第9話『廃ビルの外』
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そうして幾分か気力を回復した後、残りの階を慎重に探索した。地上一階に到達すると、その荒れ果てた光景に思わず息を呑む。
エントランスは尽く粉砕されていた。家具やインテリア、床には大量の煤が付着し、ところどころに砕け散ったガラス片が転がっている。
焦げ付いた臭いと、何かが腐ったような嫌な臭いが混ざり合い、思わず顔を顰めた。ぱっと見た限りでは、それらしい物体は見当たらない。恐らく、この空間そのものに染み付いた臭いなのだろう。
歩みを進める。
何者かが暴れ回って破壊したとしか思えない惨状を確認しつつ、やがて派手に大破した扉の前に辿り着いた。
その扉は、恐らく特殊な金属でできていたのだろう。だが、フレームは衝撃によって歪にひしゃげ、さらに高熱によって融解しながら吹き飛ばされているため、詳細な判別は難しい。
扉に使われている以上、相当頑丈な建材であったはずだ。そう考え、ある程度の大きさの残骸を回収するが、それでも僅かな量しか集まらなかった。
このエントランスの惨状から推測するに、怪物はまず金属を融かすほどの熱を纏って扉へ突進し、そのまま強固な防御を突き破ったのだろう。
その後、この場にいた人間を血煙へと変えながら暴れ尽くし、二階以上へは上がることなく去った……といったところか。
二階へ上がらなかった理由として考えられるのは三つ。
一つ、怪物の纏う熱がコンクリートすらドロドロにする温度であった可能性。
二つ、既に目的の獲物がそこにいなかった可能性。
三つ、階段のような複雑な構造を登るのに適した身体ではなかった可能性。
いずれにせよ、このビルの外には、とんでもない怪物が存在していることは間違いない。今の私の体では、接近されるだけで溶けてしまうだろう。
これはきちんと調べないとまずい。中途半端な状態で旅に出れば、いずれこの惨状を引き起こした怪物以上の存在に、確実に苦しめられる。
よし。ここをもう少し探索した後、外へ出よう。
そうして一階部分を探索した結果、以下の物が見つかった。
▼探索の戦利品▼
♦扉に使われていた謎の金属片×3
♦砕け散ったガラス片×10
♦特殊な形状をしたペン×3
♦ギリギリ使えそうな紙×約30枚
♦何者かの繊維片×1
♦何者かの体毛×4
気になる物をいくつか鑑定したところ、面白いものがあった。
謎の金属片は「祓呪鉱石」と呼ばれるもので、この世界では魔を打ち祓う力を持つとされる鉱石らしい。実際にそうした効果を持つ上、加工しやすいのが特徴のようだ。おそらくその性質に肖って門や扉に使用されてきたのだろう。
特殊なペンは、軽量で加工しやすい木材と、「感応鉱石」と呼ばれる金属を組み合わせたものだった。フォルムも洗練されており、まだ使えそうな三本を拝借しておく。
繊維片と体毛は、恐らく同一種の生物から剥離したものだ。繊維片は掌ほどの大きさで、表面は黒く濁り、ざらついている。
体毛は非常に長く、肘から指先ほどの長さがある。硬く太く、先端は鋭利だ。これを何百本と束ね、自在に振り回せば、それだけで十分な武器になるだろう。
もしこれが、この大惨事を引き起こした怪物のものだとすれば、やはり外の世界は、危険な生物で溢れている。
「よし……行けるところまで行ってみるか」
無事に帰れる自信などない。だが、行かなければ何も始まらない。ならば、何があろうと最初の一歩を踏み出すだけだ。
掲示板から得た情報によると、リスポーン地点は更新しない限りは生まれ落ちた地点らしい。私の場合は箱の中だったのだが、あれは既に回収済みなので、その座標と同じところにポンと投げ出されるのだろう。
私の身に何かがあれば、またこのビルからやり直しだ。
幾分かマシになった体で大破した扉を越えると、まさにコンクリートジャングルと呼ぶに相応しい光景が広がっていた。
前後左右、どこを見ても天高く聳える廃ビルが乱立している。その合間を縫う通路には、かろうじて整備されていた痕跡が残っていた。
目の前には広い空間が広がり、錆びつき風化した低いフェンスが、わずかに動線を保っている。
ぱっと見た限り、モンスターの姿は確認できない。だが、それらが暴れた痕跡なら至るところに残っている。
近づかなければ詳細は分からないが、目の前のビルのエントランスには、ビームでも撃ち込まれたかのように、向こう側まで貫通する穴が空いている。
その他にも、多種多様な怪物が暴れ回ったとしか思えない痕跡ばかりだ。それなのに、その姿が一切見えないことに、強い違和感を覚える。
「とりあえず……適当に歩いてみるか」
広場を抜け、なんとなくで左へと進む。
通路の突き当たりには背の低い建物があり、比較的状態が良さそうだ。これなら探索には向いているだろう。
左右の不気味なビルに挟まれながら慎重に進み、周囲を観察しつつ目的地へ到着する。
