第3話 魔王、イジメられる。
エリザに連行された場所は、この村にある「自警団の訓練場」。
若い男が十数名、木の剣で訓練をしている。
本来、12歳以上でないと自警団に入団できないが、エリザは例外。
なんでも「特殊な一族の血」を引いており、7歳でありながら大人と渡り合えるほど、異常な身体能力を持つ脳筋女だ。
そんなエリザのはからいで、我も特別に「訓練生」という形で場を貸してもらっている。
ハッキリ言ってありがた迷惑だ。
即退団し、今すぐ家に帰りたい。
なぜエリザは、我に付き纏うのか?
それは、前に「余計なこと」を言ったのが、事の始まりだ。
実は我とエリザには共通の目的がある。
それは「クソ勇者カイラスを倒す」こと。
詳しくは知らんが、エリザの一族はヤツに因縁があるらしい。
しかし、この村の者は「カイラスの支配から逃げ出した臆病者」の集まり。
エリザと同じ志を持つ者など、自警団員の中にすらいない。
自分達の事でいっぱいいっぱいなのだ。
だから同じ志を持つ我と出会えた事が、心底嬉しかったのだろう。
だが……それからは地獄だ!
「アンタを私の次に強い剣士にしてあげる」
そうエリザは言い、毎日のように稽古という名の「暴力」にあっているのだ!
この前歯もそう!
エリザの稽古が過酷過ぎて「この女サイクロプスめ! 脳まで筋肉で出来ているのか!」と発した途端、間髪入れずヤツの拳が我の口に飛んできたのだ。
その事をトーマに言ったら、「どうせ生え変わるし、子供はそのくらい元気な方がいい。てかレオ……ハハハハ。面白い抜け方したな!」と、笑いながら珍回答をしてきた!
だから先ほども、我の事を敵に売ったのだ!
エリザは正面に立ち、木の剣を我の足元に投げる。
「さぁレオ。剣を拾いなさい。今日は特別にアンタから先に斬り込んでいいわ」
「いや……僕は剣士じゃなくて、まお……魔導士志望なんで」
「はぁ? アンタ魔法なんて使えないじゃない! それにいざって時、自分を守れるのは剣よ。さぁ取りなさい! 取らないなら、こっちからいくけど?」
なんでも力で解決しようとする脳筋女め。
だからお前は女サイクロプスなんだ!
我は地面に落ちた剣を拾い、頭の上で構えた。
「いくぞ! うおおお!」
そのまま走りだし、エリザに飛びかかる様に斬りつけるが、剣で簡単に防がれる。
「あんたねぇ。そんな攻撃、当たるわけないでしょ? 冗談はそのマヌケな歯抜け面だけにしなさいよ。 それにしても……ハハハハ。いつ見ても笑える顔ね」
お前がやったんだろうが!
エリザが剣を振り抜くと、我は後へ倒れて尻もちをつく。
この怪力女め……あの細腕に何故こんな力がある!
「立って。一太刀でも私に浴びせたら、今日の稽古は終わりにしてあげる」
言ったな?
身体は子供でも、頭脳は未だ魔王のまま。
実戦経験なら、我の方が圧倒的に上なのだよ!
我は剣を掴んでない方の手で、地面の雪をこっそり掴む。
そして立ち上がる瞬間に、掴んでいた雪をエリザの顔に投げる。
「つめた!」
エリザが一瞬、目を反らす。
お前の前歯もへし折ってやる! 笑われる屈辱を味あわせてやる! 死ね、エリザ!
