年前にこの宮殿で出会ったグラン王の客将であった。暗黒大陸でオリハルコンの剣を手に入れ、魔神を殺した男。そして、ついには魔王を倒した勇者として名を残した英雄の一人。


 5年間、音沙汰もなくどこかで隠遁生活を送っているか野たれ死んでいるのかと思っていた。

 そんな伝説の戦士が目の前にいる。



 採掘作業をしていた奴隷たちも、手を止めて入り口に立つ男に目を向けた。

 周りで見張っていたパルメラ兵たちも、殴るのを忘れて巨剣の大男に目を奪われている。


 ゼノは巨剣を構えると、身近なところにいた兵士二人に剣を振るった。

 大きく横に一直線させた巨剣の刃先がパルメラ兵の鎖かたびらを粉砕し、その鎧ごと叩き斬る。


「ぎゃ!」

「げふ!」


 茫然と立ち尽くしていたパルメラ兵が小さな叫び声をあげて倒れ込んだ。地面には身体が上下に半分に分断されたふたつの死体が転がった。


「──ッ!!」


 ここにきて、ようやく兵たちが我に返った。

 勢いよく剣を抜き放つと、いっせいにゼノのまわりに集まって行く。その数は50を超えていた。並大抵の戦士ではかなうはずもない。


 しかし、国王だけはじりじりと後ずさった。

 あれが本当にうわさに聞くゼノであるならば、これでも足りないぐらいだ。

 そもそも、ゼノである可能性を考えてパルメラ最強のガーベラ将軍をむかわせたのだ。

 ここに彼がいるということは、ガーベラ将軍は負けたということになる。


 額に汗を浮かべながら、国王は逃げ道を探した。


「てめえ、ただですむと思うなよ!」

「簡単には死なせねえからな!」


 パルメラ兵の叫びなどゼノの耳には入らなかった。彼の目線は国王に向けられている。

 国王はゾクリと背筋を凍らせた。


「み、みなのもの! 殺せ、こやつを殺すのじゃ!」


 国王の命に従って、兵士たちがいっせいに飛び掛かる。


「…………」


 ゼノは片足を下げ腰を低く構えると、飛び掛かってくるパルメラ兵に向かって一気に巨剣を横一直線に振りぬいた。


「───ッ!!!!!」


 突風で粉塵が巻き上がる。まさに旋風だ。

 その土煙の中で国王が目にしたものは、真っ二つに割れたパルメラ兵たちの姿だった。


 大量の血を地面にぶちまけながら、飛び掛かっていった兵士たちが崩れ落ちる。


「ひいいっ!!!!」


 その想像を絶する光景に、国王は逃げの姿勢を見せた。

 ゼノがそれに気づくと、猛然と走り出す。その目は、明らかに国王だけに向けられていた。


「と、止めろ! こやつを止めるのじゃ!」


 まわりのパルメラ兵に指示を出し、一目散に逃げ出した。

 しかし、ゼノの進撃は止まらない。

 壁となって立ちはだかる兵士たちを、その勢いのまま剣を振るい、吹き飛ばしてゆく。

 まさに、鬼神。

 その言葉がぴったりなほど、ゼノの攻撃は激しいものだった。

 まるで、今までの怒りが爆発したかのように、猛然と国王に向かって突進していく。


「ま、待て! 待つのじゃ! ワシを殺してもグラン王はもう……」

「ほざいてろ」


 兵士たちの必死の守りも、一切通用しなかった。次々と巨剣で吹き飛ばし、斬り倒しながら近づいて行った。

 国王は、足をもたつかせながら必死に逃げ惑う。すでにその身体は手の届く範囲にいる。

 グッと手に力を込め、猪突猛進しながら巨剣を真上に振りかざす。


「ひいいっ……」


 恐怖にゆがむ国王の頭上に、ゼノは渾身の一撃をお見舞いした。


「ぎゃひっ!!」


 パルメラ国王は、小さく叫びながら頭から真っ二つに分断された。彼を切り裂いた巨剣はそのまま地面に突き刺さり、その衝撃で地面が陥没する。

 身体中から血を噴き出しながら、パルメラ国王は絶命した。

 その顔は人間狩りをしていた時のグランの民たちと同じく、恐怖と絶望にゆがんでいた。


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