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女王様

 [クィーンアント]体長10メートルほど、巨大で長い腹部を持って大きな頭部には4メートルはあろう大顎を携えている。そして他のアリとは違い前足部分が5メートルほどの鎌状になっており、女王の名に相応しい見た目である。セヴン達より通常では格上の討伐隊パーティが倒された事を考えると、レイド級ボス(数パーティで討伐するレベル)なのは間違いないだろう。

 今現在セヴン達が対峙しているモンスターであり、荒地にあった開拓民の村を壊滅させたモンスター達の産みの親だろうと思われる。


「さぁ~て子供は全部駆逐しちゃったよ女王さん。後はお前とこの繭を掃除してお終いだ!」


「バニーちゃんと玄ちゃんはスロープの上で待っててちょうだぁ~い。ココは旦那様と私でお掃除しちゃうわぁ」


「えぇ!?でも私も何かお手伝い…」


 そう言って残ろうとするバニアの口にヘラルーは自分の指を当てて、最後まで喋らせる事を止めた。


「大丈夫よぉ、旦那様と私なら平気だからぁ。玄ちゃん!男の子ならバニアを守ってあげてねぇ」


「ほんまにやるんかいな…まぁワイはおっても邪魔になるやろし、その頼み確かに承りでっせ!」


 未だに納得の行っていないバニアの手を取り、玄界はスロープを上り上の階へと避難する。そして2人が安全な場所に移動した事を確認した後、セヴンとヘラルーは戦闘態勢を取る。


「ああぁ!しまった!!ギャラリーが居ないと燃えないっ!!」


「大丈夫よ旦那様、私はずっと傍で見てるからぁ」


「うぅむぅ…さっさと終わらせようかヘラルー!」


【クリエイトサモン!】【ブーステッド!】


 ブォンッ!ゴォォォォォオオッ!!


 ヘラルーの拳を漆黒の籠手ガントレットが包み込む。そして次に唱えられた魔法が発動すると共に全身から赤紫のオーラが吹き出しヘラルーの体は赤紫色の光りに包まれた。


「あら?旦那様、女王の奥を見てみてぇ」


「ん?」


 女王の背後には土の塊の様な物が数個盛られており、何か解らないが嫌な予感がする。


「ちょっとの間ココ頼めるか?ヘラルー」


「いってらっしゃぁ~い」


 返事と同時に女王の前に出るヘラルーに女王は前足の鎌をまずなぎ払って来る。凄まじい風切音と共に襲い掛かって来る鎌の一撃を難なくガントレットで防ぎはじき返す。その隙を縫ってセヴンは女王の背中側へと向かい背後の不気味な土の塊へと向かう。





「なんじゃこりゃぁああぁぁっ!」


 セヴンが見た物は…


 巣の素材と同じ土ではあるが小高く盛られた土の中に人の顔が無数に浮かんでいた。ゲッソリとやせ細った物や、既に白骨化が進んでいる物、そしてまだ比較的に新しいと思われる物の中に、入口で出会った討伐隊の顔があった…。


「こ、これは餌なのか?ウボェェエエェッ!!」


 キラキラと光る読者には見せられない物を噴出させながら、現状の把握に努めるセヴン。普通の人間であれば一生トラウマになるであろう正視出来ないその光景を、なんとか踏ん張り乗り越える。

 セヴンが近づいた事にも反応すらしない顔達は、どうやらマヒ毒か何かで自由を奪われ、土の中で繭からかえるアリ達の養分なのか、もしくは子供を産む為の女王の養分なのかは解らないが、ヤツ等のエサなのは間違いないだろう。そして古い物は恐らく開拓村の人々の物だろう。


 冒険者であれば死亡した際、祝福を受けた神殿にて復活する事が出来るのではあるが、こうしてある意味飼い殺し状態にされたのであれば神殿にて復活する事すらできない。ある意味抜け道的な部分でもある。


「これは…グロイ…。ちょっと待ってろ」


【クリエイトサモン】


 呼び出した物は原始的ではあるがこの様な時に一番役に立つシャベルである。とりあえずまだ捕えられて間もないセヴン達に好意的だったパーソンと名乗った男をエッチラオッチラと掘り出す。


「土から出してもまだ毒が回ってるか、毒消しで回復すれば良いんだがな」


 なんとか掘り出した大きな体躯のパーソンに便利バッグから毒消しを取り出し与えてみる。すると顔に血色が戻りうめき声をあげ始めるパーソン。


「う、ううぅ…おおぉぉぉお」


「おっちゃん大丈夫…じゃないだろうがともかく今はしっかりしろ!」


 フルプレートメイルの兜で隠れていたツルリと光る頭部を、ペシペシと叩いて意識を戻す。


 ペシペシ……ペシペシ…ペシペシペシペシ…ペシペシペシペシペシペシペシペシッ!


