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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第四章▼仲間と初めてのイベント▼

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第94話『いざ参らん!』

 少し短めです。

「あと、検証系では観測箱というグループが注目されているそうだ。ここは主に罠、宝箱、隠し部屋、難易度変化の条件なんかを調べる予定らしい。今回の探索達成度については、かなり熱心に追うみたいだね」


 検証班かあ。私は他の多くのプレイヤーが知り得ない情報をかなり所持している自信があるが、これをチラつかせて翻弄するというのも面白そうだ。機神視点での歴史観を仄めかしてプロパガンダのスピーカーに仕立てあげたり……は流石に難しそうか。そこまで阿呆ではあるまい。


 まあ、なんらかのカードに使えそうではある。それにしても頭が下がるな、このゲームは奥が見えないから、敢えてそこに踏み込む人達には素直に尊敬だ。


「助かるね。私たちが踏まなくていい罠を、代わりに踏んでくれるかもしれないし」


 ヤトが苦笑した。


「まあ、実際そういう役回りを買って出る人たちではあるみたいだけどね」


「もちろん敬意はあるよ。自分の身体で世界の仕組みを確かめる人間は嫌いじゃないし、回り回って私たちに無視できない影響を与え得る何かを掘り出してくるかもしれないからね」


 卓の周りになんとも形容し難い笑いが落ちた。ヤトはメモを閉じかけ、ふと思い出したように指を止める。


「それと、これはあくまでも噂だけど」


 注意を集めるためか、その声が少し低くなった。


「今回のイベント中、もしかしたら時間加速技術の試験が入るんじゃないかって話が出ている」


「時間加速、ですか」


 モリアが聞き返す。ロヨンも眉を寄せたが、住人である彼には話の輪郭が掴みにくいらしい。


「フルダイブ中の主観時間を、現実より少しだけ速く進める技術だね。前から研究されているけど、脳への負担がかなり大きいんだ。完全に制御できた技術とは言われていなかったはずだよ」


 一見フルダイブ技術があるのだから、とも思えるが、話はそう簡単ではないらしい。数々の犠牲を基に生み出されたフルダイブ技術ではあるが、それと同じように時間加速の技術には多くの犠牲が不可欠だと言われてきた。


 業界にそんな話があるせいで、どの企業もファーストペンギンにはなりたがらなかったという現実がある。なまじドリーム・スケイルの歴史を知っているだけに、その足は重くて仕方がなかっただろう。


 そんな中でも技術研究を進めたのが、我らがドリーム・スケイルだ。内側の話は微塵も聞こえないのでどう言った実験や研究が行われているのかは全くの未知数なのだが、最近かなりのブレイクスルーがあったという報道が話題になっていたはず。


 ポラリスはドリーム・スケイルの傘下企業なので、その技術を試すということも無くはないのだが……、まだ未完の技術だろう?流石に噂に過ぎないとは思うが。


「ただし正式発表はないよ。掲示板でも噂の域を出ていない。イベント用のインスタントダンジョンなら、区切られた環境で試しやすいんじゃないかって、一部の検証勢が盛り上がってるだけみたいだね」


 そういうことね。まあ、なくはないけど……、という話か。


「なるほど」


 私は短く答えた。


 面白い、と口にするのは簡単だが、現実の脳に負荷がかかる話なら、軽く扱うには少しばかり重いテーマだ。なにせ下手したら人が死ぬ話だからね。仮に有り得るとするなら、既に加速技術が完成しているか、あるいは脳に影響が無いような所まで進展したか。


「では最後に、ルイスさんですね」


 モリアの視線が私の腰へ向く。ロヨンも同じく、骸へ目を留めていた。


「新しい得物ですかな」


「うん。銀牙の残骸と手持ちの素材で作った。名前は骸」


「骸」


 ヤトが小さく復唱した。


「武器として聞く名前じゃないねえ」


「コイツの材料を考えれば、きっと妥当だと思うはずだよ」


 私は骸を鞘代わりの固定具から外し、卓にぶつけないようゆっくりと刃を見せた。灰色の刃元から赤黒い刃先へ、鈍い光が流れる。銀索蜘蛛の硬質な殻と、溶岩蜥蜴の殻を抱えた素材が、無理やり一つの形に押し込まれている。当たり前だが騎士剣のように綺麗な剣ではない。だが、手にした時の収まりは随分と馴染む。


「簡易鑑定はこんな感じだ」


 私は骸へ意識を向け、表示された内容を共有する。


 ▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼


【PM】骸

 ┗銀牙の残骸、銀索蜘蛛、溶岩蜥蜴、白結晶を用いて作成された片刃剣。左腕での運用を前提に重心が調整されており、斬撃時の衝撃を一点に集中する力を持つ。その素材故か、熱によるダメージをある程度抑えることができる。


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


「随分と物騒な仕上がりですな」


 ロヨンがしみじみと言った。


「物騒なモノを斬る予定だからね。でも、どう?似合うと思わない?」


「まあ、似合うか似合わないかで言えば、間違いなく似合っているわね」


「……もう少し品よく見える努力をしようか」


 モリアは小さく息を吐き、ヤトが脱力したように肩を落とす。ロヨンは相変わらず愉快そうに肩を揺らしている。


 昼食を取りながら、私たちは明日の流れを詰めた。イベント開始は正午。混雑を避けるため、少し早めに集合する。初回は無茶をしすぎず、星一つを基本線にする。探索達成度を意識しつつ、一旦は速度は捨てる。ロヨンの命は一つなので、撤退判断は迷いなく早めに行う。それぞれの役割については、実地の経験を踏まえつつ考えていく。


 うん、こんなところかな。


「では、明日は正午前にここへ集合しましょう」


 モリアがまとめる。


「そうだね。あまり遅くまで動いて、現実側の疲労を残すのも馬鹿らしい。今日は早めに休もう」


「私もそうするよ」


「儂も荷を整理したら休ませてもらいますかな。明日は長くなりそうですゆえ」


 方針が決まると、フッと空気が和らいだ。思いのほか真剣に話し合っていたらしい。周りは相変わらずガヤガヤと賑やかだが、その熱気がイベントへ向けて研ぎ澄まされていっているのを感じた。


「明日、頑張りましょう」


 モリアが静かに言う。


「うん。私はまず、足を引っ張らないようにするよ」


 ヤトが苦笑しながら続ける。


「儂も、老骨に鞭打つとしましょう」


「頼りにしてるよ」


 私は卓に残った水を飲み干し、皆を見た。


「明日は、いのちだいじにをモットーにしよう」


 言葉にすると、改めて思った。ロヨンを死なせるわけにはいかない。じっくりと進めよう、と。


 食事を終え、それぞれに荷物を分けて各自の部屋へと戻る。階段を上がる途中、下の食堂からはまだ旅人たちの声が聞こえていた。星三つだ、ランキングだ、報酬だと騒ぐ声。明日、そのうち何人が笑って戻るのかは分からない。やはり油断はするべきではないな。


 部屋へ入り、扉を閉めると、外の騒がしさが薄い板一枚の向こうへ遠ざかった。私は骸を壁際に立てかけ、念の為にとインベントリと装備を確認する。アレコレと考えながら、寝台へ腰を下ろす。


 私はシステムメニューを開き、ログアウトを選択した。


 すると、徐々に部屋の輪郭が淡く溶ける。木の壁も、窓から差し込む昼の光も、壁際の骸も、順に薄い膜の向こうへ沈んでいく。


 スっと暗転。


 そして、意識は再び現実へ浮かび上がった。

 さて、明日からはイベントを更新します。少し長めになる予定ですので、ぜひお楽しみに!

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