突き当たりはT字路になっており、その先には再び広場が見える。両端には朽ちた木が立っていて、かつての風景をかろうじて想起させた。
中腰のままアプローチを進むと、玄関らしき扉の前に出た。扉は金属製で、ドアノブの上には見たことのない装置が取り付けられている。
地面にも同じ装置が落ちている。恐らく、ドアノブの上にある装置の対になっていたものだろう。ひとまず収納しておく。
「さて……鍵が開いていることを祈るか」
そう呟き、ドアノブを回す。
ガチャリという音とともに、呆気なく扉は開いた。
一瞬呆けたものの、わずかに開いた扉をゆっくりと押し開く。
ドアは長年の放置を物語るように、不気味で耳障りな音を立てながら開いていった。
開いたドアから吹き込んだ生温い風に吹き上げられ、ムワッとした嫌な空気と共に大量の埃が舞い上がった。
室中は、どうやらホールだったらしい。左右には受付の痕跡があり、床には朽ちて色褪せた赤いカーペットが敷かれている。
「どうやらここは襲われなかったようだな」
比較的綺麗な内装を眺めながら進むと、装飾の施された扉に行き当たり、その先には一際広い部屋があった。
室内は驚くほど綺麗で、埃こそ積もっているものの、今にも誰かが寛ぎ始めてもおかしくない雰囲気だ。
辺りを具に観察すると、何冊かの本と、書き置きのような手紙、そらから慌てて書き殴ったような地図を見つけることができた。
GoAは昨今スタンダードなVRMMOと同様に自動翻訳機能がついているので、態々言語スキルを習得したり訓練したりする必要はない。大変便利で助かる。
本はそれぞれ「サンクティンの習俗」、「アーミル詩集・改訂版」、「利用者名簿」だ。まさかと思って開いてみたが、ちゃんと読むことができる。やはりどの本もテクスチャだけ貼ったチープなものではなく、しっかりと作り込まれているらしい。
これらから「サンクティンの習俗は」この街サンクティンについてのことが詳しく書かれていた、「アーミル詩集・改訂版」は、アーミルなる女性の素朴な詩が大量に収録されている。
これは私にはあまり価値のないものだが、どこかの蒐集家には高値で売れるかもしれない。
「利用者名簿」はこのホールを管理していた人がまとめていたもので、独特な響きの名前や日時らしきものがビッシリと並んでいる。
書き置きの手紙には「何かしらの脅威に晒されたため、皆よりも少し早めに避難する」という旨と、「あなたも早くパムヨンに来て」といった内容だ。
恐らくこの街をグチャグチャにした怪物達の襲来を察知して早めに逃げる予定の人が、残る人に向けて早く来るよう書き置きしたものだろう。
文脈や内容を鑑みるに、夫婦であるようだ。女性から男性に向け、気遣うような表現が多々ある。彼らが無事に再開できたかは分からないが、パムヨンという街にその痕跡が残っているかもしれない。
最後の殴り書きだか、「指定避難所」という震える文字と、乱雑に書かれた地図が載っている。地図には、奥まった通路が描かれていて、その最奥に「タザン商店」と「ガズリーの鍛冶屋」なる建物があり、両建物の間に大きな矢印が書き込まれている。
ここがその指定避難所とやらだった、ということだろうか?ふむ。宛もなく動き回っても仕方がないので、とりあえずこの避難所とやらを目指してみるか。
地図もかなり大雑把に書かれているので、少しは探索をしないといけないだろう。
このホールを探索し終えたら、向かうとするか。
広い部屋を抜け、手当り次第に使えそうなものを集めた結果、以下の物を手に入れた。
▼探索の戦利品▼
♦未知の装置(破損)
♦本×3
♦置き手紙×1
♦殴り書きの地図×1
♦朽ちた金庫
♦謎の木箱
このホールの管理人は貴重な物はあらかた回収してここを出たらしく、一見価値のありそうなものは残っていなかった。
ただ、硬く閉じた錆だらけの金庫と、なぜか小綺麗な布に包まれていた木箱が見つかった。木箱には何やら不思議な文字の書かれた綺麗な紙が貼られ、その上から麻紐でもぐるぐる巻きにされている。
麻紐の両端には赤色の不思議な形をした器具が括り付けてあり、それを組み合わせることで強度を上げているようだ。どう足掻こうにも片手では外せない複雑な形状をしている。
恐らく金庫は空だろうが、この木箱はかなり気になる。なぜなら鑑定が効かなかったからだ。開こうにもしっかりとした道具や設備がないと難しそうだ。
まあ後の楽しみにして、今は避難所探しだ。
なんと評価を押してくれた方がいました(T_T)
本当に本当に嬉しいです。
ブックマークも6、♡も15と、まだ全体で10話もないのに評価してくれる方が沢山いらっしゃって、それぞれに五体投地したい気分です。(執筆時26/4/13)
まだ無名もいい所の本作にいち早く目をつけてくれた皆様の期待を裏切らないよう、今後も精進を重ねていきます!