「痛いわ馬鹿たれっ!!」


 何度も叩かれた事で完全に意識を取り戻したパーソンは叫んだ後身を起こした。


「いや…ゴメンよ、あんまり良い音と叩き具合だったもんでツイ…」


 そんなやり取りをしていたセヴンに、女王の攻撃の流れ弾と言える鎌によって掘り起こされた土が飛んでくる。そしてそれを見事にくの字回避をして避けるセヴン。


『旦那様、そろそろコッチも手伝ってよねぇ』


『おぉ!?悪い悪い』


「おっちゃん、他の人は頼んだぞ、コレ手持ちの毒消しだ」


 ヘラルーからの念話が届き、そう言ってシャベルと何個かの毒消しをパーソンに手渡して、戦線復帰をするべく女王の前面へと走り戻って行く。何やら驚愕の表情をしていたが、後は任せても大丈夫だろう。




 女王と1人対峙し善戦を見せるヘラルーから少し離れた場所にセヴンが戻って来た。


「お帰りなさ~い旦那様」


 そんな何時もと同じ妖艶で気の抜けた言葉を放つヘラルーではあるが、ガントレット以外の部分にはスリ傷や切り傷が目立ち、ただでさえ際どい衣装はもはや着てる意味さえ持たない状態であった。


「やっぱキツイか?」


「そうねぇ、まだこの体のレベルも低いしぃ、ブーステッドで倍の能力に底上げされていても今のままじゃちょっと倒しきれないかもしれないわねぇ」


 本来女神であるヘラルーであれば、全力を出せば例えレイドボスであっても鼻息でも吹き飛ばしかねないほどの実力差なのだが、現状ではそうもいかない状態なのである。むしろ1人で良く抑えてると言った方が良い。


「とりあえず色々と試してみるか!」


【クリエイトサモン!】


 女王の足元から2メートルほどの鋼鉄のトゲが、女王の体に突き刺さる様に飛び出す。


 ガイ~~~~ンッ


 しかし硬度も大きさも現在のセヴンの力で呼び出される物質では女王に刺さる事すら敵わない様だ。


「コレはちょっとキツイかもなぁ」


 そんな弱音を吐いているセヴンを、女王の攻撃を辛うじて受け止めながらジ~ッと見つめるヘラルー。


「旦那様、ギャラリーなら私がいるじゃないのぉ?もっと魔力をひねり出してよぉ!」


「ひねり出すってあ~た観客が1人じゃどうもなぁ…」


 決定打に欠け、このままだとジワジワと追い詰められてしまう状況ではあるのだが、今一渾身の作戦も思い浮かばず、鋼鉄のトゲでの攻撃を無駄と解りつつも続けるセヴン。

 だがしかし、そんなセヴンに対していくつかの視線を感じる。その視線にセヴンは顔を向けると、そこには先ほど助けたパーソンが次々と仲間や、まだ生気の感じる村人を何人か助け出しており、その人々の視線がヘラルーとセヴンに集まって来ていた。


「キタコレッ!!来るぞ来るぞ来るぞ来るぞっ!!」


 そう叫びながら自分だけに視線を集める為に、右へ左へと独特のステップを踏み、不思議な踊りを踊り出すセヴン。右に左にと交互にフニフニと動くその姿はダンスとは言いがたいのだが、本人はいたって本気である。

 見る者からすればこんな状態の時に何をしてるのか全く謎なのだが、その分視線を集める事には成功した様だ。


「きんもちいぃぃぃいいいいぃひぃっ!」


【クリエイトサモン!】【クリエイトサモン!!】


 セヴンの体から禍々しいピンクのモヤモヤとしたオーラが現れ、[見られる者]と[異常快楽者]の効果で身体能力と魔力が飛躍的に上昇し、女王の体の2倍もあるであろう魔法陣が女王の頭上と足元に現れる。


 ジャキーーーーーーーーンッ!!!


 先ほどまでよりも数段巨大で光沢のある漆黒の棘が上下から女王を挟むように無数に襲い掛かり、女王の体に突き刺さる。


『グュェェェェェェキュキュキュッ!!』


 自らの体に無数の巨大な棘が刺さりいくつもの穴を穿ち、聞いたことも無い様な悲鳴をあげる女王。


「止めだヘラルーっ!!」


【クリエイトサモン!!】


 ヘラルーの拳を纏っていた漆黒のガントレットの右手側が5メートルほどまでにも巨大化する。


「汝死して我が主の栄光の糧となれっ!!」


 ゴォォォォオオオオオオォォッ!!


 ズドーーーーーーーーーーンッ!!!


 ヘラルーの巨大化した拳は、無数の漆黒の棘の間覗く女王の顔面にめり込み、棘と共に砕け散った。

 そして遂に[クィーンアント]は活動を停止し、光りの粒子となり四散し始める。結局大型のレイドボスをなんだかんだと2人だけで討伐してしまったセヴンとヘラルーであった。



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