我は木の剣をエリザの口元めがけて思い切り振り抜くが、エリザは身体を反らして回避する。
「なんだと!」
我は思い切り剣を振った勢いで体勢を崩し、回転しながら地面に倒れる。
「クソ! あと少しでアイツの歯を……」
「アンタ……私の前歯を折ろうとしたの?」
振り向くと怒りの表情を浮かべたエリザが、剣を振りかざしていた。
「もう許さない! 二度と舐めたマネが出来ない様、今度は心をへし折ってあげるわ!」
やばい……殺される……。
我は頭を両手で守り、亀の様に背中を丸める。
襲いかかる痛みに怯えるが、暫くしても何も起きなかった。
恐る恐る覗いてみると、エリザの剣を握る「白髪混じりの老人」がいた。
「これエリザ。勝負はついておる。そんな殺気のこもった一撃を放ったら、レオが死んでしまうぞ」
「お爺ちゃん」
助かった……。
この軽鎧を着た爺は「ドミニク」。
この村の自警団長であり、齢60を越す老剣士だが腕は一流。
エリザと血は繋がってはいないが、エリザの一家とは浅からぬ関係があるとの事。
エリザ自身も「お爺ちゃん」と呼ぶほど慕っている。
「ドミニクさん。コイツ酷いんです! 無理矢理連れて来て、木の剣で僕の事を……ううう」
我は知っている。
人間の大人は「泣く子供に弱い」とな。
大好きな爺に罰せられろエリザ!
「馬鹿もん!」
「へ?」
我はドミニクの意外な発言に驚く。
「レオよ。お前はカイラスを倒す為、エリザと共に剣の腕を磨いておるのだろう?」
は? バカか? 我は剣士になりたいなんて、一言も言ってない。
エリザのヤツ……間違った情報を吹き込みやがって。
話がこじれるから合わせるか……。
「え……あ、はい」
「なら、この程度で泣きごと言ってどうする!」
余計怒った。選択ミスか……コイツ、人様の子に容赦ないな。我は一応、子供だぞ?
「それに男児たる者、いざという時は女性を守れる強き男でいなければならん!」
この爺……もうボケが始まっているのか?
こんな怪力女を守ろうとするヤツなんて、この世におらんわ!
「……お爺ちゃん、アイツ絶対反省してないよ。今そんな顔してたよ」
エリザめ……余計な事を。ホント、ムカつく女だな!
「レオよ。訓練所の隅で素振り300回じゃ」
「そっそんなぁ……」
「先ほどの目つぶし、女性の顔面を狙う斬撃。あんな野蛮な剣、わしが断じて許さん! 剣士として、正しい基礎を叩き込んでやる!」
この爺……エリザ共々いつか復讐してやる!
我はエリザに監視されながら、訓練所の隅っこで素振りをする羽目になった。
素振りを終えると辺りは暗くなり、寒さが一層増していた。
我は、急いで家に帰った。
「ただいま」
ドアを開けると中は温かく、かじかんだ手に感覚が戻っていくのを感じる。
そしてリズが暖かく迎えてくれた。
「おかえり。遅かったわね。今日もエリザちゃんと稽古してたんでしょ?」
「あぁ……うん」
「そう、偉いわね。今日はレオの好きなシチューを作ってあるからね。早く着替えていらっしゃい」
我はシチューと聞き、気分が高揚した。
明るく「うん」と返事をし、自室に戻り家着に着替えた。
食卓へ行くと、シチューとパンがあった。
パンはカチカチだが、シチューに浸すと柔らかくなってウマい。
魔王時代の豪華な食事と比べれば質素だが、それに勝るモノがこの食卓にはある。
それは「共に食事する者達の存在」だ。
魔族に生まれてから食事はずっと一人だった。
それは魔王になってからも同じ。
側近達が後ろで一言も喋らず待機し、食事の補佐をするだけ。
ただ黙々と食べる事に、何か物足りなさを感じていた。
その答えが、今になってわかった気がする。
食事中、トーマは酒を嗜みながら、毎回くだらない話をして食卓を和やかにする。
酔っぱらって同じ話をする事もあるが、リズは初めて聞いたかの様に笑顔で受け答えする。
そんな両親を見ていると「くだらん」と思うのだが、何故か心が和む。
その感情が、食事の味を更に引き立たせていると、最近になって感じるようになった。
人間とは本当に不思議な存在だ。
飯を食い終わると、睡魔が襲ってきた。
エリザ達の訓練で疲れている事もあり、我はすぐに床についた。
深夜
「カンカンカン!」と鐘を鳴らす音が村中に鳴り響く。




