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第2話 魔王、7歳になる。

 我は魔王から「レオ」という軟弱な人間に生まれ変わり、7歳になった。


 今では四足歩行から二足歩行で歩けるようになり、言葉も発せられる。

 口から歯も生えてきたが、「同い年の暴力女」のせいで、前歯が一気に無くなった。

 人間は一回だけ歯が生え変わるらしいが、流石に「上下2本づつ歯がない」のは滑稽である。


 我は、リズ譲りの茶色の髪に整った顔立ちをしており「レオ君は可愛いね」「将来は美男子になるわ」と評判だった。


 しかし、歯抜け面になってからは一変。

 周囲に笑われるようになり、自分で見てもマヌケに見える。


 それにしても人間は、なんて弱い生き物なのだろうか?

 

 体力もなく転んだだけで皮膚は剥け、出血する。

 しかも身体は異常に敏感で、痛みや熱、冷気を浴びただけで死にそうな気分になる。

 更には毒(風邪)の耐性もなく、数日動けなくなるというポンコツっぷり。


 だが、赤子の頃はもっと酷かった。


 まともに動く事も困難な上に勝手にクソを漏らし、小便も駄々洩れ。

 自分でケツを拭く事もできず、トーマとリズが毎回掃除していた。


 しかも!


「大きなウンチでしゅねぇ」とか喜んで掃除するもんだから、「コイツらは元奴隷か?」と勘繰ってしまった。

 後々わかった事だが、人間の世界では普通の事らしい。


 しかし、人間には本当に驚かされる。

 こんな下等生物が、我(魔王)を倒すほどに成長するのだからな!


 まぁ、軟弱で謎の多い人間だが、良かったと思う事もあった。


 それは「ミルク」である。


 赤子の時にリズの乳を無理矢理飲まされたのだが……我は驚愕した。


 世界中にある様々な美酒を味わってきたが、あれほど体が欲する飲み物は初めてだった。

 

 それからというもの、我はミルクに目がない。

 リズの作るシチューは「至高のスープ」と過大評価しており、寝る前のホットミルクは欠かせない。

 今ではミルクを出せる牛にも敬意を払うほど、毎日美味しく頂いている。


 それはさておき。


 我はこの7年の間に、この世界の状況を調べ続けた。


 その結果、「今は魔王(我)が死んでから、57年後の世界」という事がわかった。


 そしてここは、大陸最北端にある100人程度の人々が暮らす小さな村。

 名を「ウシク村」といい、年中雪が降る寒い環境下にある。


 今も家のテラスから外を眺めているが、辺り一帯「雪景色」。

 防寒具を着ていないと、まともに外も出られんほど寒い。


 天候の悪い日は雪で視界が見えず、非常に危険。

 村の外にはグリズリー(雪熊)や狼と言った魔物いて、時々村を襲撃する事もある。

 その為、村は厚い木の壁で囲われ、自警団も組織されている。


 何故こんな不便な場所で暮らしているのか……色々知る内に驚愕な事実を知った。



 あの勇者カイラスが「極悪な世界の支配者」になり、民を苦しめていたのだ!

 


 勇者カイラス。 


 ヤツは魔王を倒した後、人々から「英雄」と称えられ、母国の姫と結婚し、その数年後には国王となったそうだ。

 

 しかし、その後のヤツの行動が最悪だったらしい。


 周囲から持ち上げられて有頂天になり、冒険者の頃には味わえなかった贅沢な暮らしに味を占めた。


 そんな日々がヤツを堕落させ「強欲な王」へと変わってしまったらしい。

 

 そして、一度火の着いた欲は留まる事を知らず、他国を侵略。

 各国は反旗を翻したが、相手は「世界最強の男」。

 ヤツは力で各国を捻じ伏せ、世界の支配者になった。


 そしてヤツは自分の地位を盤石にする為、多くの女に自分の子を産ませた。


 生まれた子供達は父を崇拝し、ヤツのクソな性分と強さを色濃く受け継ぎ、今は「一国の王」として各国で私欲の限りを尽くし、民を苦しめているそうだ。


 そんな環境から逃げ出す者は後を絶たず、この村もそういう「避難民が集まって作った村」ってわけだ。

 

 まぁ今の軟弱な我にとって、ここは格好の場所。

 大人になれば肉体も強くなり、記憶以外に力も目覚めるかもしれん!


