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〈Genesis of Anomaly〉〜恩寵という名のデバフを盛るほど強くなるVRMMOで、盛れるだけ盛ったオンボロ機械兵器のお話〜  作者: 月麗 ジアマリ
第四章▼仲間と初めてのイベント▼

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第91話『第一回イベント告知』

 明日の日本対チュニジア、テレビに齧り付いて応援する予定です!皆さんも楽しみましょう!

 目が覚めると、まず右腕の重さが戻っていることに気づいた。


 このところ、ログアウトの度に似たような違和感を味わっている。いい加減慣れてもよさそうなものだが、ゲーム内での欠けた腕の感覚というのは、現実へ戻った直後の身体にまで影を落とすらしい。布団の上で指を開閉するだけでも、骨と筋肉と血の通った腕がそこにあるという事実を妙に意識してしまう。


 見慣れた天井の下で、薄い照明が部屋をぼんやり照らしていた。部屋の端に投げていた上着も、机の上に置いた飲みかけの水もそのままだ。視界にシステム表示はなく、マリーの報告も聞こえない。耳へ届くのは、空調とドリーム・スケイルの冷却音が低く続く音のみた。


 私は右手をもう一度握り、ゆっくりと開いた。存在してしかるべき腕がようやっと戻ってきたと認識している時点で、既にだいぶ毒されている。機械の身体で過ごす時間が長ければ長くなるほど、逆に現実の感覚が鈍くなっていくのだろうなあ。


 横にあるパネルを弄ると、ドリーム・スケイルの蓋がゆっくりと開き、空調を働かせてなおこの箱の内部に籠もっていた空気が外へ逃げていく。側面の表示灯は穏やかな青を保っていて、バイタル異常も接続不良も示していない。


 意識を深く沈め、身体の感覚を遠ざけるフルダイブでは、その間の呼吸や心拍、姿勢、体温を機械側が細かく見張っている。


 そう考えると、フルダイブの際に聞こえる睡眠導入の声や、身体の輪郭が柔らかく解けていくようなあの感覚を、多くのユーザーが睡眠の代用品にしたがる理由も分からなくはなかった。


 しかし、フルダイブは眠ったことにはならないからね。なんたって脳は常にフル稼働しているわけだし。現実側の疲労は現実側で処理しなければならないのだ。ポラリスのゲームで痛い目を見る分には構わなくても、現実の身体を壊してログイン時間を削るのは馬鹿馬鹿しい。


 上体を起こし、グルリと右肩を回すと、ポキポキと肩関節が小さく鳴った。


 苦笑しながら立ち上がり、机の水を飲み干す。思ったより喉が乾いていた。ゲーム内で美味しい食事も水も楽しめるが、現実の補給とは全くの別枠だからね。そんな基本を忘れるほど子供ではないつもりでも、GoAの密度は時々その境目を曖昧にしてくるから困る。


 部屋の時計を見ると、午後八時を少し回っていた。


 腹は現実側できっちり減っている。私は隅に置かれた上着を椅子に掛け、台所へと向かった。冷蔵庫には少しの野菜と、昨日買った牛肉がある。凝ったものを作る気力はないが、何も食べずに寝る選択肢もない。


 よし、肉、焼くか。


 フライパンに油を引き、肉を入れると、じゅう、と腹に響く匂いが立ち上がった。小麦香る楠亭に漂う鮮やかな香りとは程遠い雑で油っぽいものだが、これはこれで悪くない。肉の色が変わるのを見ながら、今日の成果を頭の中で並べていく。


 そんな時、リビングの机に置いた携帯端末が短く震えた。


「ん?」


 火を弱め、端末を取りにリビングへ戻る。そのままソファに腰を掛け、端末を眺める。通知をONにしている対象は少ないので、それすなわち重要なことであるというわけだ。通知の中にGoA公式アプリがあり、そのロゴの下に赤い丸がついていた。


 このタイミングか。んー、何かあったか?


