普通が一番
耳を澄ませながら先頭を迷う事無く進んで行くヘラルー、いたる所に障害物となる岩山がゴロゴロと転がっており、なかなか面倒な地形だ。
「旦那様コッチよぉ」
ヘラルーに案内されるがままにデコボコの荒地を進んで行く。小さい岩山の隙間を何度も何度も抜け、結構な距離を進んだ所で目の前に岩なのか土なのか解らないがそういった素材で作られたちょっとした塔の様な物を発見する。
「この中で音が消えたわぁ、多分ココねぇ」
「この塔みたいな物は何でしょうか?」
「コレは…アリ塚やあらへんか?」
「アリ塚?」
アリ塚とは、ある種のアリが地中から地上へ小高く盛り上げてつくる巣で、内部は多数の小室と入り組んだ通路からなり、女王を中心に数万以上の構成員が社会生活をしているアリの巣である。玄界の故郷である[ナニワ]の湿地地帯にコレに似た巣を形成するアリが生息しているらしい。
「でもこんなでかいのは見た事あらへんわ」
「って事はこの巣の中に居るのは通常では考えられないサイズのアリ、要するにモンスターアリの巣って事か、て事は凄い数が居そうだな」
「それではココが村を襲ったモンスターの巣で、まず間違い無さそうですね」
追跡をし、エルフの国への通行の妨げとなっているモンスターの巣を発見したのだ、目的地はココだ中に入らない道理は無い。入口も発見し覚悟を決め中へ侵入しようとしたその時、ヘラルーがいきなり立ち止まり後ろを振り返る。
「旦那様、どうやら別の冒険者みたいよぉ」
ヘラルーの言葉に振り返ると、確かに何者かの複数の足音が聞こえて来る。中に入るのを一度止め、その足音の正体が現れるのを待つ事にする。
すると自分達の通って来た岩山の影から冒険者らしき8名の集団が現れた。おそらく[キュブラ]の街で聞いた討伐パーティなのだろう。
「なんだお前達は?冒険者か?」
強面の三白眼のフルプレートメイルを着込んだヒューマンが声をかけて来る。この男がこのパーティのリーダーなのだろうか?他にも軽装の冒険者が4名に重装備が1名、ローブを着ているのが2名である。
「はい、キュブラの街でこの辺りにモンスターの群れが出て、村が滅ぼされたと聞いたので、その討伐に来ました」
セヴンの話しを聞き、冒険者達はお互いを見合わすと噴き出す様に笑い出した。
「はははははっ!お前等4人でか?いったい冒険者ランクいくつなんだよ」
やれやれと言った感じで三白眼の男が聞いて来るので、別に答える必要は無いとも思うのだが、余計な面倒を増やしたくないので正直に自分達の冒険者ランクを伝える。
「ぎゃははははっ!コイツ等何も解っちゃいねぇ!この巣はなぁキラーアントの巣なんだよ!」
キラーアントとは大きさは大体1メートル前後の攻撃性の高いアリ型のモンスターで、主に集団で行動し、稀に大量の群れで襲って来るので、結構な実力が無い場合大変危険なモンスターとされている。
正直常識的な冒険者では、そのモンスターの巣にセヴン達の実力で、またそのランクで挑むには無謀が過ぎる話しではある。
「ご忠告感謝します。ですが俺達も冒険者の端くれですので、危険なモンスターを野放しには出来ず、少しでも討伐できればと思って来ました」
「やめとけやめとけ!どうせ直ぐ神殿に帰るだけで無駄に終わるぞ。お前等はとっとと帰って宿屋で寝て待ってるんだな。俺達が全滅させて帰って来るのを!あはははははっ!」
そう笑いながら男は他のメンバーを引き連れて先に中へと入って行ってしまった。
「すまんなぁ、あの男バチュラと言うんだが、実力はランク5とそこそこあるのに、どうも性格に難があるんだよ」
最後尾に居た大きな体躯の、こちらもフルプレートメイルを着てポールアックスを肩に担いだ男が申し訳無さそうに声をかけてくれた。
「俺はパーソンと言う、ランクは4だ。君達の勇気は買うが、バチュラの言っている事も事実ではある。だから悪い事は言わん、俺達が帰って来るのを街で待ってるのが一番だと思うぞ」
「わざわざありがとうございます、邪魔にならない様に気をつけます」
そうか、と諦めた風でパーソンもメンバーを追いかけて中へと入って行く。セヴン達は軽く会釈をし、パーソンが中へと消えて行くのを見送る。
「なんやねんあのバチュラちゅう男は、気分が悪いにも程があんで!でも聞いたやろ?キラーアントの巣やったらやっぱりワイ等だけやと普通は無理ちゅうもんやで」
「どうするんです?セヴン君。普通なら無理らしいですよ?」
「そっか~普通なら無理かぁ~普通ならかぁ~」
そう言ってニヤリと口元を歪めるセヴン。何か方法を思いついたのか、悪い顔をしたまま中へと1人で入って行く。
「まぁ何とかなるだろう」
何も心配して無いかの様に後ろから追いかけて行く女性陣に、仕方なく玄界も中へ入る事を決めセヴン達はアリの巣へと突入したのであった。
セヴン達は中に入ると、数匹の[キラーアント]と遭遇し戦闘となる。だが先に入った討伐隊のおかげなのか、大量のアリに襲われる事はまだ無かった。しばらく中を探索してみる。
中は広く余裕で人が通れるサイズの通路が無数にある。そして地面は外とは違いデコボコとしておらず、飴細工や琥珀の様な色をしている部分まである。
中央部に位置すると思われる場所に大きな広間があり、その周りを放射線状に通路と部屋が点在しており、それは全て繋がっていて、中央の広場へと通じている。探索中に討伐隊に出会わなかった事から考えて、奥にあったスロープを使って下へと降りて行ったのだろうと考えられる。
「大体の内部構造の把握は出来たな。あとは仕掛けをして中のアリを殲滅するだけだな」
「仕掛けってどないするんや?」
「まぁこの広場を中心に色々とな!」
そう言って不敵な笑みを浮かべるセヴン。碌な事じゃないだろうと思われるので玄界の顔は困惑している。
「旦那様、中々良い笑顔をしているわねぇ」
「何度か見た事のある顔ですね」
メンバーの反応を余所に、各自に簡単な説明をして、戻る道々で【クリエイトサモン】を使って仕掛けを施しながら中央の広場を目指していく。そして仕掛けが全て終わり中央の広場に辿り着くと広場の中央で立ち止まるセヴン。
「それじゃぁ仕掛けも終わった事だし、普通の冒険者は普通の事をして、この巣を攻略する事にしようかね」
【クリエイトサモン!】
地面に魔法陣が現れそこから見た事のある物体が召喚される。自転車だ。
しかし今回の自転車は手で方向を操作する場所に鈴の様な物が追加されていて、2人乗り用に改造されている。
チリンチリンチリンッ
「良し音もオッケーだな」
「こんな所で自転車出してどないするんや?」
「まぁ、ちょっと待ってくれ、バニーとヘラルー、こっちへ来てくれ」
そう言って2人を呼び、何やら玄界の聞こえない場所でゴニョゴニョと話しをしている。気になって仕方が無い玄界が近くへ寄って話しを聞こうとして来た時、会話は既に終わりセヴンが玄界へと近づいて来る。
「よし!これで全て整った!玄ちゃんそれじゃぁ行くぞ!」
嫌がる玄界を自転車の後部に乗せて、セヴンは自転車を発進させる。