 それに我が大人になる頃、カイラスは80過ぎの爺!

 足腰にもガタがきて、まともに戦う事もできまい。

 ヤツの懐に入り込み、我をこんな姿にした罰を、死を持って償わせてやる!


「フハハハハ!」


「おーいレオ」


 庭で薪割をしているトーマが呼んでいる。


「急に笑い出してどうしたんだい? 暇だったら父さんの薪割り手伝ってくれよ?」


 手伝えだと? 人間如きが生意気な……。


「嫌だ!」


「しょうがないな。じゃあコレでどうだ?」


 トーマはポケットから紙に包まれた小さな物体を見せる。


「キャラメルか!」


「そう。レオの大好きなミルクたっぷりのキャラメルだ」


 ミルクたっぷりだと……くぅぅ、だが甘い!

 たった1個でなびく我だと思うな!

 

 そっぽを向くと「レオ」とトーマが呼ぶ。

 トーマはポケットからキャラメルを3つ出した。


「これならどうだ?」

 

 3つだと! ちぃ、交渉上手め!


「今行く!」


 我はテラスから庭に出て、トーマの薪割の手伝いをした。



 このウシク村の住人は、協力し合い暮らしている。


 狩りをする者、村を守る者、田畑を育てる者、食材を加工する者。

 他にも魔物から得た毛皮等を遠くの街で売り、得た金で必要な物を購入する事もある。


 我が家はリズが衣類の仕立て、トーマは食材加工の仕事をしている。

 

 あのキャラメルは、トーマの趣味で作ったもので、お菓子以外にも酒の製造もしている。


 ここに来る前、トーマは大陸南部で「酒造の仕事」をしていて、発注先の酒場の看板娘だったリズと出会い、恋に落ちたそうだ。

 

 トーマの酒は非常に評判だったのだが、それが裏目に出た。


 その国の王(勇者の息子)に気に入られ、毎月大量の酒を無料で納める事を虐げられ、リズと共にここへ逃げて来たらしい。

 それから数年後、我が生まれたそうだ。



 そんなこんなで、薪割の手伝いは終了した。


 約束通りトーマから報酬のキャラメルを3つ貰った。

 早速1つほおばり、至福の一時を噛みしめた。


「ごめんください」


 玄関の方から女の声が聞こえる。

 その声を聞いた途端、一気に血の気が引いた。


 玄関の方を見ると、そこには防寒具を着た「赤毛の少女」が立っていた。

 眼の大きな可愛らしい顔をしているが、実際は違う。悪魔だ。


 ヤツは「エリザ」。

 我の歯をへし折った、万死に値する女である。


 ……よし、逃げるか。


 我は静かに庭から移動し、家の中へ入ろうとする。


「エリザちゃん、レオならここにいるよ!」


 トーマが手を振りながらエリザに声をかける。

 するとエリザは、嬉しそうにこっちへ移動する。


 このバカ! なぜ悪魔を招き入れる! 

 息子の歯をへし折った暴力女だぞ!


「おじ様、こんにちわ。ねぇレオ、今日の稽古はどうしたのかしら?」


「あぁ……お腹の調子が悪くて」


「そうなのか? 薪拾い手伝ってくれたのに?」


「ふーん。つまり、仮病ってわけね?」


 我は反論せず、家に逃げ込もうとすると、後ろからエリザに掴まる。


「やめろ! 離せ!」


「離すわけないでしょ? さぁレオ、一緒に稽古するわよ! おじ様いいですよね?」


「もちろん。夜までには帰ってくるんだぞ」


「我が子が可愛くないのか! 死ぬかもしれないのだぞ!」


「何を大げさな。気をつけてな」


 トーマは笑顔で手を振っている。


 なんだその笑顔は! ふざけるな!


 我はそのままエリザに引っ張られ、家の外へと連れて行かれた。


 

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