 気になって詳細を確認すると、どうやら第一回イベントの告知であったようだ。


 ……ん、なるほど。


 サービスを開始してからの最初のイベント情報を飯時のこの時間に投げてくるのは、敢えてログアウトするプレイヤーが多いこのタイミングを狙っているからか?夕食を作る手を止めさせるには、なかなか良い時間だし。


 私は急いでフライパンをとろ火にし、肉の状態を確かめながらアプリを開いた。


 第一回公式イベント開催、と。


 ▼公式告知▼


 サービス開始三ヶ月の節目を記念し、第一回公式イベント【境界迷宮踏破戦】を開催します。


 期間は七月十一日正午から七日後二十三時五十九分まで。期間中、全てのプレイヤーまたはグループは本イベント専用の特設拠点へ移動します。そこで利用できる機能を使い、本イベント用の特殊領域である境界迷宮インスタントダンジョンへアクセスすることが可能です。プレイヤーは任意の難易度を選択し、できる限り多くのボスを撃破してください。


 難易度は☆〜☆☆☆☆☆☆。現在の平均攻略状況では☆〜☆☆を推奨します。☆☆☆以上への挑戦も可能ですが、攻略を保証するものではありません。


 境界迷宮を攻略することで本イベント専用のDPダンジョンポイントを獲得可能で、それと引替えに貴重なアイテムや素材と交換を行うことが可能です。


 本イベントでは各種ランキングを設ける予定です。ボス撃破数、攻略難易度、攻略速度、探索達成度、その他情報を集計します。


 イベント終了時点の順位に応じて、更に多くのDPを得ることが可能です。


 インスタントダンジョン内で撃破した敵性存在は、通常の腑分けを行わず、システムドロップとして各種素材やアイテムを獲得できます。ただし、素材獲得量は通常の腑分けよりも減少する仕様です。


 ダンジョンの構造、出現する敵性存在、宝箱、罠、報酬内容は入場ごとに変化します。また、選択した難易度および攻略中の行動に応じて、ダンジョン内容が変化する場合があります。イベント期間中の死亡、装備破損、状態異常、所持品消費は通常仕様に準じます。


 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲


 私はしばらく画面を見たままフリーズしてしまった。


 なるほど、第一回公式イベントか。内容は非常に分かりやすい。インスタントダンジョンを攻略し、奥のボスを倒す。得られたポイントで景品と交換。撃破数、難易度、速度、探索達成度などでランキング順位を競う。最初に行われるゲームのイベントとしては王道に近い、か?


 これがGoAでなければ。


 ジュ〜という音が聞こえたため、慌てて肉をひっくり返すために台所へ戻り、端末を専用のラックに立てかけた。


 それにしても、気になる点が多いな。


 まず難易度が六段階ある。現在の平均攻略状況では☆〜☆☆を推奨、と丁寧に書きながら、☆☆☆☆☆☆まで用意しているのは何事だ?


 挑戦は可能だが攻略を保証しない。扉は開けておくから、入りたい者は勝手に入り、死ぬなら自己責任でどうぞ、というわけか。


 次にランキング条件だが、ボス撃破数だけなら間違いなく低難易度の高速周回が強い。攻略難易度と速度を入れるのも分かるが、問題は探索達成度だ。最短で走るだけでは拾えない何かを、運営が用意しているように思えてならない……。


 なんせポラリスだからね!


 それが宝箱か、隠し部屋か、特定条件で変化するボスか。それはお楽しみって感じかな。


 選択した難易度および攻略中の行動に応じて、ダンジョン内容が変化する場合があります。この一文が特に良くない。攻略中の行動に応じてダンジョンの内容が変わるなら、プレイヤーの癖や欲を見抜いてくる可能性もあるのだろう?


 石橋を叩いて渡る者には予想外の殺意を、欲張る者には悪辣な罠を、殺戮を是とする者にはより強い敵を。そういう調整を、ポラリスなら平気で入れるに違いない。そういう長年の信頼がある。


 ドロップの仕様も面白い。通常のGoAでは、倒した相手から素材を得るために腑分けをする必要がなる。サンクティンの廃墟で蜘蛛の脚を剥ぎ、地下施設で残骸を漁り、使える部位を探してきた。倒せば自動で素材が出るゲームではなく、倒した後に何を持ち帰るかまで遊ばせる世界だ。


 それをイベント中はシステムドロップにするというのた。便利だし、周回のテンポも良くなる。回復や補助アイテムまで落ちるというなら、現地調達も想定されているのだろう。その代わり素材獲得量は減るようだ。


