第五話
巨大な剣を持つ男の姿に、パルメラ兵たちは明らかに狼狽していた。
いったい、この男は何者なのか。
明らかに只者ではない雰囲気を醸し出している。
「なんだてめえ……」
パルメラ兵の一人が剣を構えながら問いかける。
明らかに自分たちの持っているロングソードよりも二まわりは大きい。いや、大きさの比率でいったらグレートソードとダガーナイフぐらい違うかもしれない。
それほどまでに、目の前の男の剣は異様で巨大だった。
しかし武器が大きいからといって強さに比例するとは限らない。大きければ大きい分だけ、重くもなり、扱いづらくなる。むしろ、動きが遅くなることで隙ができやすくなるはずだ。
パルメラ兵たちは、背中から冷たい汗を流しながらも不敵に笑った。
「へ、へへ……、見た目で誤魔化そうったって、そうはいかねえぜ。んな重そうなもん、どうやって扱うっていうんだ?」
男は肩に担いだ巨剣を前に突きだして、静かに構えた。ずっしりとした重厚感。
パルメラ兵たちは思わず一歩引いた。
「な、なんだ、やろうってのか!?」
「オレたちゃ、パルメラの兵士だぞ!? パルメラを相手にケンカを売る気か!?」
男はまるで意に介すことなく一歩踏み出す。
パルメラ兵たちはじりじりと後ずさった。とても斬りかかっていけるような雰囲気ではない。
「どうした、かかってこないのか。それとも、怖くて漏らしたか」
男は無表情のまま挑発するようにそんなことを言った。とたんに、パルメラ兵たちの顔が朱に染まる。
「んだと、こら!」
彼らの一人が、ずいっと前に出た。
こんな中年にバカにされて、黙ってなどいられない。
ロングソードを構えながら、巨剣の男と相対する。
鋭い眼光で、男を睨み付けた。
「雑魚かどうか、試してみやがれ!」
言うなり、パルメラ兵はロングソードを振りかざした。
「ひっ!!」
地面にへたり込んでいたメルが、思わず声をあげる。
まずい。
この人たちは本気だ。本気で殺すつもりだ。
胸の鼓動が高まる。
4対1なんて、勝てるわけがない。
「くたばりやがれ!」
パルメラ兵が猛然と斬りかかる。
その瞬間、巨剣の男は右足を一歩引き、横殴りに剣をスイングさせた。
「──ッ!!」
風を切り裂くように横に一閃させた巨剣は、パルメラ兵の剣を叩き折り鎖かたびらを粉砕した。
「がはあっ!!!!」
その巨剣に不自然に身体を折り曲げたパルメラ兵は、低い叫び声を上げながら、遠くまで吹き飛ばされた。
それはまさに斬る、というよりも叩きつけるという攻撃だった。遠くまで吹き飛ばされたパルメラ兵は、ピクピクと痙攣しながら地面に転がった。
思わず、残りの兵士が悲鳴をあげる。
「ひいいっ!」
「な、なんだってんだ、こいつぁよ!」
「や、やべえぜ、こいつ、ばけもんだ!」
叫ぶやいなや、恐れをなして一目散に逃げ出した。
派手に転がりながら来た道を戻って行く。
あとに残されたのは、地面にへたり込むメルと謎の中年男だけだった。
(な、なんなの、この人……)
メルは驚愕の表情で目の前の男を見ていた。
男は何事もなかったかのように懐から布を取り出すと、丁寧に剣を拭きはじめた。
「あ、あの……、どうもありがとうございました……」
メルは震えながら立ち上がると、とりあえず礼を述べた。彼が何者なのかはわからない。が、助けてもらったのは事実だ。礼だけでも述べねばなるまい。
しかし、男は表情を崩すことなく冷静にこたえた。
「別に礼など不要だ」
「あ、す、すいません……」
思わず謝ってしまった。
本当に謎だらけだ。
そもそもこの男、グランファシルに向かっていたのではなかったのか。
「あ、あの、あなたはいったい……。普通の旅人ってわけじゃなさそうですけど……」
男は無表情のまま剣を布でくるむと、背中に背負ってベルトで固定した。
「人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀ではないか?」
「す、すいません……!」
再度、謝る。
意外と細かい。
「私は、メル。この先のナターシャ村の住民です」
「……ゼノだ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
(そ、それだけ!?)
ゼノと名乗った男は、それ以上何も語らなかった。ますます謎が深まる。
「あ、あの、昨日はグランファシルに向かっていましたよね?なんで、こんなところに?」
「………道に迷った」
「は、はあ……?」
メルは、強烈なデジャヴを感じた。
どうやらこの男、かなりの方向音痴らしい。
いや、方向音痴どころではない。
昨日は西に向かって歩いて行ったはずなのに、今日はなぜか東から姿を現した。これはもはや、方向音痴のレベルを超えている。どこをどう歩いたらそうなるのか。
メルは少し考えて、ゼノに提案した。
「え、と。よろしければ、ナターシャ村に寄って行きませんか? 地図を差し上げますよ。今日のお礼もしたいですし。それに、その村からでしたらグランファシルに通じる街道もありますから」
「礼は不要だと言ったはずだ」
「それでは私の気がおさまりません! ぜひ、そうしてください。ナターシャのおいしい料理も差し上げますから」
メルはゼノのコートの袖を引っ張りながら無理やり連れて行こうとする。
「お、おい。引っ張るな。誰も行くとは言っていない」
「いいえ、ぜひ来てください! 無理矢理にでも連れて行きます!」
メルとしては、この男をこのまま放っておくわけにはいかなかった。これほど方向音痴な男はいない。地図もなしで一人にさせれば、いつまでたってもこの森の中で同じところをグルグルと回ってるだろう。それでは、野たれ死ぬ運命だ。
メルは嫌がるゼノの腕を引っ張って、無理やりナターシャ村へと連れて行くのだった。