 イベントを遊びやすくしながら、普段の泥臭さも残しているあたり、親切と不親切の境目に立ってこちらの顔を見ているような調整だった。


 焼けた肉を皿へ移し、野菜を添える。昼に作った先祖代のレシピ通りの味噌汁を温め直し、レンチンした冷凍白米を茶碗によそってから机へ運ぶ。


 椅子に座ると、ふと小麦香る楠亭の夕食を思い出した。あちらの食事は、現実ではないくせに妙な満足感があったなあ。それになによりも賑やかだった。今とは大違いだ。


 箸を取り、肉を一切れ口に入れる。少し焼きすぎたが、まあ食べられればいい。味も普通に美味しい。


 食事をしながら告知の内容を端末のカレンダー機能にメモだ。開催日時は七月十一日正午。ということは、明後日か。期間は一週間。情報を出し合い、攻略法を固めるには十分な長さだ。ランキング狙いは初日から走るだろうし、高難易度へ突っ込む者も必ず出る。


 死亡、装備破損、状態異常、所持品消費は通常仕様。


 私はこの一文に目を留めた。イベントだから安全、という甘えは許されないようだ。装備を壊せば壊れる。薬を使えば減る。死ねば通常の死亡処理が入る。


 うーん……、私の初デスはこのイベントになるかもしれないな。


 一見必要な情報は揃っているように見えるが、こういうのは揃っているように見える時ほど書かれていない部分が気になるものだ。


 それにしても、境界迷宮か。


 GoAで境界という言葉を使うなら、嫌な解釈はいくらでもできるな。ポラリスが第一回イベントに選んだ名前だし、単なる周回用ダンジョンで終わらせる気は薄いように思えた。


 公式アプリ内からも見ることができるGoAの掲示板には、早速アレコレと感想や議論が巻き起こっているようだ。やんややんやと大変賑やかで宜しい。


 食器を片付け、風呂へ直行。髪を乾かしながら歯を磨き、そのまま部屋に戻る。時計を見ると、時刻は既に九時半に近い。思いのほか長く夕食を楽しんでいたらしい。今からログインし直すこともできるが、今日はやめておいた方がいいか。脳を使い過ぎたからか、現実の身体が休めと言っている。


 私はドリーム・スケイル側の簡易メニューを開いた。睡眠補助モード。フルダイブ接続なし。バイタル監視あり。起床時刻指定可能。ゲームへ潜る時と同じ機械を眠るためだけに使うのは妙な気分だが、この機械はそういう機能も備えているのだ。


 うーん、明後日かあ。


 装備の点検、消耗品の用意、アイランドへ戻るかどうか、各種消費アイテムの確認と、やることが山ほどある。ああ、小祭壇も……。まあ、それはイベント後で良いか。


 私は告知をもう一度開き、難易度の欄に並んだ星を眺めた。ひとつ、ふたつ、みっつ。推奨範囲を過ぎても星は止まらず、最後には六つまで用意されている。


 見せられたら気になるし、挑戦できると書かれれば入りたくなるのがポラリスユーザーの性だ。そこへ警告文まで添えておけば、挑んで死んだプレイヤーに対しても、運営は胸を張って言えるだろう。私たちは推奨していませんよ、無様に死んだのはあなた達の選択の結果ですよ、と。


 そうやって醜く死んでいく我々の姿を天上より眺めて嘲笑するつもりなのだ。うん、間違いない。


 端末を枕の横に伏せ、部屋の照明を落とした。蓋を閉じる前に起床時刻を設定する。イベント開始は明後日だが、準備は可能な限り早めに始めたい。睡眠補助モードを選び、フルダイブ接続が切られていることを確認した。


 機器の蓋が静かに閉じ、外の常夜灯の光が細くなっていく。内部の気温が快適なものに調整され、枕の位置が自動で整う。耳元で、柔らかな合成音声が響く。


「睡眠補助を開始します。琉生様、良い休息を」


 目を閉じると、六つの星が瞼の裏に残った。白く、冷たく、こちらを誘うようにそれらが並んでいる。

 というわけで、第一回イベントです。


 プレイヤー同士によるトーナメント形式のバトルと迷ったのですが、最後の最後でこっちの方へ舵を切りました。プレイヤー同士の戦いは次回のイベントかなあ。


 それから、もちろん料理は手作業です。自動調理などもあるのでしょうが、それに寂しさを覚える人も多くいるはずですので、きっと手料理が淘汰される日は来ないでしょうと予想してこういった描写にしました。

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― 新着の感想 ―
いつも楽しんで読ませていただいております 仲間が増えるごとに、癖の強さにわくわくが止まりません 生来の虚弱民として、共感できる所とできない所に一喜一憂しております 油+牛肉が楽しめるなんて、肉体は弱…
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